|
「こちらで太陽を作っていると、聞いてきたんですが」 少年に声をかけられ、歳をとった博士はふりむいた。白いあごひげをなでる。 「もう作ってないよ。昔は作れたこともあったが、近ごろはとんと」 そう言って博士は研究に戻る。せっかくこのラボにやってきたのに、と少年は肩を落とした。 白い雲からのびた階段を窓の中から見た。青い空に浮かぶ球体のラボは、ときどき、そよ風に揺れる。 少年は、死んだ太陽しか見たことがなかった。今、空には、白い骨になった太陽が二つ、浮かんでいる。 昔は一つ、ぽってりと浮かんでいたらしい。 生きている太陽と死んでいる太陽が、二つで一つの対になって、追いかけっこをしていたそうな。 もう何年も前の、昔話。 新しい太陽を浮かべよう、と思って、少年は旅をしている。 「私も作ろうとはしてるんだがね。できるのは、ほら、こんなくず星ばかりだ」 試験管の中に、つやつや光る黒い石つぶが入っている。博士はそれに虹の破片と魚のなみだを加えた。 ほわん、と白い煙があらわれて消え、、試験管の底にきらめく氷のかけらが沈んでいた。 やれやれ。博士はそれを見てけわしい顔をして首を横にふる。足元のバケツに試験管の中身を捨てる。 少年はバケツをのぞきこんだ。 「わ。」ブリキのバケツの中に、またたきをくり返す星つぶがたくさんたまっていた。 内がわから光るこんぺいとうみたいだ、とつぶやく。 「空にまいてくるかい」博士が聞いた。 「まく?」 「星だからね。空にあるのがふさわしい」 「今空にある星は、博士がまいたんですか?」 「私のも、ある」 少年はバケツをもちあげた。行ってきます、と博士に声をかけ、すべるように空を歩いた。 博士は少年の背中に 「東の海のなかに、大きなラボがあるらしい。次はそこに行ってごらん」 と言って、壁のスイッチを『夜』に切りかえた。 すると、夜がおとずれた。 少年は、夜空にこしを下ろした。ひざの間に置いたバケツから、両手で星くずをすくいあげる。 手のはしから、あたたかに光るきらきらした星がいくつか、ころん、と軽やかな音をたてて落ちていく。 両手で大きく弧をえがくようにして、手のうえの光を夜空にほおり投げた。 星くずは少年の周りにぱっと広がり、やがてちりぢりになった。 少年は遠くで光ることにしたきらぼしを見つめた。 そして、自分のくるくるした髪に、一つだけひっかかっていた星つぶを見つけて、つまみ上げた。 ふわりと、まるくあわく、なめらかに七色に光る星が、少年のひとみのなかでまたたく。 少年は、そっと、あわい光をかくすように、きらぼしを手のひらで包みこんだ。 ―――きらぼしの手のひら――― |
全体表示
[ リスト ]


