きらぼしの手のひら

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そして骨を抱き西へ

私の名前は「巡」めぐり、という。周りの、学校の友達だとかお母さんと同じお店のお姉さんだとかは私のことを「めぐちゃん」と呼んだけど、お母さんは「めぐり」と呼んで、未春は「ぐりこ」と呼んだ。
未春のことを私は他の人たちと同じく「ミハル」と呼んで、未春は「ちゃん付けじゃないだけマシだ」とよく言った。

ドS

神様ってやつが本当にいるとしたら、とんでもないサディストだ。

「神様は乗り越えられると思った人にだけ試練を与える」とかよく言うけど、

そもそもなんで、試練を与えなきゃいけないのか。

私たちが試練に立ち向かって傷ついて行く様を見て、笑いたいだけなんだろう?

voice0

伝説が生まれる瞬間を目にしたことがある。

伝説ったって、世界が変わるわけでも何でもなかったわけだけど、それでも、あの瞬間俺の体中を駆け巡った身ぶるいは、俺の何かを変えるだけの力を持っていた。

偶然にも、俺は伝説を作る側にいた。

まあ、伝説になったのは俺じゃないんだけれども。

voice 3

また冬がやってきて、ようやく、俺はテツが死んだことを確認する覚悟ができた。
つまり、墓参りに行った。

手ぶらで行って、水を汲んでどうのこうのという作法もすっとばして、ただぼんやりと、墓石の前にしゃがんでいた。

俺なりの供養のつもりで、テツが作った歌を歌いながら、テツが最後に吸いたがっていた銘柄のたばこをときどき咥えた。

墓石に真新しく名前が刻みこんであるものの、その無機質なまでの造りに、本当に骨が入ってんのかなあ、というアホみたいな考えばかりが浮かんできた。

涙も出ない。雪も降りださない。ただどんよりとした雲だけが頭上に立ち込めて、吐く息が白い。

俺は歌うのもやめて、たばこの火を地面で押しつぶして、テツの名前を目でなぞっていた。

本当に死んだのか。


いつまでこうやってしゃがんでいるつもりなのか、と自分でも思い始めたとき、ごつっと、何かが、きっとやつの膝が、背中に押しつけられた。

「立てよ。歌うぞ」

テツの声が聞こえて、俺は振り返っていた。

voice 2

結局のところ、それから一カ月と14日後に、テツは本当に死んだ。

一度だけあいつが入院している間に、お見舞いに行ったことがあった。花束を持って行くべきなのか果物かごを持って行くべきなのか悩んで、最終的に借りっぱなしだったCDを持って行った。

白さだけが印象に残る病室で、テツは一人ベッドに横になっていた。いつものように何か口ずさみながら。

それが既存の歌なのか、テツが以前作った歌なのか、それとも即興ででたらめにうたっている歌なのか、俺には分からない。

ただいつも通りのテンションで、穏やかだった。
よう、と声をかけると、ちらりとこちらを見て、おう、と返した。

なにかどうでもいいようなことを話しては、ぽつりと沈黙が訪れた。そのたびに、テツの声が間を繋いだ。

俺がテツの見舞いにいって、やつが喜んだかどうかは正直よく分からない。

というのも、病室のドアのところでテツの顔を見たとき、その青白い顔とこけた頬と落ちくぼんだ目に、死のにおいを強く感じて、その後はまともに顔が見れなかったからだ。

心臓を強くつかまれた気がした。

「一か月延びたみたいだな」テツがどこかのタイミングでぽつりと落とした言葉を、俺は聞いているだけだった。
なにが、とは聞けなかった。

実を言うと、葬式にも行っていない。行かないことを申し訳なく思う気持よりも、死んだ後のテツの残りかすに会いに行くことを恐れる気持ちの方が強かった。

風の噂で聞いた話じゃ、やつは病状が悪化し、全く起き上がれなくなったころになっても、病室でたばこを吸わせろと、看護師とやりあったらしい。

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