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「勝手にしろよ!」
彼女は何か言いたげに口ごもるばかりで、やはり直接には何も言ってこない。
最後には「ごめんね」とだけ必ず行ってこれ以上の逆鱗に触れないようにその場から離れていくのがいつものパターンだ。
俺はそんな言葉が聞きたいんじゃなくて、彼女に消えて欲しいんじゃなくて、向き合って腹を割って自分の意見を素直に口に出して欲しい。ただ、それだけなのだ。
それさえも出来ないのなら、信頼関係における恋人なんて一生なれるわけがない。
「もういいよ、別れよう」
今日初めて俺から彼女を切り離した。罪の重い意識だけ抱えて生きる重圧に耐えかねて、まるで赤子が外の世界を見たときに衝撃が走る瞬間のような、それ程の感覚に飲まれた気がした。月明かりに照らし出された彼女の頬を流れる涙の滴はもう一度俺の手で拭って貰えるのを待ってる。
辛い時悲しい時、いつでも側にいたはずの隣の君は「・・分かった」と一言だけ言って、街路樹に阻まれて見えない暗闇の道へと残像を残して去っていった。その次の日のことだった、彼女の死体が樹海で発見されたのは。
人の意識に存在する二つの愛情が螺旋状に絡まり合ってお互いを陥没させようと藻掻く。どちらが勝つかあるいはどちらも沈むかでその人の運命は大きく変化する。見違えたように美しくなった君の螺旋はあの時、どうなっていたのだろう。白化粧に身を包んでまるで白無垢でも着てこれから結婚式を挙げるかのようにただただ安らかな表情を浮かべる。夢中で名前を呼んでも反応はなく、そのたびに己の罪深さを思い知る。君の死を嘆くことすら許されず、その場の人々に迫害される。この苦みを全身に受け止めながら雨の重みに掌が疼く。あの時、君の涙が落ちるのをこの手で遮っていたなら、また同じ過ちを犯さずにすんだのかもしれない。
家に帰って奥の地下の扉に鍵を差し込む。冷気を帯びた冷ややかな木造の小部屋に沢山の君がいた。伝う涙の滴でさえもDNAばりに酷似している。もう死んで十数年たつ父の研究書類に目を通した時から俺の永遠の彼女は始まっていたのだ。
「おはよう・・よく眠れたか?」
穏やかに二千体目の彼女を起こす。暢気なあくびをしながら彼女は俺に笑顔を向けた。
「おはよう。今日も良い天気ね」
ソプラノの美しい、機会音声がまた俺に幸せをくれる。
・後日談というかスピンオフというか以前「夫婦」という短編を掲載しまして、そのもっと短いものを書かせて頂きました。書庫公開しておりますので気になる方は「短編小説」までどうぞ^^
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