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あるとき、ばあやのつかいが、ユタをよびにきました。
ユタが小さいころ、いつもおせわをしてくれたばあやは、いまでは、ベッドによこになっていることがおおいのです。

ユタが、ばあやのへやにいくと、ばあやはベッドの上におきあがり、

「よく、いらしてくださいましたね」

とうれしそうにいいました。
そして、ユタに、ほそながいつつみをわたしました。

「それは、ぼっちゃまのおかあさまから、あずかっていたものです」

ユタがおどろいてつつみをひらくと、女の人が、かたかけをとめるためにつかうピンがでてきました。

「それは、ふたつひとくみでつかうものです。もうひとつは、おかあさまがもっていらっしゃいます。
 ぼっちゃまが、おかあさまをこいしくおもううちは、それをわたすことができませんでした。けれど、もう、わたすことができます。
 どうして、あえないのか。
 それはぼっちゃまが、おとなになったら、わかるでしょう。
 けれど、おかあさまが、いつもぼっちゃまのことをおもっていらっしゃるということは、わすれないでください」

ユタはしばらく、ピンをみつめていました。
やがて、かおをあげて、ばあやにいいました。

「ぼくには、ぼくのことをおもってくれるばあやや、おにいさまや、がっこうの先生や、ともだちがいる。
 そのうえ、おかあさまが、どこかでぼくのことをおもってくれているなら、こんなにしあわせなことはないよね」

それをきいて、ばあやはうれしそうにいいました。

「ぼっちゃまは、ほんとうに、大きくなられましたね」


****************


ユタのへやのそとには、カントゥータの木がしげっています。

むかし、はなうりのおばあさんにもらったひとえだを、へやのそとのじめんにさしていたのですが、それがねをはやし、どんどんのびていったのです。

ユタがへやにもどろうとすると、赤い花をたくさんつけたえだのかげから、赤いふくをきた女の子が、こちらをみているのにきづきました。

ユタは、女の子にはなしかけました。

「やあ。お山の上のくらしは、どう? チャスカ」

すると女の子は、いたずらっぽい目をして、こたえました。

「まあまあってとこね」

やがて、わらいごえをのこして、女の子のまぼろしは、青い空のなかにきえていってしまいました。


                     (おわり)



********************************************************

最後までご覧いただいて、ありがとうございます。

この作品のあとがきと解説を、別書庫に載せました。
よろしければご覧ください。

また、感想等お聞かせくだされば、今後の作品づくりの参考になります。

よろしければ、こちらのブログのゲストブックか、ツィッター、@lilyraylilyyg まで。


※著作権は放棄しておりません。
画像の無断転載、コピーはお断りいたします。
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やがて、ユタの国がかって、戦争はおわりました。
おにいさまも、けがをしていたおとうさまも、たくさんのへいしたちも、ぶじにもどってきました。

北の、火をふいた山も、だんだんとおさまり、つぶれてしまった村のあとに、またあたらしい村がつくられました。

まちには、まえよりもたくさんの人がすむようになりましたが、けんかをする人も、どろぼうもいなくなり、にぎやかで、あかるいまちになりました。


****************


7さいになると、ユタはがっこうにはいりました。
チャスカやおにいさまにちかったことをまもろうと、ユタは、おののけいこにも、べんきょうにも、いっしょけんめいです。

10さいになるころには、おののうでまえも、べんきょうも、ユタがいちばんになっていました。

それでも、たくさんの人をたすけられるように、もっとつよくならなくてはいけないと、ユタはひっしです。

そんなユタに、先生は、おのの勝負(しょうぶ)をしようといいました。
がっこうの先生は、むかし、きゅうでんの大ひろまから、ユタをたすけだしてくれたあの男の人です。
もちろん、ユタは先生にかないません。

先生はユタにいいました。

「あせって力をつけても、それはほんとうの力にはならないんだよ。あせらなくても、きみはいずれ、大きな力をつけることができるだろう。あきらめずに、れんしゅうをつづけるのだよ」

ユタは、おもいました。

「ぼくがおとなになるまで、お山の上のチャスカは、みまもっていてくれるかな」
 


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カパコチャのおまつりから、しばらくたって、おにいさまがユタを、金の絵のへやによびました。
おにいさまは、あのせんしと花の絵のまえで、ユタにききました。
 
「もんだいのこたえは、みつかったか? ユタ」
 
ユタは、もう、こたえをみつけていました。
だから、まよわず、こたえました。
 
「はい。
 
 お山にいくピウラを、ぼくはとめることはできませんでした。
 カパコチャのおまつりで、ほんとうにたくさんの人が、ピウラたちに、たすけてほしいとさけんでいたのを、みたからです。
 
 お山にいかないでとぼくがたのんでも、ピウラは、その人たちをすくうために、ぜったいにいくといったでしょう。
 それならピウラは、どうしたらうれしいのだろうとかんがえました。
 それはきっと、ピウラのいのりがとどいて、たくさんの人がしあわせになることなんだとおもいました。
 
 お山にいるピウラのいのりで、かなしんでいる人や、つらいめにあっている人がへったら、こんどは、まちにいるぼくたちが力をかして、もっとたくさんの人がしあわせになるようにすることが、ピウラのよろこぶことなんだとおもいます。
 
 ぼくはこれから、たくさんけいこをして、つよくなります。
 たくさんべんきょうして、いろいろなことをしろうとおもいます。
 そして、ピウラのいのりに、すこしでも力をかせるような、おとなになりたいとおもいます。
 
 ほんの小さな力かもしれないけれど、そうすることが、ピウラもすくって、それから、くるしんでいる人をたすけるほうほうなんだとおもいます」
 
それをきくと、おにいさまは、ユタのかたに手をおいて、いいました。
 
「いっしょけんめい、こたえをさがしたのだな。
 そのこたえがただしいかどうか、それは、おまえがおとなになるまで、わからないだろう。
 そのこたえが、ただしかったといえるような、おとなになるのだ、ユタ。そのこたえを、けっしてわすれるでないぞ」
 
ユタは、おおきくうなずきました。
 
 
*************
 
 
それからまもなく、おにいさまと、たくさんのへいしが、戦争にいきました。
おおぜいのへいしをみおくる人びとは、カントゥータの花をにぎりしめて、みんな、ぶじにかえってきますようにと、いのっていました。
 
ユタはこのときも、ピウラたちのやくめのたいせつさを、しったのです。
 
 
 
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ユタはいそいで、ピウラのこしをおいかけました。
けれど、人ごみがじゃまをして、まえにすすめません。
そこで、人だかりのそとがわをまわって、こしのすすんでいくほうへと、はしりました。
 
ようやく、こしがみえたときには、こしは、まちのそとへでていくところでした。
ユタは木によじのぼり、まちをかこむ、たかいかべの上にたちました。
そして、さけびました。
 
「ピウラー。ピウラー」
 
けれど、こしのすがたは、どんどん小さくなっていきます。
ユタは、こんどは、ピウラのほんとうのなまえをよんで、さけびました。
 
「チャスカー。チャスカー」
 
ピウラのほんとうのなまえは、あの金の絵にかかれていた花とおなじなまえなのです。
 
「チャスカー。
ぼくは、たくさんけいこをして、たくさんべんきょうして、つよくてかしこい、おとなになる。チャスカがお山の上で、みんなのしあわせをいのってくれるなら、ぼくは、この手で、みんなをたすけられるような、おとなになる。
だから、お山の上で、ずっと、みまもっていてよー」
 
すると、さいごのこしにのっているかげが、まっすぐに手をあげるのがみえました。
チャスカが、ユタにへんじをするように、手をあげたのです。
 
「ありがとう、チャスカー。
ずっと、ともだちだよー。
ぜったい、わすれないよー」
 
チャスカのかげが、こんどは、りょうてをあげて、大きくふりました。
 
そして、おかのむこうへと、きえていってしまいました。
 
 
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ユタは、カントゥータの花に、なにをねがっていいのか、わかりませんでした。やがて、花はすべて、えだからおちてしまいました。
 
ユタがなにもできないでいるうちに、とうとう、カパコチャのおまつりの日がやってきました。
 
その日、ユタもあたらしいふくをきせてもらって、カパコチャをみおくるために、まちのひろばにいきました。
 
ひろばにつくられた、大きなぶたいの上に、やがて、ピウラとクワンチャイとオマのにいさんが、すがたをあらわしました。
三人とも、りっぱなふくをきて、たくさんのかざりをみにつけています。
ならんだ三人のまえに、王さまがすすみでると、ふかくふかく、あたまをさげました。
この国でいちばんえらいはずの王さまが、あたまをさげるのをみて、ユタは、ピウラたちが、神さまになってしまったのだと、おもいました。
 
あいさつをおえて、三人は、花でかざられたこしに、それぞれのりこみました。
たくさんの男の人にかつがれたこしが、人びとのあいだをすすんでいきます。
クワンチャイは、みおくるユタのすがたにきづいて、にっこりわらって、手をふりました。ユタも、せのびをして、大きく手をふりかえしました。
たくさんの人のこえにけされて、クワンチャイのこえはきこえませんが、その口は、ユタにこうよびかけていました。
 
『ずっと、わすれないでね』
 
そのあと、オマのにいさんのこしと、ピウラのこしが、とおりすぎていきました。
ユタは、ピウラのこしに、いっしょけんめい手をふっていましたが、ピウラはとうとう、いちどもふりかえらずに、とおりすぎていってしまったのです。
 
 

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