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「こら!みほこ!!自分のケータイくらいチェックしろや。大変だぞ!!」
犬のくせに、生意気な…りうである。 こっちはライブ、はねたばっか…。え? 「みほこちゃん!? みほこちゃんでしょう? 枝里です。」 枝里 さん? 枝里さんが 笑ってる…。え? 俺のおかげで枝里さんは、みほこを見つけたんだよ。こんなりりしい顔の犬、世界広しと言えども、みほこちゃんしか飼ってない、りうくん、みほこちゃんに知らせて、だとさ。感謝しろ ったく。という文章が添えられていた。 スマートフォンさえ、自由に操れるんだから恐れ入る、この犬(笑) 「みほこちゃんなのね…見つけたわ…。」 「枝里さん… ほんとに?この犬のおかげなんですか?」 りうくん、合点!!って(笑) そう言って、枝里さんは、泣くわよ、と書いてきた。 旅費、もってあげたいのよ…だけど自分でいらっしゃいね…。そういう文字がある。もちろんだ…。 すぐにメール着信ランプが光る 「エリンギ よこせ。」 まったくこの犬は。〈終〉 |
ものがたり
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短いものですが 浮かんだ「ものがたり」を綴りたいと思います
お読みくださると嬉しいです
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「紗枝子お姉さん、紗枝子お姉さん・・・!お姉さん・・・いや・・・!」
妻が震えて目覚める。涙を流して。
「あすみ・・・あすみ。ここにいるよ。さあ、僕だよ。」
「あなた・・・ごめんなさい・・・。」
車椅子の、思うよりひどい状態と、もう少し、事態が悪ければ、己の身に危険が及んだのだと知った。
その日から妻は、深夜・早朝に目を覚まして、すすり泣くことが続いているのだった。
あの事故の瞬間、彼女が姉のように慕う紗枝子さんの顔が浮かんだ。
けれど、その声を、まったく憶えていない、そのことがこんなにも妻のこころを苦しめる。
電話の苦手な紗枝子さんを気遣い、淋しさに打ち克ってほしいという、こころを懸命にくみとろうとして・・・。
思い余ってかけてしまってもコール数回で、声を聞くことなく、電話を切る妻・・・。
「声を聞きたいの・・・・でも・・・しっかりしなきゃ。そうでしょう・・・。」
そういうふうに、紗枝子さんや、彼女を包んでくれる方たちを思ってきた、彼女の人生を愛し、妻としたのだ。
そう、僕は何度も彼女にささやきかけながら、彼女を引き寄せる。
「あなた・・・」
震えながら、しがみついた若い新妻は、僕の耳元で信じられない歌を細く口ずさんだ。
(あなたの 燃える手で・・・)
愛の讃歌。岩谷時子さんが、訳した名曲。
「あすみ、きみというひとは・・・」
このあいだも、この若い妻は、思いがけぬ歌を歌って髪を梳(と)き、僕を驚かせたばかりだ。
「おとなの中で、育たざるを得なかったからかしら」と、健やかな笑い声をたてて。
胸の中に引き寄せ、涙をぬぐう・・・。
「きみの大切なお姉さんを、大事に思えるきみを・・・僕は愛しているよ・・・。
お姉さんのこころはね・・・いつでもきみのそばにいるよ。
きみは思い出すよ・・・ひとたび・・・お姉さんの声を聞けば。安心しておいで。
そして、僕はきみを離れることはないよ。」
「あなた・・・英樹さん・・・。」
僕に引き寄せられ、身体をふっと緩める妻。
しばらく見守り、僕は、社会の中に飛び込むために身を起こす。
「あなた・・・。ありがとう・・・。わたしはもう大丈夫、いってらっしゃいな・・・。」
彼女に背中を押されて、僕は日々を行く。
夕暮れになれば、妻の歌がいつまでも響くと、僕の心は知っている。<終>
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気づいたときにはもう手遅れだった。
(車に・・・ぶつけられる・・・)
車いすに乗った妻にわかるのは、そのことだけだったらしい。
動かねば、と思うのだが、身体が硬直し、思うように行かない・・・。
(間に合わない・・・動けない、声が出ない・・・。)
それでも、安全なところへ避けた・・・と思った瞬間・・・
ガシャン!という音を聞いたのだと。嘘だと思った・・・彼女は言った。
「気がついたら車にぶつけられていた・・・安全なところにいたはずなのに・・・記憶があいまいなの。
でも・・・変だと思うでしょうけれど・・・。そのあいだ、硬直した身体で、ぶつけられることを避けられない、
わたしの頭に流れていたのは、さださんの『償い』だった・・・ただ祈ったのは、逃げませんように・・・だった。
わたしにぶつかる方が、どうか、逃げる方ではありませんように・・・」
それからの記憶は、もはや定かではないと、妻は言った。
果たして自分がどこにいたのか、不確かな状態だったと。
ただ、彼女にわかるのは、その時点で、いのちにも椅子にも別条はないと思っていたことだった。
依然として、流れていたのは「償い」だった。
妻は祈った。「逃げませんように・・・」加害者となってしまう方に、この歌の思いはさせたくない と・・・。
その一念だった・・・
「大丈夫かね?けがはないか・・・?」ぶつかったのはお年を召された方だった・・・。
見落とされたのだろう・・・何の感情もわかなかった。怒りさえわかなかった・・・と。
足にけがはないか・・・それだけを手早く確かめて、彼女は言った。
「なんともありませんから行ってください さあ。」
道交法に定められた手続きを 一切彼女はとらなかった。
ナンバーを記憶できないことがわかったとき、自分の記憶さえあいまいなことを
はっきりと感じ取ったからであった。
(こんなあいまいな記憶の上で、大事になどできない・・・。わたしの落ち度かもしれないではないか。
この方の人生を狂わせられない・・・)
しかし、しばらくのち、身体ではなく、椅子の様子がおかしいことに気づく。
ありえないかたちに変形したタイヤ・・・
そこで初めて、彼女は家族に事故を告げた・・・。
「あの方に、落ち度はないのでは・・・わたしが・・・。
わたしがいけなかったのでは・・・?」
思い出せず、苦しむ妻を僕はただ抱きしめるしか術がない。
「記憶がきちんとできなくなっていることが・・・こんなことになってしまうなんて。」
「きみが無事でいてくれて、よかったんだ、もう、忘れなさい・・・。」
それでも、真夜中、妻は叫ぶようにして目覚める・・・
わたしは本当に被害者なのか・・・と。
彼女についた記憶のきずは、時しか癒せないのだ・・・。<終>
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夫のまとう淋しさは、ときどき震えだすほどの恐怖をさえ、その身にもたらすものらしい。
わたしが去ることへの恐怖は、彼を気も狂わんばかりにしてしまう。
いつにもまして、すがりつくように、わたしの腕に飛び込んできた英樹さんだった。
孤独をすべて、受け止めることはできぬ・・・。
その言葉を胸に飲み込む。その哀しみも、やすらぎも、きみのすべてをわがこととする・・・
そういってくれた、最愛の人の、言葉。
「行くな・・・あすみ・・・。」と、熱を出した人の、うわごとのように繰り返す彼を、そっと言葉で抱き、揺すった。
「どうなさったのです・・・大丈夫よ。わたしはここにいて、あなたを愛しているのです・・・。」
(どうか、愛しい方の胸に、言葉が、雨のように落ち、しみてゆきますよう・・・。)
静かにそっと 落ち着くのを待つ。「ここにいるわ」と繰り返す。
納得してとった手段、ふたりの日々、とはいえ、胸を絞られるようにせつない。
(愛しさはこみ上げてくる・・・というのに、こうすることしかできない。悔しい)
「大丈夫・・・大丈夫よあなた・・・。ここにいます・・・。
揺すって、抱きしめているから。離れないわ、いつまでも・・・。」
冷静さをお持ちのひと。しばらくすると落ち着いて、ありがとう。と応えてくれた。
何があろうと。
わたしは愛しい方を抱きとめ続ける。
果てのない空を、険しい路を。
確かな愛を支えに、ふたりで手をとって歩こう。
哀しみや、喜びに目をやり、心からいつくしめることを、いとおしみながら。
時折、それぞれの胸を、雨降るときの、傘としよう。
そして、その手を握り、背をおしながら、それぞれに用意された山道をともに見つめながらゆこう。
いとおしい、あなたの名を呼べる。
そのしあわせを、こころに抱きながら。<終>
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「りう!」さっきからメール。きっと姉ちゃんからだ。
「なにかあったか?」
俺は犬だ。一応しゃべれる。ご説明までに。
みほこがたまげてるらしい。
「枝里さんが・・・婚約した。」
「コンニャク?なんだそれ。おいしいよな(笑)」
「あんたってやつは・・・。確かにおいしいかもね(笑)」
コンニャク・・・。もとい、婚約と、結婚ってやつは しあわせなことらしいが
難しいことでもある、と、枝里さんが書いていたと、みほこが教えてくれた。
「でも、ふたりでいれば、怖くない、らしいよ。」
「それって、ノロケってやつかね(笑)」
「立派なノロケだね。枝里さんが幸せそうなのが、何より。」
俺は、ひらめいた。
「あの曲贈ってやれば。」
「何かね、おにいさん。」
エリーゼのために、だ。だんなになるひともベートヴェンが好きらしいし。
「あ、それと、俺から伝言を一丁、頼む。」
「はいはい、なんでしょう。」
「・・・おしあわせに・・・ってよ。」 <終>
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