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〈2〉 芸術高校1階の講堂ホールロビーへ続く回廊は、ちょっとしたギャラリースペースになっている。 ここでは、定期的に各科の秀作が常時、展示されることになっている。 シンは、しん…と静まり返った回廊をカツーン、カツーンと靴音だけを響かせながらギャラリーに 向かって歩いていた。 ──チェギョン。あいつは、どうしたいのだろう… このまま、マカオや異国でずっと勉強を続ける気なのだろうか? 国に帰りたいと、本国の大学に進みたいと思っているのだろうか? …冷静なはずなのに、余りにも、一刻も早く連れ戻すことばかり思考が先行してしまい、 現実的に迫った具体的な進学問題にまで、頭が働かなかった…。 あいつの将来…。才能…。夢…。俺は、あいつの為に一体どうすればいい? 苦悶に満ちた顔を歪めながら、思考に耽っていると、いつの間にかギャラリーまで辿り着いていた。 ゆっくりと壁面に展示された作品を、ぼんやりしたまま見て回る。 …カツン。 「!!…あ、これ?!」 シンは、1枚の絵画の前で電流が走ったようにピタリと脚を止めた。 すぐに解った。最愛のチェギョンの作品だと、自信を持って確信できる。 真っ白な20号程のサイズのキャンバスに、マゼンダに近いヴィヴィットなピンク色のアクリルガシュ でラインを縁取るように主線が描かれた、一見すると『向日葵』のようなその大輪の花。 そのショッキングピンクで象られた花の強烈なインパクトに、視線は釘付けになった。 よく見てみると、向日葵のようなその花は、似て非なる架空の花のようだ。 向日葵でいう外輪の花弁部分は、1枚1枚ハート型になっていて、鮮やかなピンク色の主線の内側は、 キャンバスの白い地色を残し、所々、1枚ごとに七色の内1色ずつ花弁の1部分に彩られている。 さながら幾重にも重なる虹色の花弁のようだ。そして、内側の筒状花部分に当たる箇所には、 ヴィヴィットなピンク色の小宇宙とでも言おうか、星や三日月・土星などの惑星の形のモチーフが 複雑に図案化された絵がキャンバスの地色でくり貫くように描かれている。 弾けるようなチェギョンらしい賑やかなそのポップな色彩の中にも、繊細な部分が見え隠れする その絵に、シンは吸い込まれるように魅せられていた。 じっくりと外輪のハートの花弁部分の色の変化を観察しながらぐるりと1周するように眺めていると、 そこに、1匹の小さなテディベアが顔を覗かせているのを見つけた。銀色ともオパール色とも言える 不思議な色で余白無くキッチリ全て塗り固められた、一際くっきりとしたキラキラ輝くハートの1枚 の花弁を両前足でしっかりと掴んで、中心に広がる宇宙へとそのテディベアは身を乗り出していた。 「え?これって、まさか…アルフレッド?!」 シンは口を右手で覆い、言葉を失ったまま、その絵を近くから、時に少し距離をおいたり、何度も 場所や角度を変えて、チェギョンらしい遊び心のある、正にモダンな『POP ART』風のその絵を 眺め続けた。 「タイトルは、『太陽の花』…!?」 ≫≫ ドクン ≪≪ その絵に込められたチェギョンからのメッセージが、漠然とジンワリ、シンの胸に痛い程伝わって 来て、いつしか小刻みに全身を奮わせていた。 ──チェギョン!!お前っ… 気が付けば、シンの頬を1筋の涙が伝っていた。 呆然としたまま、チェギョンからの溢れん想いが詰まったその絵にそっと指先を伸ばし触れていた。 ハッと我に返って、手を引っ込め、親指で涙を拭い、周囲に人が居ないか確認する。 ──よかった。誰も居なくて…。 いけない。人前で涙を見せるなんて…こんな姿、晒すなど恥だな。 シンは、ポケットからデジカメを取り出し、真夏の照りつけるような眩しい自然光を受けるその絵を 何枚も撮影した。シャッターを切りながら、様々な想いを巡らせる。 ──あのテディベアは、アルフレッド。つまり俺の分身… 輝くハートをしっかり掴んでいるっていうのは、心を手に入れた俺の象徴か…? カメラを降ろし、小宇宙を囲む幾重にも重なるハートの花弁をじっと見つめる。 ──宇宙をハートで囲み包み込んでいる…。宇宙を愛で満たすってことだろ? …違うか、チェギョン? 「フッ、宇宙征服ってやつだな…しかし、ピンクの宇宙とは…なんともアイツらしいな。」 シンは眩し過ぎる程ポップで可愛らしく、爆発するような情熱的なエネルギーが漲るその絵を見て、 圧倒されながら、跳ねるような元気なチェギョンの姿を重ねて、柔らかく微笑んだ。 ──そして、この生命力に溢れた『太陽の花』は、チェギョン、お前そのもの。 俺にとって、お前こそ、唯一つの『太陽』だ。 「…チェギョン」 ──絵画を見て、こんな風に無意識に涙したのは、もしかしたら初めてかもしれない…。 シンは自嘲的に笑い、窓から差し込む逆光を背にチェギョンの絵の前で、暫くの間佇んだまま、 チェギョンが伝えたいメッセージを自分なりに頭の中で逡巡し、あれこれと解釈してみる。 ふと自分が涙した理由(ワケ)に、ピーンと来るモノを感じた。 「…あ! もしかして、これって…?」 シンは、立ちすくんだまま、眼を見開き、心臓の辺りをシャツごと掻きむしるように握りしめた。 ◇◇◇ 急ぎ、東宮殿の自室に戻り、シンはすぐにラップトップを開きブラウザを起動しwebにアクセスした。 目的は、そう『向日葵』の花言葉を調べる為だ。流石のシンも花言葉までは、そこまで知識に自信が 無く、朧げな記憶を確信に変える為、逸る気持ちを抑えて、キーボードを叩き、その意味を調べた。 「あった!これだ。…ヒマワリの花言葉は、 『私はあなただけを見つめる』『あこがれ』『崇拝』『熱愛』『光輝』『愛慕』など…」 ──私はあなただけを見つめる… 「っ……やられた…!」 ≫≫ ドクン ドクン ドクン ≪≪ シンの鼓動は耳鳴りがしそうな程、更に跳ね上がり、指先までジンジンとし始めた。 歓びと同時にシンの胸を襲う激しい心の痛み…。こんなにも心は渇望しているのに手に届かない現実。 震えるもどかしい手を動かし、デジカメから転送したばかりの画像をPCのディスプレイに映し出す。 再び、シンの瞳に映るチェギョンの色鮮やかな『太陽の花』。 先程、感じた以上に胸の奥から沸き溢れる、その言葉にならない熱い感情と痛みを伴う淋しさに心が 支配される。 ──この花は、チェギョンでもあり、そして、俺そのものなんだ…。 いや違うな…あいつは、俺にとっては無くてはならない『太陽』で、この花が俺なんだ。 向日葵の花は、太陽に向かい追う様に成長する。向日葵同様、太陽を見つめ続けるのは俺だ。 俺が追い求め、恋焦がれ、崇拝し、熱愛するのは、唯一人。 シン・チェギョン。お前だけだ…! 俺の心を照らす唯一無二の輝ける太陽…。お前が居なければ、俺は死んだも同然だ…。 「お前だけを永遠に見つめ続ける…。チェギョン…」 再び、その絵画を感慨深くじっと見つめていると、脳裏にパチンッと光が瞬いた。 ──これ、宇宙規模…。メガスケールのアイツからのラブレター?…だよな。 いつも予想出来ないチェギョンの思考回路。番狂わせな嬉しい誤算にシンの心は持って行かれる。 チェギョンからの溢れんばかりのそのメッセージに、どうにかなってしまいそうな程、心を激しく 揺さぶられる。やり場のないこの言葉にならない昂る感情を持て余し、沸々と抑え切れない想いが 全身に渦巻き、重厚なマホガニーの執務デスクの上の、太陽よりも眩しい笑顔のチェギョンの写真 を手に取り、その昂りをなんとか沈めるように瞼を閉じてコツンと写真立てに額に押し付けた。 眼を閉じればチェギョンの姿ばかりが浮かび、むしろ逆効果…逢いたい欲求を深めることになった。 ──ああ、今すぐ、お前を抱きしめたい!声が聴きたい! シンは、今すぐマカオへ飛び出したい、張り詰めた気持ちをなんとかグッと堪えた。 しかし無性に声が聴きたい衝動に駆られ、もはや、感情は暴走して我慢なんて不可能だった。 すぐさま、携帯を取り出し、時計を確認して、短縮ボタンを呼び出し、通話ボタンをPushする その刹那、手の内で、チェギョンからのメールの着信を知らせるバイブと着メロが鳴り響いた。 「え!…チェギョン?!」 以心伝心か?!と驚きを隠せないまま、焦るように慌ててメールを開く。 ───────────────────────── from:シン・チェギョン sub:暑いよー! ───────────────────────── シン君、暑い〜暑すぎるよ〜!!…ハァ(;´д`)=3 今日も博物館で資料整理のお手伝いをさせて貰って るんだけど、外はもう暑くて倒れそうだわー! 明日は、ワークショップの見学をさせて貰うことに なったんだけど、外の移動が暑過ぎて困っちゃう〜! でも、楽しみなんだ♪エヘヘッ うぅ〜あ〜、こんな日は、フルーツたっぷりの パッピンスが無性に食べたいなぁ〜! シン君って、食べたことあるー??^^ チェギョン ───────────────────────── 「クククッ!まったく、この絶妙なタイミングとムードの無さ!あいつらしい! でも、夏休みを利用して灼熱の空の下、あいつなりにいろいろ頑張ってるんだな…」 ──ほら…もうこんなに笑顔になってしまう。 いとも簡単に強張った心をほぐし、俺に笑顔をくれるのは、やっぱり、お前だけだ。 俺にとって、どう考えても特別なんだ。 「…もしもし、チェギョン?」 携帯のスピーカー越しに、気が抜けるようなチェギョンの可愛らしいぼやきが耳に届いた。 愛しい女の声に耳を傾けながら、PCに映るチェギョンの描いた『太陽の花』の絵を眺め、 拳にギュッと力を込めた。 「お前の絵、見たぞ!」 ──何としても、この手に太陽の花を手に入れるから…。 *** |
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アンニョン〜^^
絵を見て、シン君がその意味を理解したとき
思わず 鳥肌がたっちゃいました・・・。
2009/8/1(土) 午前 1:44
アンニョ〜〜ン
きららさま〜〜 創作だけではなく絵画にも造詣が深いんですね
シン君が絵からのメッセージを読み取った時には思わず涙しました
2009/8/1(土) 午後 2:26
あんにょ〜ん。
オーラをかんじる〜。
なんか・・私までバクバクしながら読んでしまいました。
コマスミダ〜
2009/8/1(土) 午後 3:40 [ konpeito ]
ヨロブン、アンニョ〜ン!
沢山のご訪問&コメント、本当にありがとうございます♪(人´∀`).☆.。.:*・° 多謝〜♪
スミマセン(;´人`)゙ちょっと2話で、気になっていた部分の文章をコソッとマイナーチェンジしましたー☆
ほんの1箇所なんですが…シンが絵を見た辺りのくだりで、こっちのがちょいとしっくり来るかなーと思いまして…><内容的には全然変わりませんが、よかったらまた、変更箇所は何処かなぁ〜?という感じで、お時間あれば、読み直して頂ければ幸いです。
また、気になった部分は、コソコソとマイナーチェンジするかも?しれません。悪しからず〜m(。_。"m)ペコ
リコメの方、遅くなって申し訳ないです。これからゆっくり少しずつさせて頂きますね!しばしお時間下さいませ〜^^;
では、引き続きPHD巡りを楽しんで下さいねー☆ヽ(*´ω`)
2009/8/2(日) 午後 6:22
miharuru顧問!巡回お疲れさまであります!(。・ω・)ゞ
ちょい夏バテみたいで、超低血圧でヘロヘロで、リコメ大変お待たせしましたー(-人-)ミアネヨ
。・゚・(ノA`)・゚・ウェーン 鳥肌だなんて・・・
絵の雰囲気や意味、なんとなくイメージして頂けてヨカターヨ・゚・(ノД`)・゚・
拙い文章で伝わるか不安だったんですけど・・・ありがとー顧問♥
コメ班、ほんとおつかれさまっす!ちゃんと寝てますかー?
心配になっちゃいます。お身体無理しないでくださいねー!!
2009/8/4(火) 午前 2:00
ぱるぱるさん、再びコメ本当にありがとーございます♪
いえいえ、そんなに絵に造詣が深いわけではないのーヾ(´▽`;A
チェギョンとは、ちょい同じ畑のヒトだったので、昔のことを思い出しながら、こんなだったかなぁ〜という感じでイメージを広げました。
あ、でもARTは大好きなんで、美術館とか平気で4〜5時間位1人で行きますね!(人´ー`).♡❤
拙い表現で、絵の雰囲気や意味が伝わるか不安だったんですけど、ヨカターヨ・゚・(ノД`)・゚・
涙して頂けたなんて・・・もうその一言で感無量でございます。(ρω;)
本当にありがとうございます♪
あ、「さま」はアンデヨ〜!普通に呼んで下さいねん♪^^;
2009/8/4(火) 午前 2:10
★konpeito★さん、ようこそー☆コメント本当にありがとうございます!
ちょい夏バテ気味で超低血圧でヘロヘロで、リコメ大変お待たせしましたー(-人-)ミアネヨ
うわぁ〜(´д`、)アゥゥ 拙い文章でお恥ずかしいんですが、オーラ感じて頂けたなんて恐縮です。ありがとーございます♪
殿下とユニゾンして、バクバクしながら、読んで頂けて嬉しいです♪
こちらこそ、本当にありがとうございます!★konpeito★さん、またいつでも遊びにいらして下さいねー♪お待ちしています☆
ではでは、これからも、どうぞヨロシクお願いしまーす!(*^ー^*)ノ
2009/8/4(火) 午前 2:16
このお話し、大好きです
何度も読ませて頂いて、「凄いわ
」と、思っています。
『宮』が大好きナンだけど、私は「読む人」しかできないのは、こう言う時思いますね
2012/9/5(水) 午前 2:41 [ わいわい ]