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〈5〉 ──よく『一世一代のプロポーズ』というフレーズを聴くが、 まさか自分がそんな境遇に立つことになるなど、予想だにしなかった。 今なら、ハッキリと解る。ヒョリンへのプロポーズは『本物』ではなかったと…。 『本物』が、実際こんなにも血の気が引く程、緊張するものだということも…。 男とは、真に愛する女の前では、こんなにも無力で脆く、弱くなってしまうものなのか… 「うっわぁ〜♪ここには、初めて来れたよ〜!綺麗だねー!シン君!」 「ああ、いい眺めだな…」 ホテルの敷地内のプライベートエリア。万全のセキュリティーの整った庭園の中、見晴らしの良い 絶景ポイントがあるという評判のスポットに、シンはチェギョンを伴い、散策していた。 ゆったりと流れる穏やかなひととき。マカオ市街地では考えられない程の静寂でリラックスできる。 しかし、今のシンの脳裏は、どうプロポーズを彼女に切り出すかで頭がいっぱいだった。 煌めく水平線を眼を細めて眺める、その美しい横顔に、吸い込まれるようにシンは魅入ってしまった。 ──本当に少し大人っぽく…綺麗になった、な…。 最初出逢った頃は、子供っぽくて理解不能な宇宙人のようだったチェギョン。 俺との接点、似た処など皆無だと思っていたのに、いつも底抜けに明るいあいつが、時折、 ふとした瞬間、淋しそうに孤独な表情を見せる時、どこか幼少時の自分の姿に重なる気がした。 そこから気になり始め、何故かほっとけなくて、いつの間にか惹かれて行ったのかもしれない。 表面上は、明るく快活な姿を見せるが、根本的な心の奥底に隠した影。あいつの本質的な繊細な 部分。そんな処が、俺達は似た者同士なような気がしている。似て非なる姿であってメンタル面 で、とても良く似た者同士なんだ…きっと。ハァ…今頃、そんなことに気が付いたよ。 チェギョンが、石柱にもたれ掛かって佇み、潮風に靡く艶やかな髪をかき上げて微笑む、その仕草。 ファインダーの中に収めたくなる程、絵になる風景だ。ドキドキと益々胸が壊れそうな程高鳴り出す。 ──彼女は、今まで知らなかった、気付かなかった、俺の中に眠った感情を揺り動かす。 ほら、今もこんな風に…。 胸の奥から沸き溢れるこの想いが、ほんの少しでも彼女に届きますように…。 そして、どうか、こんな俺を受け入れてくれ…。 シンは瞳を閉じて深呼吸する。早鐘を打つ鼓動の速さに、キーンと耳鳴りが止まらない。震える指先、 極力冷静さを装って、ゆっくりと胸の内ポケットに手を伸ばし、昨夜祖母から譲り受けた指輪の 入ったケースをギュッと握りしめ、一歩一歩緊張を噛み締めながら、チェギョンの目の前へ立った。 そして、そっとチェギョンの手を取り、その小さな掌の中に銀色のケースをしっかりと握らせた。 「手を出して…」 「これは、何?」 キョトンとした顔でシンを見上げるチェギョンに、シンは、スゥーッと新鮮な空気を吸い込み、 ゴクリと息を呑んで、意を決した。 「俺達、本当に結婚しよう」 「えっ?本当の結婚?」 驚くチェギョンの両手をシンの大きな掌で優しくギュッと包み込み、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて 言葉を紡いだ。 「大人達の言いなりじゃなく、生涯を共にしたい女性に心を込めて真剣にプロポーズしている…」 ドキン・ドキン・ドキン・ドキン… シンのこの上なく真剣な眼差しで告げられたその言葉に、チェギョンの頭は真っ白になった。 ──へっ? あのー。今、シン君、何て言ったの? 恐る恐るチェギョンは、手元のジュエリーケースの蓋をゆっくりと開くと、中には、上品な輝きを 放つゴールドのオーソドックスなペアのマリッジリングが…。 2つ並んだ指輪を見て、瞳を見開き息を呑んだ。予期せぬ事態に戸惑い、視線が彷徨うチェギョン。 ──どーしよー!マジ? 何なのこれ? シン君が私にプロポーズ? アハハハッ、夢? 嬉しいよりも、ビックリの方が勝っちゃう…心臓がバクバク言ってるよ! 本気? ふいに顔を上げて、シンを見上げると、彼は緊張なのか照れているのか、ぎこちなくやさしく 微笑んだ。 ──ハッハッハッ。 あの瞳! この上なく、本気だ…。 普通なら、ここで即『はい!』とか答えるんだよね? うわー。ちょっと待って! アタマが混乱しちゃって、どうしていいのかわかんないよ… …私なんかが、本当に、一生シン君の傍に居ていい…の、かな……? どうしたら、いい、の? 心拍数が一気に急上昇して、目が回りそうなチェギョンは、震える唇でやっとのことで一言答えた。 「少し考える時間を頂戴…」 「明日、帰国する。」 ──え?明日?! そんなぁ〜! ダブルパンチよー!!@@ そんなチェギョンの戸惑いに満ち困った顔を見たシンは、秘かに予想以上のショックを受けていた。 ──やっぱり、こいつの反応は予測不能だな。 『言葉にしないと相手には伝わらない』って、おまえが言ったのに…な。 期待した答えが返って来ることはなく、見事に俺の中の自信はガラガラと崩れ去る。 やはり、ただの『イ・シン』じゃ、駄目なのか? 指先が冷たくなるのが痛い程伝わる。シンは、チェギョンの心の中の自分への愛情の砂がサラサラと これ以上零れて行かないように、もう一度彼女の両手をギュッと握りしめて祈るように優しく告げた。 「今夜一晩、ゆっくり考えて欲しい。」 「…うん。」 チェギョンは、半ば放心状態で頷き、しっかりと握りしめられた両手をぼんやりと見つめた。 「今夜は、お祖母様が一緒に食事を…とおっしゃっているから、そのあと家まで送って行くよ。」 「え?…あ、はい。うん。ありがと…」 重く、息苦しいこの微妙な空気を変えるようにシンは、チェギョンの頬をそっと撫でて微笑んだ。 「よし、もうそろそろ日没だな。夕陽が美しいと聴いた場所まで、もう少し行ってみようか?」 「…う、うん!見たい!どこ? 行こう!」 チェギョンもあと僅かしかない大切なシンとの時間を笑顔で過ごしたいと、一旦気持ちを切換えて、 シンの誘いに乗った。 「あっちだ…」 シンは、内心チェギョンに拒絶されたらどうしようかと逡巡したが、その感触を覚えておきたくて、 おもいきって肩を抱いて歩き出した。一瞬、ビクッとチェギョンが反応したが、そのまま笑顔で、 連れ添って歩いてくれる様子に、チクリと胸が痛みつつも、まだ希望はあるとシンは感じた。 ──二人で、こんな風にまた夕陽を明日も明後日も、ずっと一緒に見られるといいのに… そして、あの海で朝日も… 小高い丘の上、黄金色に煌めく海に沈む美しい夕陽をギュッと手を繋いで眺める。 二人の想いは、同じだった。 《JPG File Credit: GUNGGAL》
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なぜ、指輪をシン君から貰ったとき、返答しなかったンだろう?なぜ、「スペイン」って、返答したんだろう?
(宮で、告白してたら、チェギョンも分かったと思うンだけどなー…と、このシーンを見ていてチェギョンにイライラしました。

言葉が足りないシン君は、誤解しちゃう事、分かってあげて欲しいなー?
と、この時のチェギョンに、いくら鈍感でも、分かってあげてよ
教えて欲しいのですが、ヒョリンにブロポーズした後、海外のバレエコンクールに出てたときに、ヒョリンの携帯が壊れちゃってつながらなかったけど、シンが携帯に何度か電話してました。
やっぱりその時は、シンはヒョリンが好きだったのかなー?
もしも携帯電話がつながってたら、また違う転回になっちゃったのかなー?
キララさんは、この場面をどのように感じられましたか?
お時間があったら、教えて下さい
2012/9/3(月) 午後 4:56 [ わいわい ]