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〈1〉
シンとチェギョンは、賑わう明洞の街並の雑踏の中、しっかりと手を繋いで歩いていた。
シンは、物珍しそうにあちこちキョロキョロ街並を見上げながら歩いていた。
そんなシンをじっと見つめて、チェギョンが急に話かけた・・・
「私のこと、どれくらい好きか聴いてもいい?」
突然の突拍子もない質問にシンは、ちょっと呆れ気味に答える。
「・・女って、どうしてそんなこと聴きたがるんだ?」
「ずっと、胸に刻んでおきたいの・・・」
立ち止まり、シンは俯くチェギョンに向き合い、ため息混じりに優しく問いかける。
「そんなに知りたいか?」
「・・うん・・」
シンは、意を決して俯くチェギョンの帽子を取りはらい、自分のニット帽も脱ぎ捨て、
左手に二人の帽子を重ねて持った。
青空のもと、風になびくチェギョンの髪・・・明洞の街頭で、シンとチェギョンの
お互いの顔が露になった。
「!」
驚いて少し戸惑いがちな目で見上げるチェギョンに向かってシンは、ゆっくりと顔を
傾け、腕をチェギョンの腰にまわし、そっと引き寄せ、周囲の雑踏の目も気にせず、
堂々とキスをした。
それは、彼女を慈しむように甘く優しい、長い長いキス・・・
時が止まったようにしばらく2人の世界に浸っていたが、
余りにも騒がしい周囲のざわめきと人の気配に気付き、シンは、そっとやさしく重ねた
唇をはずし、周囲を見た。
そこには、2人を取り囲むように街頭の人々が大勢集まっていた。
チェギョンは、自分が言い出したにも関わらず、想定外のシンの行動に驚き、嬉しくて
堪らない反面、恥ずかしさで顔を真っ赤に紅潮させ、手で無造作に髪をかき降ろし、
できるだけ顔を隠し、シンの服にしがみついた。
『まずい!』
『バレた?』
我に返った2人はお互い顔をチラリと見合わせ、この人垣の多さに自分達の正体がバレて、
パニックになってしまうことを恐れた。
慌ててシンは、顔を隠すように俯き加減にチェギョンの手をグイッと掴み、ギュッと
手を握って人垣を抜けるように走り出した。
「行くぞ!」
2人に拍手を贈る者、歓声を上げる者、携帯で写真を撮る者、追いかけようとする者、
『ねぇ…皇太子夫婦に似てない?』などと噂する者、様々な人々が2人の行方を食入る
ように見守った。
2人は、笑いながら手を繋いだまま必死に走っていた。
「ハァハァハァハァ・・・」
息を切らしながら、人垣をすり抜けながら手を繋いで街を走り続ける2人。
シンはそのまま振向かず、チェギョンに向かって声を掛ける。
「・・おい!・・わかったか?!」
振向かないシンの背中から、チェギョンはシンが照れていることを直感し、満面の笑み
を浮かべてギュッと繋いだ手を握り返して、
「うん!!」
と元気よく答えた。
「チェギョン!」
「なあに?」
「街を歩くって、気持ちいいものだな!!」
「そうでしょ?」
「こんなに楽しいなんて知らなかったよ!」
眩しい笑顔で振り向き息を弾ませ話すシンにとって、街を走るということさえ生まれて
初めてのこと。人生初のごく普通の高校生、一若者のように自由で開放的な瞬間だった。
そんな姿に、チェギョンの胸は少しキュンとなったが、今まで見たことの無い表情、
初めて見るイキイキとした楽しそうなシンの姿が嬉しくて柔らかく微笑んだ。
2人はキラキラ輝く青空のもと、しばらく駆け回っていたが、やっと人通りの少ない路地を
見つけ、そこで一息ついた。
「ハァ〜ハァ〜ハァ〜・・・バレちゃったかな?」
「ハァ〜ハァ〜ハァ〜・・・かもな?」
「どうしよう…こんな時にまた問題になっちゃうよね?」
「構わないさ。俺達、夫婦だぜ。スキャンダルにもなりはしないさ!それにバレた処で、
こんな事件の最中に自粛すべきだとか云われる位だろ?まぁ、かなり問題は問題だけどな…」
「アハハ!そうだね。きっと上の方々や世間には、また大目玉くらっちゃうけど、もし、
あのキスの記事が出ちゃったら、私達の不仲説が一気に払拭されちゃうかな?」
「だろ?」
プププーッと2人で吹き出しながら笑い合う。隠れた路地から来た道を振り返るシン。
「おい。上手く撒けたみたいだし、これからどうする?」
「そうね〜・・・」
チェギョンはあごに手をあてて考えながら、路地の向こうに、あるものを見つけそれを指差した。
「あれよ!!!」
「?」
「いいから、着いて来て!」
チェギョンは、シンの腕を引っ張ってそちらへ向かった。
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