Sweet dreamin'

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Distance

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イメージ 1

   このお話は、epi.24のシンチェが別れてから約2ヶ月後のお話です。   

皆様アンニョン!前作から大変ご無沙汰してしまい、拙作を楽しみにして下さっていたお方
のみなさまには、お待たせして本当に申し訳なかったです。(>人<;)ゴメンッ!

今回は、遠距離恋愛中のシンチェの揺れるキモチをちょっと書いてみました♪(*^人^*)”
シン君サイド、チェギョンサイド、二人のお話の3Partになる予定です。
ほぼ、モノローグ形式で進むので、文字が多く、若干読み難いかもしれませんが、どうか
ご理解の上、ご覧頂ければと思います。うぅ…技量不足ですみません!m(_ _"m)ペコリ

実は、年齢設定をどうするか、ずっと悩んでいて2通り、お話の展開を考えていました。
18歳で結婚→19歳で再会。17歳で結婚→18歳で再会。

ユル君の誕生日は水瓶座(1月21日〜2月19日生まれ)で太皇太后はじめ宮の皆が誕生日を
忘れていたので、遅れてパーティがあったっというのが、ドラマの設定でしたよね?
で、ペンションでの服装から見て、2月下旬から3月初旬辺りなのかな〜?と考えました。
韓国の高校は、3月に始業→2月に(終業)卒業と、ネットで読んだのでチェギョンがコートも
無しで放火事件後に学校に通っている処をみると、高3になったの?あれ?でもパーティで、
もうすぐ卒業って話してたよね?とグルグル疑問に感じ、どうしようかすごく悩みました。
で、私は、M-netの17歳設定で行こうと思い、kilalaワールドのシンチェは、後者の
     『17歳の秋に結婚し、高3進級直後に別離した』     
という設定にしてお話を書くことにしました。
その辺り、ご承知の上で、これからの私の妄想話におつきあい頂ければ幸いです。
ではでは、最後までおつきあい頂ければ嬉しいです。それでは、どうぞ!v(゚ー^*)⌒☆

 ※もし、イメージが損なわれるとお感じの方は、こちらで引き返してくださいねm(_ _)m

技量不足でお目汚しかもしれませんが、素人なのでその辺り、お許し下さいね〜(;´▽`A

《JPG File/Credit:GUNGGAL》
Distance 〜Missing you〜 Shin-Side

〈1〉

抜けるような青空に白い雲がゆっくりと流れて行く…
風そよぐ晴天の午後、ここは芸術高校。
シンは、実技実習の授業中、心此処に有らず、まるで上の空で窓の外をぼんやり眺めていた。

イメージ 1

「それでは、今日の実習はこの3年間で培ったカメラの実技テストを兼ねて、各自この学内の
 想い出の場所のモノクロフィルム撮影に取りかかって下さい。印画紙プリントでの作品提出
 期限は、来週のこの時間まで…」

今日の午後はカメラ実習だ。

「尚、この作品は、卒業制作の1つの課題に組み込まれていますので映像作品の他、卒業制作展
 で教室もしくは、美術館でのクラス展示を予定しています。気合いを入れて実習するように。
 それでは、他の科の迷惑にならないように、静かに学内自由に撮影に行って下さい。解散!」


教壇の担当教諭の説明を横に聞き流しながら、シンは魂を抜かれたようにぼんやり虚ろな眼で、
ザワザワと動き出す生徒達にも無反応のまま、ボ〜ッと窓の外、遥か彼方を眺めていた。
その瞳は、青空を見ているのか、景色の向こう…何か別のものを見つめているのだろうか…
最近学校でのシンは、いつもこんな調子だった。


チェギョンが旅立ってから、早2ヶ月が過ぎようとしていた。
シンの放火事件の容疑も晴れ、事件の核となる部分はあやふやなままであったが、ユル母子の
廃位を前提とした国外追放という重く厳しい処断を持ってなんとか事態に収拾が付き、事後
処理にもある程度の目処が立ち、鎮静化をみせたことで、半月程前からようやくシンは通学を
再開していた。

その間、シンはチェギョンを一刻も早く取り戻すべく、自分に出来得る限りの最大限のことを
寝る間も惜しんで必死に活動していた。半身をもぎ取られたような今のシンにとって、むしろ
眠る時間を割いて何かに没頭している方が、僅かながら安息だったのかもしれない。
まず失墜した皇室の威信を取り戻すべく今まで以上に完璧な皇族としてあらゆるボランティア
活動、王族会への出席、政府要人との会談等に飛び回り、長年培ったロイヤルスマイルで様々
な活動を精力的にこなし、別人のような真摯なその姿に、世論の反応も上々で、同情を誘い、
皇室及びシン本人への支持率も、少しずつながら向上しつつあった。

それは、皇太子妃チェギョンが望んでいた理想的な輝く立派な皇太子像そのものであったが、
登校再開後、この学園内でのシンの姿は、心にポッカリと穴が空き、まるで電池が切れたように、
公的な場所で見せる顔とは別人のただの一生徒として、憂いを秘めた抜け殻のような姿であった。


「おい!シン!行くぞ〜」

「……。」

「シン!ほら、実習だ!」

「……。」

「ハァ〜、駄目だな。またか…」

イン、ギョン、ファン達は、チェギョンが去ってから別人のように変わってしまったシンの姿に
心を痛めつつ、複雑な心境でヤレヤレと視線を交わした。
あの他人に全く興味の無かったシンが、1人の少女により、こうまで変わり、魂を抜かれてしま
っている事実。初めて知る、今まで仮面を被っていたシンの人間らしさにやっと触れた気がして
友人として3人は一層の親近感を感じるようになっていた。

「おい!シン!早くしろ!」

インが見兼ねてシンの肩を揺さぶった。ようやくハッと我に返ったシンはイン達の顔を見回し、

「あ?…あぁ…今、授業だったな。行こう…」

いまだ心此処に有らずの様子でゆらゆらと立ち上がり、ボンヤリしたまま自分の一眼レフの
レンズやフラッシュをセッティングして、待っていた3人と一緒に教室を出た。

「まずは、俺達のこの教室だよな〜」

「おお、ここを忘れちゃ映像科として失格だぜ」

「全くなっ」

和やかに3人は談笑しながら、廊下側から3年間通った映像科の教室をファインダー越しに捕
らえ、露出を計り、シャッターを切る。シンも同様にシャッターを切りながらファンダー越し
に教室から廊下にアングルを変えると、教室前のロッカーに目が止まった。

──あ、ここは…

イメージ 2

シンのロッカー前で、調理実習の手作りのケーキを持って佇む、チェギョンの愛らしい姿が
フラッシュバックする。

──そういや、あいつ、ここへ手作りのケーキを持って初めて俺を訪ねて来たんだよな…

シンは、ロッカーに向かって数枚シャッターを切り、力なくカメラを降ろした。

『シン君、ほら、ア〜ン!』

──指でホイップを掬ったあいつ。人目も気にせず、自然とその指を俺に差し出して来た。
  俺にそんなことする奴は初めてで驚いたな。あの時は、自分の気持ちに素直になれず、
  照れもあったし、皇太子として気味尚宮の件も頭に過り、つい冷たくあいつを傷つける
  ようなことを言ってしまったんだよな…照れくさいけど、本当は嬉しかったのに…
  そして、悪友達にからかわれながら、涙目で床に無惨に散ったケーキを必死にかき集める
  あいつの姿を、廊下の死角から垣間見た瞬間、ズキリと胸が痛んだことを今でも鮮明に
  思い出す…

  チェギョン、すまない。傷つけてばかりで…。
  今更ながら、己のガキ臭さが情けなくて、後悔ばかりだ…
  今なら、おまえが作った料理、何でも食べてやりたいのに…

「ハァ〜〜〜‥」

イメージ 3

シンは、深い溜息をつき、壁に寄り掛り、切な気にまぶたを閉じた。
それに気付いたインは、明るくシンの肩をポンッと叩き、移動を促した。

「向こうの方へ行こうぜ、シン…」

「あぁ…いや、ちょっと一人にさせてくれ。俺のペースで回るから…」

「そうか…わかった。じゃ、また後でな。」

シンが何をここで思い出しているのか手に取るように解るインは、そっと3人で連れ立って、
その場を離れて行った。1人になったシンは、無意識に愛する人の面影を求めてゆっくりと
歩き出した。


──チェギョン…



《JPG File/Credit:GUNGGAL》
〈2〉

──俺にとって、この芸術高校での想い出の場所‥か…。



「やっぱり、ここだよな…」

気が付けば、シンは、1階の下駄箱の前まで辿り着いていた。

イメージ 1

──忘れられない最悪な出逢い…
  運命の神様がイタズラで俺達を引き合わせてくれたこの場所…。
  あいつが俺の上履きにバケツの色水を浴びせたように、色の無い真っ白だった俺の人生に
  消えることの無い色鮮やかな虹色の染みをあいつはポトリと1滴落としたんだ。
  その染みはいつの間にか俺の心いっぱいに広がって、色の無いモノクロの世界がカラフルに
  色づき、俺の中で眠っていた、知らない感情を呼び覚まし、やがて5歳の時に封印された、
  俺の時間が動き出したんだ。
  もし、この場所であいつに出逢わなければ、俺はきっと自由のない操り人形のままだった。
  …此処でチェギョンに巡り会わせてくれた神の奇跡に心の底から最上級の感謝を…

『すみません!拭きますね…』
『やめろ!…捨てとけ!』

──此処には、二人だけが知っている大切な想い出がある。
  きっと、永遠に忘れられないだろう…

シンは、カメラを構えて何枚も角度を変えてシャッターを切りながら、その音と共に出逢った時
のチェギョンの顔や姿を思い出していた。

イメージ 2

──あいつの、あの慌てっぷり、怯えて泣きそうな顔。
  無礼に対してというより、同級生の女の子に跪かれて濡れた靴を拭われるという行為事態が
  堪え難く、自分の在る地位がうんざりするほど嫌で堪らず、つい苛立って声を荒げてしまっ
  た…。『もうやめてくれ!!』ここから逃げ出したい行き場のない俺の心の叫びを込めて…

「ハァ…」

──でも、そんな俺の気持ちなんて、あの時のあいつには伝わるわけもなく、暴言を吐いた当の
  俺本人が想像するだけでも、恐らく俺の第一印象は最悪だっただろう…。
  我ながら自分でも、尖ってて、呆れて苦笑してしまう…。

──チェギョン、おまえ、俺のこと、どう思った?
  再び共に暮らせるようになったら、いつかじっくり俺達の出会いについても尋ねてみたい。
  そして、おまえからの真心のこもった初めてのプレゼント‥あの上履きのことも…。

シンは、フッと微笑み、自分の足元を見て、スニーカーから廊下に伸びるシルエットをフィルム
に納めた。




『わ〜らべ〜は、見〜たり〜♪』
『待て!ジャージ!聴こえないのか?!』

イメージ 3

──運命の神様は、俺達に更なるイタズラを仕掛けていた。『間が悪い』とは正にこのことだ。
  此処での二度目の出会いは、もっと最悪だったと言えるだろう…

シンは、場所を移動して、チェギョンにヒョリンへプロポーズしている処を見られた教室前の
廊下‥昇降階段へ続くガラス扉に向かって、苦々しく眉間に皺を寄せて佇んでいた。

──まさか、未来の夫が他の女にプロポーズしている瞬間を偶然見てしまうなんて…
  あいつによって、真実の愛を知った今、どれだけこのことが、あいつの心に大きな傷を作っ
  たのかと思うと、胸を抉られるような気分だ。 言葉も出ない。
  此処でのことが、互いの気持ちに素直になれるまで長きに渡り一番重い足枷になって行った
  のは、言うまでも無い事実だ。あいつの胸に刻んだ深い心の傷を一生かかっても償いたい。
  二度と傷つけないように、真綿の様にやさしく包(くる)んで、宝物のように大切にする…

シンは、ガラスの扉を開けて外に出て爽やかな風を受けながら、階段を見下ろした。

イメージ 4

──あの時見た、逃げ去るあいつの後姿。
  あんな風に俺の腕の中からスルリと逃げ出し、飛び立ってしまわないかと、今でも、いつも
  そのことが脳裏にちらつき、俺を不安にさせる。離れている分、余計に…
  チェギョン…おまえは本当にまた再び、俺の元へ戻って来てくれるのだろうか?
  このまま、もし……。いや、最悪なことは考えるな。俺が強く信じ念じないでどうする!?
  おまえは、必ず俺の元へ帰って来るんだ!絶対に…!

シンは、どんどん深い奈落の底に落ちて行く気持ちを振り払い、ちらつくチェギョンの後姿を
追う様に、その階段を駆け下り、次なる想い出の残る場所を目指した。





『シンくん!!』

イメージ 5

──そう初めてあいつに呼ばれた場所。そしてここは、初めて俺があいつを待ち伏せした場所。
  皇太子である俺に向かって「シン君」だと? 正直、ムッとした。

『好きなあの子と結婚すればいいのに。なのに私と結婚なんてどういう意味よ?』

──あいつのその問いに対する俺の答えは残酷極まりないものだった。
  アァ…俺って、とことんデリカシーも無い。最低だ。……今更ながら凹む……
  でも、そんな俺に対し、あいつはやっぱり只者ではなかった。俺の無礼な発言にみるみる内
  に怒り出し、このオレ様に向かって蹴りを入れようとしたんだ。
  スゴイよな?有り得ないだろ?皇太子にだぞ?
  皇室冒涜罪、及び不敬罪で、刑務所行きなんて恐れず(笑)
  全く、あんな無鉄砲な子は初めてで、呆れる程バカみたいで、ちょっと抜けてて…(笑)
  でも、なんだか予測不能な面白い女だった。
  そういや、俺のことを『皇太子殿下』ではなく、最初からいきなり俺を名前で呼んだ女は、
  あいつが初めてだった。まるで普通のクラスメートのように分け隔てなく…
  馴れ馴れしさにムカつきながらも実に新鮮で、その物怖じしない姿になんだか口元が緩んで
  しまった。ハハッ、やっぱりあいつは、肝が据わった大物だ!

イメージ 6

蹴り損ねて尻餅をついたチェギョンの間抜けな姿を思い出し、プッと吹き出し、笑みを漏らした
シンは、シャッターをパシャリと一枚切った。

その後もシンは、二人のたった半年間程の接点の少ない僅かな想い出の残る校舎の中をあちこち
歩き回った。
チェギョンの明るい笑い声、太陽のような眩しい笑顔、プ〜ッと膨れっ面の怒り顔、
落ち込んだ半泣き顔、跳ねるように元気いっぱいに駆けて来る姿…
百面相のようにコロコロ変わる、喜怒哀楽のハッキリとしたキラキラ輝くチェギョンの幻影が、
あちこちに蜃気楼のように現れて、耳に響くその柔らかな彼女の呼び声は、ひどくシンの心を
締め付けた。

『シン君!』
『シンく〜ん!』
『…シン君』
『シ〜ン君!』


──チェギョン!!逢いたい。逢いたくて、逢いたくて、堪らない…!!
  気が遠くなるほど、毎日毎時毎分毎秒、そのことばかり考えてる。
  俺、マジで狂ってるな…

「ハァ〜〜‥」

また大きく溜息をつき、ぐるぐると頭に巡る、もう此処に居ないチェギョンを色濃く感じる、
この空間に虚しさと息苦しさを感じ、心が淋しさで張り裂けそうで、シンは耐え切れず鉛のよう
な足取りでその場を離れた。




《JPG File/Credit:GUNGGAL》
BGMは、宮OST『invisible heart -Acoustic Version』『falling leaves -Piano』で♪

〈3〉

シンが次に辿り着いたのは、人気の無い薄暗い音楽科のピアノレッスン室。
個室を取り囲むフロア中央のグランドピアノがアングルに入るようにシャッターを切る。

──ここも、苦い想い出の場所だ。
  いつも元気で勝ち気なあいつが、タイでの俺のスキャンダルに心を痛め、食事もまともに
  摂れない程ショックを受け体調を崩し、微熱があるのに無理にそれを隠し登校したあの日。

  まさか、ヒョリンとあいつが直接対峙するなんて!いつかはこんな日が来るかも?…とは
  思っていたが、大勢の生徒達の前で派手にやりあうなんて…女の醜い争いに辟易して半ば
  呆れ気味にその様子を傍観しようとしてみたが、パパラッチの餌食になるのも困る。
  内心気が気じゃなく、しばらくしてから様子を見に行ってみると、そこには、予期せぬ、
  俺の心臓が止まりそうな光景が待っていた。

  チェギョンが、顔面蒼白で、瞼に暗く深い影を落とし、意識を失って倒れていた…
  しかも、そのチェギョンをユルが抱きかかえている!
  『チェギョンに一切、触れるな!』心がそう叫んでいた。

「どけっ!!」

イメージ 1

──思えばあの時、いや、その前の落馬事件の際、初めて俺の理性の糸がプツンッと切れた。
  俺の中で、ユルに対して抱いていたモヤモヤとした苛立つ感情の名は"嫉妬"といった。
  初めて感じる激しい感情…
  今まで朧げだった自分の中の心の扉の鍵が砕け散り、あの時一気に開いたのかもしれない。
  愛情・怒り・嫉妬…人間の持つドロドロとした感情、制御不能な本能、そして、初めて知る、
  『彼女がこのまま目覚めなければ?』という得体の知れない不安感が俺を襲った。
  俺の瞳には、既にヒョリンなんて映ってなかった。映ったのはただ一人、シン・チェギョン
  という名の俺の妻。何故かいつも俺の心を激しく揺さぶるあいつの存在だけだった…

  チェギョン、おまえはいつの間にか俺の心をスルリと簡単に支配して、俺の中で眠っていた
 『初めて』の感情をいくつも無意識に呼び覚ましたんだ。


イメージ 2

シンは、レッスン室の扉のフレームにもたれ掛かり、倒れたチェギョンを運んだ記憶を辿った。

──初めて抱きかかえたあいつの体重の予想外の軽さには、正直驚いた。
  壊れそうな程、細く華奢な躰に、俺の中で今までにない不思議な感情が芽生えたんだ。
  あいつ、いつも飛魚のように威勢が良いのに、こんなに折れそうな程儚く華奢なのかって…
  こんな小さな躰で必死にあの宮中で・学校で・世間の間で、歯を食いしばって笑って来たの
  か…と。
  ベッドで意識の無いあいつの頬を伝った一筋の涙を見た瞬間、さすがに罪悪感を感じた。

『俺が守らなければ…せめて、離婚するまでは。
     …いや、離婚せず、ずっとおまえを守って行きたい…』

  ふと、そんな感情が、朧げに俺の中で沸々と芽生え始めていたんだと思う。
  あの頃にはもう、きっと俺はあいつに完全にノックアウトされていたのかもしれない。
  "手放したく無い"と…

シンは、あの時のように同じコースを辿り、階段を降り、正面玄関の車寄せ付近まで歩きながら、
更に物思いに耽った。

──なぜ、あいつに入宮前に『離婚してやる』なんて軽はずみに言ってしまったんだろう?

  最初、見ず知らずのあいつが金目当てで結婚を承諾したと聴いて、品の無い、卑しい奴だと
  思い、嫌気が刺した。やること成すこと宇宙人のようなあいつが鬱陶しくて嫌いだったし、
  あの頃の俺は、敷かれたレールの上で歩くしかない人生に対して投げやりで、正直あいつが
  どうなろうがどうでも良かったから、あんな簡単に離婚を切り出せたんだよな…。
  俺って救いようが無い愚か者だな。ガキ過ぎ…。
  インタビューで離婚を口にしたチェギョンを責める資格なんて最初から無かったんだ…

倒れたチェギョンを車に乗せてシンの膝の上でも一向に意識を取り戻さない姿、
登校時の明るく、ピースサインで調子に乗る姿、車内で憂鬱そうに笑顔の消えた姿、
様々なチェギョンの姿が、走馬灯の様にシンの脳裏を駆け抜けた。

突然のシンの登場に騒がしい周囲の喧騒など耳目にも入らず、シンは校門付近を撮影し、独り
深海を彷徨うように自分の世界に入り込み項垂れながら、美術科校舎方面へ続くグラウンドに
向かった。

──『離婚してやる』その俺の一言が呪縛になり、そこから一歩も動けないように、その後、
  どれほど互いの気持ちの足枷となって誤解を生んで来たのか計り知れない。
  俺があの不吉極まりない忌まわしい言葉を発したが故に、あいつを苦しめ、いつしか限界
  まで追いつめ、今、こんな風に別れて暮らさなければならなくなったんだ。

  全ての原因は俺にある…。

  世間知らずも甚だしい俺の曖昧な優柔不断さ、未熟さ、幼稚さ故に、こんな事態を招いて
  しまったんだ…。
  あいつの心はずっと俺に向いていたということにも気付かず、自信も持てず、愛する人を
  一番苦しめることになってしまった…
  言葉にしないと相手に気持ちは伝わらない。本当にそうだな…
  そんなこと、今まで誰も教えてくれなかった。どうすればいいのかわからなかった。でも、
  プライドなんか捨てて、もっと早く素直になって、あいつを心から大切に思っていること
  を、態度で、言葉で‥はっきりと示すべきだった。

「不器用にも程があるな…情けね…」

──皇太子として、感情をニュートラルに保つことを強いられ、感情表現を抑えるように育った
  からなんていうのは、ただの言い訳にもならない。言葉を発しなくても理解して貰えると
  思っていた身勝手な俺のエゴと甘え‥。結局、全て俺の未熟さが悪かったんだ…


いつの間にか、グラウンドに辿り着いていたシンは、ふと美術科と舞踊科の実習棟が隣接する
2階フロアを見上げた。
美術科のイーゼルが今日も並んでいる通路側にファインダーの焦点を合わせてシャッターを切る。
そのイーゼルの方を懐かし気に眺め、チェギョンの幻影がフワッとシンの瞳に浮かび上がった。

イメージ 3

──あいつは、きっと知らない。
  下駄箱の前で巡り会う前に、ここで俺があいつの姿に気が付いていたことを…。
  確かにあの時は、ヒョリンの姿に見とれた。凛とした他の舞踊科の生徒達とは一線を凌駕す
  る圧倒的な存在感が、眩しく眼に映ったのは確かだ。それほど、ダンサーとしての強烈な
  個性を彼女は放っていた。…なんていうか、一種の憧れみたいなものか…。
  でも俺は、隣の美術科の絵を描いていた幼気な団子頭の女のことがなぜかチラッと見かけた
  だけなのに心に引っ掛って、妙に印象に残っていたんだ。

  防犯&社交上、長年培った特技で、遠目でも一瞬で周囲の人間の顔をインプットできる技を
  持っている俺は、ギャーギャー騒ぐ女生徒達の隣に二人だけ黙々と絵に集中している女生徒
  が居ることを見逃さなかった。1人は後に知ることになるギョンの白鳥で、もう1人はお団
  子頭に鉛筆を刺した変な女、そう俺の妻になるチェギョンだった。
  あの二人だけは、俺に興味無さげで黙々と絵を描いているようだった。
  チラチラとこちらを気にしてるようではあるが、大騒ぎせず、自分の作品に集中していた。
  『ふぅん。なんだ、ちょっとはマシな人間もいるのか?』と密かに思ったんだが…
  実際に出会ったばかりのあいつは、やっぱり美術科、しかもデザイン専攻だけあって、
  思考回路は理解不能で宇宙人そのもの。強烈な個性を放っていたな…まったくッ(笑)
  俺、なんであんな変な女に惹かれて行ったんだろうな?
  珍獣みたいな変な女だったからか?ハハハッ

カメラを降ろし、柔らかく微笑んで青空に浮かぶ眩しい輝きを放つ太陽を見上げ、目を細めた。

──チェギョン、おまえにこの写真を見せたら、どう反応するかな?
  気付いていたか、訊いてみたい。
  逢いたい、声が聴きたい、おまえを抱きしめたい…。

シンの心は、益々チェギョンを渇望していた。

──『逢いたい』っておまえに言いたい。
  『愛してる』っておまえに伝えたい。
  『淋しい』って言ってもいいか?

  果てなく抑えの効きそうにない自分への戒めで、今まで直接連絡を取る事を我慢して来た。
  でも、ちょっと、そろそろ俺も限界‥かな…

太陽の陽射しを受け、シンはその眩しさに耐え切れず、切な気に瞼を閉じた。





《JPG File/Credit:GUNGGAL》
〈4〉

シンは、グラウンドのベンチに腰掛け、カメラを横に置き、ポケットから携帯を取り出した。

あの別れの前夜、二人で最後に撮った待受画像をじっと見つめ、画面のチェギョンの顔を愛し気
に親指で撫でメールチェックする…その仕草はチェギョンが旅立ってからのクセになっていた。

イメージ 1

──今日も、あいつからの連絡は無し‥か…。
  チェ尚宮からコン内官へ毎日定期報告があるから、大体の暮らしぶりは把握しているが、
  やはり、直接あいつからの連絡が欲しい。(俺の我侭だって解ってるんだが…)
  チェギョン。何故、おまえは、連絡をしないんだ? そんなに忙しいのか?
  俺が連絡しないから、怒ったのか? まさか、俺を…避けてるの‥か?
  我慢できない!今すぐ、おまえの声が聴きたい…頭が変になりそうだ…でも…

シンの中で、自制心が揺らぎ、小さな不安が波紋のように大きく広がる。様々な葛藤が、携帯に
表示されるチェギョンのメモリダイヤルをプッシュすることをどうしても躊躇させた。

「ハァ〜〜〜〜ッ」

今日何度目かの大きな溜息を吐き、携帯を握りしめたまま、シンは青空の彼方を仰いだ。

──クソッ!俺‥なんで、少し連絡が無いだけでこんなに動揺してるんだ? 気になるなら、
  このボタンを押せばいいだけじゃないか。何をそんなに恐れてる? イ・シン。

悶々とした様子で青空の遥か遠くを仰いでいたシンの背後に、近付く人影の気配…。翊衛士では
無い。しかし、振り返らずともシンには、足音で誰が近付いて来るのか分かった。
そっと警戒心を解く。


「よっ!ここに居たのか?シン!」

「あぁ…」

インは、シンの隣に腰掛けると、シンの手の中の携帯に眼が止まり、溜息混じりに声を掛けた。

「おまえ、大丈夫か?」

「…どうだろ?」

「おい、魂抜かれてるぞ〜」

「…そうか?…そうかも。」

インは、シンのこの上ないボケ具合に呆れながら、何気なく一番気になる核心を突いてみた。

「…その、シン。おまえ、チェギョンとメールや携帯で連絡取ってるのか?」

「……。」

黙り込むシンを見てインは、シンの肩を掴んで顔を覗き込みながら声を潜め心配そうに続ける。

「もし、宮中や、王族会なんかに止められてるなら、力になるぞ?」

「フッ、おまえ、どうしたんだよ?あいつのこと嫌ってたくせに!?」

シンは苦笑しながら、訝し気に尋ねた。インは目を泳がせて慌てて取り繕った。

「いや!え?その…確かにさ、品格は無いかもしれないけど、人としてはその‥そんなに悪く
 無いと思うぞ!うん。」

「ハハッ、そうか。」

シンは乾いた笑いを漏らしながら空を見上げている。

「…で、連絡取ってるのか?」

「…いや。」

「え?!マジかよ。なんで?」

──直接声を聴いたら、我慢の糸が切れそうで怖くて…。(なんて、本心は秘密だ。)

「…事件後の事態の収拾が大変でな。寝る間も無い程のスケジュールで、正直余裕が無かった。
 あいつも向こうでの生活に慣れるのに大変で…それに一応、俺達は謹慎中だからな…」

「そうか…なんか色々大変そうだな…」

「あぁ、まぁな…俺が東宮に戻ってから一度互いの無事を連絡し合った以来、電話で直接連絡を
 取ってない。たまに、あいつからメールが来ることもあるが‥な…」

「ふぅん…」

イメージ 2

そこで会話が途切れ、二人は突き抜けるような晴天の青空の彼方に轟音と共に白い飛行機雲が
駆け抜けて行くのを見かけ、インはすかさず、シャッターを切った。シンがポツリと呟く。

「…あの飛行機に乗って、今すぐ飛んで行きたいよ…」

シンの本音だろう。インは、改めてシンの身動きできない重過ぎる境遇を不憫に思った。

「…なら、行けよ。」

気を取り直し、シレッと、ファインダー越しに飛行機雲を覗きながら、答えた。
シンは、ボケた表情から急に苦々しい厳しい表情になってキッパリと言い切る。

「そうしたいが、今は、まだその時期では無い。」

インは、シンのそんな表情を見て、顔を歪めて肩を落とし、大きく1つ溜息をついた。

「おまえ、今、死にそうな顔してるぞ?」

「…うるさい」

不機嫌そうにプイッと顔を背け、シンは膝の上の携帯を握った拳に力を込めた。





《JPG File/Credit:GUNGGAL・google photo》

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