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「ちょうどいいだろう?シャンパーニュロゼって言って、ストロベリーとシャンパンの香りがする紅茶なんだ」 「あ…確かに」香りを思い出してミニョがうなづいた。 ピンクとシルバーのアラザン(糖衣菓子のようなもの)が入っていて、ほのかな甘みに、優しい味だと思った。 「結婚祝いにぴったりだろう?」 ミニョはなんと言っていいかわからなかった。なんだか胸が熱かった。 本当に結婚したんだよね?(式はまだだけど…) 自分に確かめるように心の中でつぶやきながら、まだなじんでいるとは言い難い指輪をじっと見た。 奥さまなんだなぁ。本当にシヌの「奥さま」になれたなんて、嘘みたいだけど…本当なんだ。 「もっと他の人たちにも改めてお祝いしてもらうけど、二人だけの結婚祝いも悪くないだろ?」 ミニョは微笑んでうなづいた。今日のことはきっと忘れないな…ずっと。何があっても。 シヌがお湯を止めて戻ってきて「ちょうどいい頃だから入って」とミニョを浴室へ促した。 「うん…ありがとう、だんな様」 「どういたしまして。大事な奥さまのためですから」 シヌが少しおどけて言うと、ミニョはあえて何も言わずに立ち上がり 「じゃあ、ゆっくり入ってきます」と手を振って向かった。 「あ、そこに残してあるのはシヌのだから、食べてね」 「気にしなくて良かったのに」 「だって、せっかく二人だけのお祝いなんだし、私だけ食べたってこれからずっと言われ続けたくないから」 シヌが笑った。 「なるほどね。じゃあ、ゆっくり味わってるから満喫しておいで」 「はーい」 シヌはデザートを口に運びながら、静かに耳をひそめてその瞬間を待っていた。 「わあ!」 少し離れた浴室のミニョの声がドア越しでもはっきりと聞こえた。 「…成功かな」 シヌが満足げに紅茶を口に運んだ。 ドアがわずかに開いて、隙間からミニョが顔を出した。 「シヌ…あれ…」 「感激した?」 ミニョはうんうん、とうなづくだけだった。初めてのことで、どう表現したらいいかわからなかった。 喜びと驚きと、感謝と…。 シヌはお湯をためるだけでなく、そこに色とりどりのバラを散らし、ローズバス(バラ風呂)を用意していたのだった。 「あ…ありがとう」 「いいから入っておいで」 「うん…シヌ、最高!」ミニョの笑顔が浴室に引っ込んだ。 シヌは予定通りの展開に微笑み、サンドイッチを口にした。 「俺はこのくらいで胸がいっぱいで食べられないのに…よく食べたな」 シヌはミニョがティーセットも楽しんだことを実感し、サプライズが成功したことにホッとした。 「いつもそばにいてやれるわけじゃないから、せめてこれくらいはね」 その頃ミニョは初めてのローズバスの彩りと漂う香りに酔っていた。 「凄い…こんなお風呂初めて」 ここまでされると、やっと実感がわいてきた。 自分は本当にシヌにとって大切な存在なんだな…。こんなにも。 神様、院長先生、それから…お父さんお母さん、それから兄さんも、皆さんに感謝します。 何か一つが違っていても、シヌとは出会えなかった。出会えたことはある意味奇跡かも。 そんな私は、幸せです。 お父さんお母さんが亡くなられたと知った時はショックでしたが…でもシヌにふさわしい心や忍耐力をきっと 私に下さったのだと思います。 それに兄さんがお母さんを探しに行かなければ、シヌと出会うこともありませんでした。 出会うまでの私を両親の代わりに育てて下さった院長先生。 私は院長先生に愛の意味を教えていただきました。 それから…。 「…ミニョ?」 あまりに長い間ミニョが戻らないので、シヌはそっとドアを開け、隙間から覗いてみた。 「あ!」 慌てて浴室のミニョのそばへ駆け寄ったシヌは、幸せそうな寝息を聞いた。 「ミニョ…溺れるぞ」 広々とした浴槽の中、バラが色とりどりに浮かぶ美しい水面下で、大胆にもミニョはくつろいで寝てしまっていた。 「疲れたんだな、ほんとに」そう思いながらも、溺れては困るので、驚かさないようにミニョを起こした。 「ミニョ。眠るならベッドに行かなきゃ」 「んん〜」 シヌが溺れないようにミニョの首を支えながら、そっと声をかけた。 「ここじゃ腕枕はできないぞ」 「……ん?」 「ほら、起きて。浴槽で寝ちゃだめだ」 「…ん、あ?え?あ、あれ??」 次の瞬間キャーと叫ぶところを、シヌがもう片方の手で押さえた。 「とにかく上がって服を着よう」 ミニョがうなづいたので、シヌはそっと口をふさいだ手を離した。 「シ、シヌ…大丈夫だから」 体を隠すように腕を胸の前に持ってきて、体を小さくしているミニョを見て、今更恥ずかしがらなくても、とシヌは思った。 それでもミニョの気持ちを尊重して、シヌはバスタオルを持ってきた。 「向こう向きで少しずつ立ち上がって。それなら見えないからいいだろう」 シヌはバスタオルを広げてミニョと自分の間に壁を作った。 「俺は見ないから、ゆっくり立ち上がって」 言葉通り、慎重にミニョが立ち上がりかけて、ふらついた。 とっさにバスタオルでミニョをくるんで、シヌが抱きしめた。 「気を付けて」 なんだか日本でも同じようなことをしてた気がするなぁ…。苦笑しながらも、ミニョをバスタオルでくるんだ後、 別のタオルで足をくるんで水滴を吸い取った。 「風邪をひくからすぐ着替えないと」 そう言って、シヌは寝室を指さした。 「あっちにワンさんからお祝いでもらった服があるから、着替えておいで」 一瞬、ミニョはぎくっとして、不安になった。まさか、また必要以上に(?)セクシーな下着とか…じゃないよね? そうだったら、今回持ち帰った衣類の中で着られそうなのを着よう。 ミニョは心でそう誓った。 思ったよりワンさんからの贈り物はおとなしめだった。それでもネグリジェだったので、ミニョはちょっとためらった。 まだ時間が早いし、パジャマよりはセクシーで…シヌはどう思うだろう。 そう思った瞬間に恥ずかしくて、脇にガウンもあることに気づいて、すぐ着てみた。 「これを着ておけば、とりあえず大丈夫かな」 どうせやたらに外へは行けないから、ルームサービスになるなら、この格好でも問題ないかな。 そう自分を勇気づけるようにミニョは割り切ることにした。 シヌだけが見るなら…いいよね?いい…かな。だんな様なんだから、いいよね…? 風呂の次にシヌが見たとき、またもやミニョは寝ていた。 ベッドの上で。 「…風呂といい、ベッドといい、あんなに恥ずかしがるくせに…。大胆なんだか、天然なんだか。まったく」 そっとミニョを布団の中に入れ、その後自分も入った。 「こんな時間からベッドに入るとは、俺も思ってなかったけどね」 そっと腕まくらをしながら、シヌはため息をついた。 「いったいいつからこんなにじらし上手になったんだか」 人の気も知らずにぐっすり寝て…。一人でなんて寝かせるもんか、と意地悪く微笑み、耳元でささやいた。 「寝込みを襲うぞ」 「…んん?」 |
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