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 ブダペストには、一口に言って東洋人にはたまらない美しさとヨーロッパ中世の重々しい歴史があります。
 そして、その歴史にはおぞましい血の歴史の繰り返しがあるのですが、それがそんなことをちっとも感じさせない、なんともなかったような静けさがあるのです。
 そう、人生において様々な失敗や成功、慶び悲しみを乗り越えた老人が、静かに過去を心の内に秘めて柔和な表情でなにもなかったかの生きている境地・・・・。そんな感じです。

 人生は、あのときああすればよかったのに、あんなことさえなかったら、とタラとレバの繰り返しです。後悔先に立たずとはうまく言ったものです。
 もう少し勉強しておけば良かったとか、あのときあの人の言うとおりにしておけばよかったとか、あの人にさえ出会わなければこんなことにならなかったのにとか、あんなこと言ったばかりに、と反省ばかり。その反対もあるでしょうが、まあ人間のすることです、どなたも同じじゃないでしょうか。
 
 歴史においても、必然か偶然か、運命としか言いようのない大いなる流れによって悲劇や喜劇が生まれます。ヨーロッパでは、近年においてはなんと言ってもナチスの登場は忘れられません。あの狂気の沙汰は人類の長い歴史では珍しくないのかもしれませんが、大昔ならいざ知らずつい半世紀ほど前、いわば最近の出来事です。ああ、中国や北朝鮮、シリア・・・・、現在も続いている国がありました。
 人間はいつでも狂気になれる動物で、いかに科学が進歩しようとやっていることは狂気の繰り返しなのでしょう。イラク侵略戦争を例に取らずとも、現代商業主義の企業においても、自分や自分派のためには対立する人の生活さえ脅かす陰謀がへっちゃらなのですから。
 歴史はタラレバの繰り返しですが、それにしてもナチスが登場していなかったらヨーロッパの歴史はどのようになっていたのでしょうか。まさにタラレバです。
 
 第二次世界大戦が終わっても、ベルリンの壁が崩壊するまでは、東ドイツやチェコ・スロバキア・゜ポーランド・ハンガリー・・・等々の東欧諸国は、その後のソ連の支配によってナチス時代の延長のような暗い時期にありました。
 ベルリンの壁の崩壊原因ともなった「ハンガリー動乱」は、9世紀にマジャール人がこの地に根付いて以来の彼らの誇りの爆発でした。
 それは東西冷戦解消の大きな原動力となりました。ハンガリーは、1921年のトリアノン条約でナチスに国土の6割を失い、ナチスに侵攻されて不本意ながらドイツの一員として第二次世界大戦を戦いました。
 ナチスがソ連との戦いに敗れると、ナチスによって不本意ながらドイツ側という立場に仕立てられていたが故に、ハンガリーはそのままソ連領になりました。
 
 そして強制的に共産主義国とされたのです。

 日本の北方領土が、ソ連に取られたようなものです。
 通訳のバーバラ嬢が言いました。
 「ブダペストの人たちはみなロシア人をよく思っていません」と。
 
 ソ連領として10年あまり、1956年ついに「ハンガリー動乱」としてハンガリー民族はソ連に対して暴発しました。彼らは民族の誇りにかけて蜂起し取り返したのです。
 民族のアイデンティティは、イスラム原理主義やナチス全体主義による盲目への危険はあるものの、ソ連による不当な支配に対抗して自由を主張するエネルギーとして感動すべきものです。日本ではとっくに化石となってしまった情熱と正義感です。
 この動乱によって、旧共産圏のハンガリーと自由圏オーストリアとの国境が開放され、ベルリンの壁はその意味をなさなくなりました。
 東ドイツに閉塞されていた市民がこの解放された国境へ押し寄せたのです。そして1989年11月9日、テレビのニュース画面が今でも鮮明によみがえるあのベルリンの壁の崩壊へと繋がったのです。考えてみれば、ついこの間のことです。
 ハンガリーのブダペストは、まことに美しい町です。そして市民の誇りにあふれた歴史をそこかしこに感じます。何度もゆっくりと訪れてみたい町です。
 
ブダペストのメインストリート、ヴァーツィー通りを歩きながら、バーバラ嬢の話を聞いて諸行無常を想いました。
 くさり橋、エリザベート橋、マーチャーシュ教会、そして美しき青きドナウ川。年に一回づつでも行きたいところです。
 
写真・上、ヴァーツィー通りのバーバラ嬢。  中、くさり橋にて。  下、夜のドナウ川と王宮
 
   
 

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