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1974年、ワールドカップ西ドイツ大会決勝戦。 地元西ドイツとのファイナルを争ったのは、『オレンジ軍団』のオランダ。 両チームともに当代きってのスーパースターを擁した戦いは、フランツ・ベッケンバウアー率いる西ドイツが2−1で逆転勝利し、2度目の世界一に輝いた。 しかし、大会を通じて世界の注目を集め、賞賛されたのはヨハン・クライフが中心となり、後の戦術に大きな影響を与えた敗者のオランダであった。 14年後、場所は同じミュンヘンのオリンピック・シュタディオン。 EURO1988の準決勝で再び顔を合わせ、この時はオランダが2−1で逆転勝利し、リベンジを果たした勢いで初の国際タイトルを勝ち取った。 その1年後、1990年ワールドカップイタリア大会のヨーロッパ予選でも同じグループとなり、2戦ともドローに終わり、両者揃って本大会出場を決めた。 大会前、地元イタリアとともに優勝候補筆頭に挙げられていたのはオランダであったが、大会直前に監督が交替し、チームとしての準備不足が懸念された。 同じグループとなったイングランド、アイルランド、エジプトと全て引き分け、得点はわずかに『2』、チームとしての一体感を欠き、特に攻撃の中心であるファン・バステンの不調もあって、得点力不足に陥っていた。 アイルランドと勝点、得点で並び抽選の結果、グループ3位で決勝トーナメント進出となった。 一方、西ドイツは初戦のユーゴスラビア戦に4−1、続くUAE戦でも力の違いを見せつけ5−1と2戦連続で大勝し、評価は一気に急上昇した。 最終戦のコロンビア戦には、終了間際に追いつかれる不覚をとったが、堂々と1位でのグループリーグ突破であった。 オランダが3位となったことで、決勝トーナメント1回戦で因縁の対決が実現した。 2位のアイルランドが地元のイタリアと対戦することになっただけに、因縁だけでなく何か違ったものに導かれたとは考えすぎか・・・。 6月24日、舞台はミラノのスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ。 ここをホームとするインテルには西ドイツのマテウス、ブレ−メ、クリンスマン、ミランにはオランダのグーリット、ファン・バステン、ライカールトがそれぞれ所属し、さながらミニ・ミラノデルビーの様相を呈し、因縁が二重にも三重にも絡み合っていた。 西ドイツは、グループリーグ最終戦をオランダより2日前に終え、しかもグループリーグを通じてミラノで戦っており、移動なしで大一番を迎え、コンディション的には圧倒的に有利であった。 肉離れでグループリーグを欠場したエースキラーのコーラーが復帰し、万全の体制でオランダを迎え撃つ。 しかし、オランダもヨーロッパチャンピオンとしてのプライドと、16年前に優勝をさらわれた借りが残っている。 両者の幾重にも絡み合った因縁の対決は、オランダのキックオフで始まった。 立ち上がり、両チームとも慎重にパスを回し相手の出方を伺うが、最初にペースを握ったのはオランダ。 6分、左サイドでビチュヘからパスを受けたファン・バステンが前方へ走りこむグーリットへダイレクトでパス、ブッフバルトに競り勝ったグーリットからのクロスにビンターが飛び込むが、ブレーメが辛うじてクリアする。 8分、今度は右サイドからのクロスをビンターがダイビングヘッドであわすが、わずかにタイミングがあわずバーを超えていく。 11分、ボウタースがPA手前からループシュートで狙うが、これもバーを越える。 12分、西ドイツも反撃の狼煙を上げる。ドリブルで攻めあがるブッフバルトとスイッチしたリトバルスキーがミドルシュートを狙うが、強烈な一撃はバーを越える。 両チームとも中盤でボールをキープするが、お互い最終ラインでのマークは厳しく容易にPA内へ進入することを許さない。 19分、フェラーがドリブルで左サイドを突破し、クロスを入れるがGKファン・ブロイケレンがキャッチ。 20分、左サイドでボールを受けたフェラーがマークするファン・アールをかわしスピードを上げたところをカバーに入ったライカールトがファールでストップする。 ライカールトにイエローカードが出される。 すれ違いざま、ライカールトがフェラーに唾を吐き、それに対し言い争ったフェラーにもイエローカードが出される。 22分、ブレーメのFKは、ゴール前で競ったフェラーの前に流れたが、GKファン・ブロイケレンがキャッチする。 飛び込んだフェラーはそれを避けようとしたが、わずかに接触し転倒。 そこへ先ほど言い争ったライカールトが歩み寄り、再び口論へ発展する。 そして、両者にレッドカードが出され、退場処分となる。 またもライカールトは、フェラーに唾を吐きつけた。 フェラーから人種差別的な言葉を受けていたようだが、そのシーンはカメラを通じ、全世界へ伝わった。 28分、グーリットが右からのクロスをコントロールし、ヒールで落としたボールをボウタースがミドルシュートを狙うが、ゴール左へ外れる。 31分、ファン・ティヘレンからのアーリークロスに絶妙のタイミングでDFラインの裏へ飛び出したグーリットがスライディングしながらボレーで狙うが、ジャストミートせず、ゴール左へ外れる。 32分、マテウスのドリブル突破をボウタースがファウルでストップ、そのFKをリトバルスキーがGKとDFラインの間へ絶妙なクロスを入れ、クリンスマンとブッフバルトが飛び込むがわずかにあわない。 37分、マテウスから右サイドのスペースへ出されたロングボールを追ったリトバルスキーが、ボウタースのGKへのバックパスをカットし、クロスを入れブッフバルトがボレーであわすが、ファン・ブロイケレンが戻りながら逆モーションとなったが、ファインせーブ。 西ドイツはこの試合で最大のチャンスを逃した。 41分、CKからグーリットがニアであわせるがゴールを大きく越える。 45分、ビチュヘの左からのクロスをビンターがヘディングであわせるが、これもバーを越える。 前半を終え0−0。 序盤、オランダがサイド攻撃からリズムを作り、チャンスを掴みが決めることが出来ず、退場劇以降守備の要を失ったオランダ守備陣のスキをつき西ドイツがチャンスを作りだした。 しかし、両チームともシュートの精度を欠き、ゴールを奪うことが出来なかった。 特にファン・バステン、クリンスマンの両エースに決定的なシュートチャンスが訪れることなく、波乱の前半を終えた。 後半が始まり、最初にチャンスをつかんだのは西ドイツ。 49分、カウンターから、マテウスからのパスを受けたクリンスマンのクロスを、パス&ゴーでゴール前に進入したマテウスがヘディングで狙うが、威力が弱くファン・ブロイケレンがキャッチ。 50分、左サイドを突破したブッフバルトのクロスを、ニアへ走りこんだクリンスマンが左足のボレーであわせ、西ドイツが待望の先制ゴールを挙げる。 そして、ゲームはここからさらにヒートアップし、オランダも気落ちすることなく反撃に出る。 51分、ファントシップが右サイドを突破し、クロスを入れグーリットがボレーであわすがゴールを大きく越え、オランダサポーターからもブーイングを浴びる。 54分、CKからのこぼれ球をファン・アーレがクロスを入れ、走りこんだボウタースがワンタッチでマークするブレーメを振り切り、狙い澄ましてシュートを狙うが、わずかにゴール左へ外れる。 1点を奪って守勢に回った西ドイツをオランダが押し込むが、頼みのファン・バステンには決定的なチャンスはなく、グーリットもケガの影響からか鋭さに欠いていた。 西ドイツは守備を固め、前方にある広大なスペースを1トップとなったクリンスマンに狙わせる。 67分、リードされ、1点が早く欲しいオランダはDFのファン・アーレに替え、キーフトを投入。 68分、グーリットの左からのクロスは、コーラーがかろうじてCKに逃れる。 70分、右サイドのファントシップからのクロスにファン・バステンがあわせるが、DFに当たりGKイルクナーがキャッチ。 73分、カウンターからマテウスがドリブルで上がるところをファン・バステンがファールで倒し、イエローカードが出される。 ファン・バステンの顔にも焦りと自身の不甲斐なさから苛立ちが現れている。 76分、ブレーメから前線のスペースへ出されたボールをクリンスマンがDFと競りながらボレーで狙った強烈な一撃は、ファンブロイケレンを破るが、ポストに阻まれる。 77分、西ドイツは、前線を縦横無尽に走り回ったクリンスマンに替え、リードレを投入。 84分、フレッシュなリードレが左サイドを突破し、グラウンダーのクロスを入れ、PA内でこれを受けたリトバルスキーがDFをかわし左足でシュートを放つが、これを読み間合いをつめたGKファンブロイケレンがブロックしCKへ。 85分、CKからブッフバルトが競って、こぼれたボールを追い、サポートにきたブレーメにバックパス。フリーのブレーメはPA角付近から、右足でカーブをかけ狙い澄ましたシュートは、サイドネットに吸い込まれ、西ドイツが決定的な2点目を挙げた。 オランダも最後の力を振り絞り、反撃に出る。 88分、後ろからのロングボールを競ったファン・バステンが倒され、オランダがPKを得る。 これをクーマンが冷静に決め、オランダが1点を返す。 しかし、オランダに追撃する力は残されておらず、1分30秒のアディショナルタイムが無情に過ぎ、試合終了のホイッスルを迎えた。 ヨーロッパ予選を無敗で突破したが、選手と監督の溝は深く、大会が始まる1ヶ月前に監督が交替する異例の事態となった。 選手たちは、この混乱を収集すべくヨハン・クライフ監督就任を望んだが、それも叶わなかった。 自ら、崩壊していったヨーロッパチャンピオン・・・。 西ドイツはDF登録の選手を6人起用し、オランダの攻撃力を封じた。 守備的な戦術と批判を受けようが、2年前に喫した敗北を払拭するため、チーム一丸となって闘った西ドイツ。 フランツ・ベッケンバウアーは、監督としての世界制覇に向けた最大の難関を突破した。 |
名勝負
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過去のワールドカップの名勝負を中心に・・・。
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1985年9月、メキシコはM8.1の地震に襲われ、多大な被害を受け翌年に控えたワールドカップの開催が危ぶまれていた。 しかし、メキシコ国民のフットボール、ワールドカップへの情熱のおかげで、無事開催することとなった。 優勝候補の筆頭に挙げられたのは、前回大会で素晴らしいフットボールを展開しながらも優勝を逃したブラジルとフランス。 準々決勝で両者は激突し、ハリスコの芸術と呼ばれた両チームの死闘は、PK戦の末にフランスが準決勝進出を決めていた。 そして、前回大会で『若さ』を露呈し、屈辱にまみれたディエゴ・マラドーナがリベンジを期するアルゼンチン。 前評判では前記の2チームに劣っていたが、前回チャンピオンのイタリア戦をドロー、韓国、ブルガリアを破り、1位でグループリーグを突破。 決勝トーナメントの1回戦でも、隣国ウルグアイとのラプラタ河決戦を制し勝ち上がっていた。 注目のマラドーナは、精神面でも成長を見せ、悪質なファウルにも耐え、エースそしてキャプテンとしてアルゼンチンを牽引した。 1982年に起こったフォークランド紛争(マルビーナス戦争)以後、国交断絶状態が続いており、敗戦国となったアルゼンチン国民にとっては、屈辱を晴らす絶好の機会であった。 両チームともそういった背景を意識してか慎重な立ち上がりを見せる。 もちろん炎天下で、しかも高地での試合ということも影響していたであろう。 6分、この試合のファーストシュートであるイングランドのフェンウィックのシュートは、大きくゴールを超える。 8分、そんな膠着状態を切り裂いたのは、やはりマラドーナであった。 センターサークル付近でボールを受けると、右サイドで3人に囲まれながらも突破を図るとイングランドのフェンウィックは、たまらずファールで突破をストップ。 早くもイエローカードが出され、早い時間帯でのイエローカードが後のプレーに大きく影響することとなる。 9分、そのFKをマラドーナが直接ゴールを狙うが、イングランドの壁に当たりGKシルトンはセーフティーにCKへ。 10分、今度は左サイドを突破したマラドーナのクロスをバルダーノがヘディングシュートで狙うが、大きくゴールをそれる。 12分アルゼンチンはGKプンピードの軽率なプレーでピンチを招くが、ベアズリーのシュートは惜しくも外れる。 ここまで、アルゼンチンがボールをキープし、イングランドが堅い守備で応戦する構図ができつつあったが、両チームともにミスからボールを奪われ、フィニッシュの段階まで行けない。 そんな状況でも、マラドーナが繰り出すパスやドリブルは、チャンスの雰囲気を存分に醸し出していた。 29分、左サイドでパスを受けたマラドーナがヒールでバルダーノへパス。 バルダーノのクロスにエンリケ、ブルチャガが飛び込むが、GKシルトンが飛び出しピンチを防ぐ。 31分、マラドーナが中央突破を図るがペナルティエリア手前でファールを受け倒される。 32分、FKをマラドーナが直接狙い、わずかにゴール左へ外れる。 34分、右からのCKでマラドーナはカメラマンが邪魔になるとアピールし、コーナーフラッグを抜き取ってしまう。 レフェリーに注意され、渋々コーナーフラッグを直すマラドーナ。緊迫した場面でも一人余裕を見せるマラドーナ。 36分、自陣でボールを受けたマラドーナが、またドリブルで仕掛け、シュートを放つがDFに当たりCKへ。 『緩』から『急』へのシフトアップが尋常な速さではないため、フェイントがなくてもDFは振り切られてしまう。 39分、マラドーナからのパスを受けたクシューフォのシュートは大きくゴールを外れる。 この時マラドーナは、パスを出した後、イングランドDFの肘打ちにあい倒れるが、大事には至らなかった。 42分、マラドーナがドリブルで右サイドから中央へ切れ込み、ヒールで残したボールをバチスタがシュートを狙うが、DFに阻まれる。 前半を終え0−0。 イングランドはここまで5得点を挙げているエースのギャリー・リネカーにボールを供給できず、シュートチャンスすらほとんど作れなかった。 一方のアルゼンチンもマラドーナの突破からしか活路を見出せなかった。 後半も前半同様の展開で、最初にチャンスをつかんだのはアルゼンチン。 50分、中盤でドリブルを始めたマラドーナが徐々にシフトアップし、イングランドDF3人をかわしバルダーノへパス。 マラドーナはスピードを緩めることなく、バルダーノからのリターンを狙いゴール前に走りこむ。 しかし、バルダーノはコントロールをミスし、マークに来たホッジにボールを奪われるが、この浮きだまをホッジがクリアミスし、ゴール前に上がったボールをマラドーナが“神の左手”で押し込み、アルゼンチンが先制。 イングランドは。必死に抗議するが判定は覆らず、“神はレフェリーをも味方につけていた”。 54分、今度の神業は世界中を『驚嘆』と『感動』の渦に巻き込んだ。 自陣右サイドでパスを受けたマラドーナは、リード、ベアズリーの2人を巧みなステップでかわすと、そのままイングランドゴールへ向けドリブル。 スピードを落とさず、細かいステップを踏みボールを相手の届かない所へ運びながらブッチャー、フェンウィックを置き去りにし、最後はGKのシルトンをかわし60mを独走しゴールを決めた。 フェンウィックも立ち上がりのイエローカードがなかったら、もう少し違った対応が出来たのかも知れない・・・。 これで2点をリードされたイングランドは攻撃するしかなく、気持ちが守勢になったアルゼンチンを押し込み始め、次々とチャンスをつくる。 アルゼンチンはマラドーナ一人を前線に残し、完全に守備を固め逃げ切りを図る。 58分、ロングスローからこぼれ所にホッジが飛び込むが、アルゼンチンDFがかろうじてクリアー。 60分、右サイドからのクロスをベアズリーがボレーシュートで狙うが、ジャストミートせずGKプンピードが難なくキャッチ。 63分、イングランドは一枚目の交替カードを切り、レイドに替えテクニックに優れたワドルを投入。 64分、ベアズリーが左サイドで粘り、クロスを上げるがプンピードの好判断でピンチを防ぐ。 68分、ペナルティエリア手前のFKをワドルが壁の外側を巻いて狙うが、プンピードがファインセーブでCKへ逃れる。 72分、右CKからフェンウィックのヘディングシュートはゴール上へ。 74分、イングランドはさらに攻撃の厚みを増すため、スティーブンに替え、サイドアタッカーのバーンズを投入する。 76分、FKからのこぼれ球をブッチャーがヘディングで押し込もうとするが、GKプンピードの正面。 そして、イングランドの攻撃がようやく実を結ぶ。 80分、左サイドを突破したバーンズのクロスにゴール前でフリーになったリネカーがヘディングであわせ、イングランドが1点を返す。 この失点で目が覚めたアルゼンチンは、キックオフからパスをつなぎ、マラドーナからパスを受けたジュスティのシュートは惜しくもポストを叩く。 84分には、ジュスティのパスを受けたバルダーノがドリブルで突破を図るがファールで倒される。 86分、時間をたっぷり使ったマラドーナのFKは、ゴール左へ外れる。 87分、左サイドをバーンズが再び突破し、上げたクロスはGKプンピードを越えリネカーが飛び込む。 同点ゴール!かと思われたが、オラルティコエチェアがかろうじてバックヘッドでクリアーしCKへ逃れる。 このプレーも神が宿っているとしか思えないプレーであった。 その後もイングランドは気落ちすることなく反撃を試みるが、フットボールの神はアルゼンチンを、そしてディエゴ・マラドーナを選んだ。 |
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1990年ワールドカップ・イタリア大会、南米の2強が早くも決勝トーナメント1回戦で激突した。 前回『王者』アルゼンチンは、開幕戦でカメルーンに沈み、ソ連には勝利したがルーマニアと引き分け、かろうじてグループリーグを3位で突破した。 前回大会で“神様”となったディエゴ・マラドーナはケガのため実力を発揮できずにいた。また大会前のシーズンで所属するナポリをスクデットに導いたことで、北部のミラノやトリノでは常にブーイングに晒されていた。 一方、『王国』ブラジルは3戦全勝でグループリーグを1位で突破した。 1970年以来優勝から遠ざかり、前々回、前回大会と圧倒的な攻撃力で勝ち進みながらも、それぞれイタリア、フランスに敗れタイトルに届かず、ヨーロッパの強豪に対抗する手段として伝統の4−4−2システムを捨て、リベロを配置する3−5−2システムを採用していた。 しかし、この守備的でファンタジーを捨てた戦い方にブラジル国内から批判を浴びていた。 監督のラザローニは結果を残し、その声を封じるしかなかった。 開始からブラジルは批判を封じ込めるかのように攻め、1分にブラジルはカレッカがセンターサークル付近からドリブルでDFを2人かわし、シュートを放つがカバーに入ったDFが辛うじてクリアする。 決定的なチャンスを逃してしまったブラジルであったが、その後2分、4分と立て続けにアレモンがミドルシュートを狙うが、ゴールを越えていく。 7分、右サイドのジョルジーニョからのクロスは逆サイドに流れ、続けざま左サイドのブランコがクロスを入れるが、中の選手にはあわず、クリアされる。 そのクリアボールが、この試合初めてマラドーナに渡り、右サイドを上がったバスアルドへパスを送り、リターンを受けた所をドゥンガに倒される。 満身創痍のマラドーナであったが、ブラジルにとっては要注意な選手である。 10分には、マラドーナがドリブルで突破を図るが、ブラジルの容赦ないタックルが襲ってくる。 前回大会のように体調が万全であれば、タックルを交わしたり、ファールを受けても持ちこたえれるのであるが、今大会はファールに倒され苦痛に顔を歪めるマラドーナ。 12分、ブラジルはCKからカレッカがバックヘッドで後ろへ流したボールがアルゼンチンゴール前を横切り、2人が飛び込むがわずかに届かなかった。 15分、センターサークル付近でボールを受けたマラドーナからカニージャへ絶妙のスルーパスが通るが、わずかにオフサイドの判定。 ブラジルがボールを支配し、両サイドから攻撃を狙い、アルゼンチンが守ってカウンターを狙うという構図ができつつあった。 18分、左サイドを突破したブランコからのクロスをドゥンガが戻りながら、ヘディングでゴールを狙うが、惜しくもポストに阻まれる。 22分、今度は右サイドのジョルジーニョからグラウンダーのクロスをGKがこぼした所、カレッカがシュートを狙うが厚い守備の壁に阻まれる。 ボールを支配され、アルゼンチンは後方からの危険なタックルでモンソン、ジュスティと立て続けにイエローカードを受ける。 30分を過ぎた頃からアルゼンチンも攻撃の形を作り出すようになる。 37分、アルゼンチンは初めてのCKを得、マラドーナのキックは一度はクリアーされるが、素早くボールを奪い返し右サイドでCKを蹴ったマラドーナへ再びボールが渡る。 ナポリの盟友アレモンと激しく競りながらも、粘って残したボールをバスアルドがクロスを入れ、ルジェリがヘディングで狙うがゴール右へ外れる。 43分、マラドーナがトローグリオとのワンツーで突破を狙うが、ブラジルDFも厳しいタックルで応酬する。 この時マラドーナがトローグリオへパスを出す前に、何気なくフェイントを入れてDFの足を一瞬止め、自分がプレーするスペースを作り出していた。 時間にすればコンマ数秒であるが、こういった少しの違いが天才と凡人の違いなのでしょう。 前半を終え0−0。 ブラジルがボールを支配するも、アルゼンチンの強固に形成された守備ブロックを崩すことができなかった。 一方アルゼンチンも攻撃はマラドーナ頼りであり、厳しいマークのため思うように攻撃の形が作れない。 後半が始まり、最初にチャンスをつかんだのはブラジル。 47分、アレモンのクロスをカレッカがヘディングで狙うがゴール左へ外れる。 49分、中盤からドリブル突破を狙ったマラドーナをブラジルDFマウロ・ガウボンが身体でストップしイエローカードを受ける。 52分、左サイドを突破したカレッカのクロスは、GKゴイコチェアの手をかすめポストを叩く。 こぼれたボールをアレモンがペナルティエリアの外からミドルシュートを狙うが、これもGKゴイコチェアの手をかすめポストを叩く。 62分、ブラジルの猛攻を凌いだアルゼンチンは相手陣内でボールを奪い、ブルチャガがシュートを狙うがGKタファレルが辛うじてCKに逃れる。 64分、66分とブラジルの2トップであるカレッカとミューレルがコンビで左サイドを突破し、それぞれシュートへ結びつけるがカレッカのヘディング、ミューレルのボレーシュートはゴールに結びつかない。 ブラジルの中盤は、忠実に任務を遂行するが、黄金の4人のようなファンタジーは持ち合わせておらず、サイドからの攻撃にしか活路を見いだすしかなかった。 そして、その攻撃も徐々に勢いを無くしていく。 一進一退の攻防が続くが、残り10分を切った80分、これまでほとんどのプレーをワンタッチかツータッチでプレーし、ドリブルをしてもブラジルの厳しいマークにあい、ピッチに倒され続けた“神様”は突如、閃きを見せる。 センターサークル内でボールを受けドリブルで攻め上がると、ブラジルは4人がマラドーナのマークに集中する。 4人に囲まれ倒れさながら、ほとんど使わない右足で出されたパスは、まったくのフリーになったカニージャへ。 ボールを受けたカニージャは、冷静にGKタファレルをかわし、無人のゴールへ流し込む。 アルゼンチンにとって、まさに狙い通りの展開となった。 失点を喫したブラジルは、攻撃的なレナト、シーラスを投入しようとするが、アウト・オブ・プレーにならず交替できず、時間は過ぎていく。 82分、アルゼンチンはまたもカウンターからバスアルドが抜け出し、決定的なチャンスを向かえるが、リカルド・ゴメスが後方から完全なファールで突破を防ぎ、レッドカード。 一人少なくなり、ブラジルはますます窮地に追い込まれる。 そして、ここでやっと交替が認められる。 84分、そのFKをマラドーナが直接狙うが、GKタファレルの好セーブでCKへ。 マラドーナは、タファレルを拍手で称える余裕を見せる。 87分、ブラジルは最後に最大のチャンスを向かえる。 大きく蹴り出されたボールをアルゼンチンDFがクリアミス。そのボールはゴール前でフリーのミューレルへ。 ダイレクトで狙ったミューレルのシュートは、ジャストミートせずゴール左へ外れてしまう。 アルゼンチンは肝を冷やしたが、後は冷静に時間を浪費させホイッスルを待つ。 ゴールキックを遅らせたGKゴイコチェアはイエローカードを受けるが、倒されて時間を使い、サイドでボールをキープして時間を使う。 そして、そのまま終了のホイッスル。 ワールドカップの舞台でマラドーナの右足が、ゴールを演出したのはこのアシストが唯一である。 右足を使わざるえないほど、肉体的に精神的に追いつめられていたのかもしれない。 そして、ワールドカップでアルゼンチンがブラジルを初めて勝利を収めた。 |
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1982年ワールドカップ・スペイン大会の開幕を前に世界中の目は、王国ブラジルが12年振りに王座を奪還するべく自信を持って送り込んできた『ドリーム・チーム』に集まっていた。 中でも“ジーコ”、“ソクラテス”、“ファルカン”、“トニーニョ・セレーゾ”で構成する中盤は『クワトロ・オーメン・ジ・オーロ(黄金の4人)』と呼ばれ、創造力豊かなプレーで、芸術的で攻撃的なサッカーを牽引した。 ブラジルは、圧倒的な攻撃力で一次リーグを3戦全勝で勝ち抜き、二次リーグの初戦でも前回王者アルゼンチンを粉砕した。 そして二次リーグの最終戦、バルセロナのサリア・スタジアムでイタリアと顔をあわせた。 イタリアはアルゼンチンに勝利を収めていたものの、一次リーグでは3引き分けと得点力不足に喘いでいた。 自慢のカテナチオは健在であったが、前回大会で彗星のごとく現れた“パオロ・ロッシ”は出場停止のブランクが響き、得点を挙げられず批判の矢面に立たされていた。 試合はブラジルが攻め、イタリアがカウンターを狙うと思われていたが、意外な展開となった。 4分、イタリアは隠し持っていた鋭い攻撃を突如繰り出した。 コンティが右サイドでゆっくりとしたドリブルでボールをキープすると、ブラジル守備陣はまるで磁石にでも吸い寄せられるようにコンティに集中する。それを見たコンティが左サイドへ大きくサイドチェンジすると、オーバーラップしてきたカブリーニがフリーでボールをコントロールし、クロスを上げるとそこに現れたのは、パオロ・ロッシ。フリーのロッシはヘディングでブラジルゴールを破った。 ブラジルにとって慌てる時間帯ではないが、これまで眠っていたロッシの得点嗅覚を目覚めさせてしまったことが、後の展開を大きく左右することとなる。 10分、ブラジルが最初の決定機を迎える。ゴール前でこぼれ球を拾い、フリーでGKと1対1となったセルジーニョのシュートはゴール左に外れる。 ドリーム・チームと呼ばれたブラジルにもウィークポイントがあり、その一つがセンターフォワードの人材であった。 セルジーニョは王国のセンターフォワードを務めるほどの実力はなかった。 監督のテレ・サンターナもそのことを理解し、2トップのセルジーニョを中央に、エデルを左サイドに固定することで、右サイドのスペースを黄金の4人が自由に使いゴールを挙げてきた。 同点のゴールもそこから生まれた。 11分、右サイドでボールを受けたジーコはDFを一人かわすと、前を走り抜けるソクラテスへ絶妙のスルーパス。角度のない所からソクラテスのシュートは、GKゾフが守る狭いニアサイドを破った。 ブラジルが追いつき、誰もがこれから始まるブラジルの攻撃ショーを期待した。 しかし、イタリアもしたたかだった。 ボールはキープされるもののブラジルのキープレーヤーであるジーコにはジェンティーレがつきまとい、ファール覚悟でジーコを止めることで、ブラジルの攻撃力を削ぎ落としていった。 同点に追いついたブラジルであったが攻撃の中心を消され、疲労(ブラジルは中2日、イタリアは中5日)もあり、名手達の足下は微妙に狂いコントロールミス、パスミスを繰り返し、決定的なチャンスを作れない。 そして24分、自陣でボールを受けたトニーニョ・セレーゾが決定的なミスを犯す。 トニーニョ・セレーゾの力無い横パスは、ファルカン、ルイジーニョ、ジュニオール3人のちょうど真ん中に転がり、3人の動きが一瞬止まった所を甦ったロッシは見逃さずインターセプトし、そのまま持ち込み勝ち越しのゴールを決める。 ブラジルは、32分トニーニョ・セレーゾのアーリー・クロスをソクラテスがヘディングでゴールを狙うが、GKゾフの正面。 33分イタリアは、負傷したコロバティに替えて弱冠18才のベルゴミを投入。 41分ペナルティエリア内でパスを受けたジーコがシュートを放つが、その前にハンドのファールを取られる。 その時、ジーコはジェンティーレにシャツを引き裂かれた。 ソクラテスのゴールをアシストしてから、ジーコはほとんどプレーさせてもらえず、ジェンティーレのマークは執拗で厳しいものだった。 結局、イタリアがリードして前半を終えた。 後半、ブラジルはこれまで同様右サイドのスペースを攻撃の起点とする。 46分ジュニオールのスルーパスからファルカンのシュートがGKゾフを破るが、ゴール左へ外れる。 イタリアもカウンターから、50分にコンティが後方からの浮き球を見事なコントロールでDFをかわし、チャンスを向かえるが左足でのシュートは力無くゴール右へ外れる。 ここからブラジルが猛攻を仕掛ける。 52分、ゴール正面のFKをジーコがゴールを狙うが、大きくバーを越える。 53分、レアンドロのミドルシュートはGKゾフの正面へ。 54分、センターサークルからジーコの長いスルーパスがイタリアDFを切り裂き、トニーニョ・セレーゾがシュートを放つが、GKゾフの好判断にブロックされる。 57分、ジュニオールからの浮き球をトニーニョ・セレーゾが頭で落とし、セルジーニョが飛び込むがシュートはできない。 イタリアはその奪ったボールをカウンターにつなげ、ゴール前でフリーになったロッシがインサイドでゴールを狙うが、ジャストミートせずボールはゴール右へ。 冷や汗をかかされたブラジルであったが、攻撃の手は緩めない。両サイドバックもほとんど攻撃に参加し、実質DF2人で守備を担当する。 59分、ゴール正面からエデルのFKは、この試合で初めてゴールマウスを捕らえるが、GKゾフの正面。今大会相手チームにとって脅威となった左足は疲労からか精度を欠く。 62分、トニーニョ・セレーゾがジュニオールとのワンツーで抜け出し、ボレーシュートでニアサイドを狙うが、惜しくもポストを叩く。 67分、またもブラジルの右サイドからの攻撃が実を結ぶ。 左サイドからドリブルで中へ切れ込んだジュニオールがペナルティエリア手前でフリーになっているファルカンへパス。 ボールをキープするファルカンの後ろをトニーニョ・セレーゾがオーバーラップを狙う。 この動きにイタリアDF陣は完全につられ、ファルカンはフリーで左足を振り抜き、同点のゴール。 ブラジルは、引き分けでも準決勝へ進める。 残り20分余りを守りきるのか、それともこれまでの攻撃的なサッカーで追加点を狙いにいくのかが注目されたが、やはりブラジルが選択したのは後者であった。 選手交替は、CFのセルジーニョに替え、ウイングタイプのパオロ・イジドロ。 先のアルゼンチン戦では、ケガもありジーコに替えて守備的なバチスタを投入しているのだが・・・。 ブラジルはこれまで同様に攻めた。試合運び、駆け引きなどを超越したブラジル人の血がそうさせているとしか思えない。 しかし、ブラジルに待っていたのは歓喜ではなく思わぬ落とし穴であった。 74分、アントニオーリが左サイドから上げたクロスはゴール前を越え、フリーのトニーニョ・セレーゾへ、トニーニョ・セレーゾはヘディングでGKへのバックパスを選択する。 GKペレスが飛び出すが、わずかに届かずコーナーキックとなってしまう。 トニーニョ・セレーゾはフリーで、飛び込んでくるイタリア選手はおらず、そのまま流してタッチへ出していれば・・・。 コンテのキックをヘディングで競ったこぼれ球をタルデリがシュートを狙うが、ジャストミートせず威力なく転がったボールはゴール前へ、そこにいたのはロッシ。 ゴール前でコースを変えると、GKペレスは防ぐ事が出来ず、ロッシのハットトリックでイタリアが三度リードを奪う。 残り15分イタリアは、前線にロッシ一人を残し、カテナチオをより強固にし逃げ切りを図る。 79分、レアンドロのスルーパスからジーコが抜け出し、シュートを決めたかに思えたが、わずかにオフサイドの判定。 ブラジル選手の顔には『焦り』と『苛立ち』がにじみ出ている。 こうなるとイタリアは時間の使い方も上手く、サポーターもそれに呼応するようにパスが回る度に“オーレ”の歓声でサポートする。 イタリアの強さは、ただ守りに入るだけでなく、チャンスを見つけては、少ない人数でも決定的なチャンスをつくり出す。 87分、カウンターからパスを回し、フリーでアントニオーリが追加点を決めたかに見えたが、惜しくもオフサイド。 その直後、ブラジルに最後のチャンスが訪れる。 88分、左サイドからのFKをオスカーがヘディングでシュートを放つが、かろうじてゴールライン上でGKゾフが押さえる。 ロスタイムの1分が過ぎ、試合終了のホイッスルが鳴り響くと同時にサンバのリズムが消えた。 もし、この試合ブラジルがほんの少しだけ理想を放棄し、現実に目を向けたなら結果は変わっていたことだろう。 そして、世界のサッカー界の流れも変わっていたかもしれない・・・。 |




