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「ゴホッ、ゴホッ……ううっ…ぐっ…。」
「如何なさいましたか?殿下。
まだ、咳がお辛いですか?」
「アッ…ジョ…シィ…、ゴホッっ…ゴホッ…、
オ、ォン…マァ…、オォ…ディエ…ヨォ…。」
「殿下…。
皇后様は正殿においででございます。」
「ゴホッ…。ゴホッっ…ン。
オォ…ンマァァ…。オンマァァ…。」
「殿下…。」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「シン君…、シン君…。」
僕を呼ぶ声に導かれて、僕はゆっくり瞼を開けると
「シン君、こんなところで寝ちゃ、あの子たちみたいに風邪引いちゃうよ。」
深夜に照度を落としたダウンライトの灯りと、加湿器から出る蒸気音の中
部屋の脇にある一人掛けソファーに、身を委ねてうたた寝していた僕を、
見かねた彼女が起こしてくれたようだ。
「ん…あぁ…、いつの間にか寝ていたのか…。
で、熱は?下がったか?」
「うん、もう大丈夫だって。
シン君も私のピンチヒッターの公務のあと執務室に籠りっきりで、大変なのに……。」
「構わないさ、それであの子たちの傍にお前がいれるなら。」
「ほんんと、ゴメン。
後でコン内官アジョッシに聞いたよ。
かなりタイトなスケジュールだったって…。
私が公務行けない分シン君に負担掛けちゃったネ…。」
本当に申し訳なさそうに眉をハの字にして、詫びる彼女にさっきの夢のせいだろうか?
昔の自分を思い出していた。
5歳でいきなり、見ず知らずで大人ばかりの世界に独りぼっちにされて、ある時熱を出した
僕は、精一杯の声で母上を呼んだけど、母上は僕の傍には来てくれなった。
今となっては、皇后という身分でわが子とはいえ、簡単に皇太子のいる東宮殿に来る事は
出来なかった。
大人たちの事情があったとはいえ、あの時の孤独感は今でも、心に冷たく響く。
だからせめて、我が子達にはこんな思いはさせまいと、彼らが成人するまでは
僕ら親子4人で当たり前に過ごせる様にと、皇帝に即位して、早速法度も変えた。
「誰だって、病気の時は心細いだろ?」
「そう言えば、さっきシン君『オンマ』って寝言言ってたよ。」
「……。
そんな事言ってたか?」
「うん、ここにさっ、皺寄せて難しそうな顔してさっ。」
そう言うと、自分の眉間を狭めて僕の真似をする彼女に…。
「そんなに怖い顔してたか?」
という言葉に『ウンウン』と彼女は首を縦に振り頷いた。
「そっか…。」
そう言って、愛くるしい我が子たちが眠るベッドに近づき、いっぱいかいた汗を
拭うように額に掛る髪をかきあげると、くすぐったいのか『ニコッ』と微笑んだ。
「何も双子だからって、揃って熱出す事もないのにね…。」
僕の隣に寄り添うようにして、子供たちを見ながら困ったように言う口ぶりとは
真逆に彼女は柔らか微笑みで愛おしいそうに、彼らの額にキスをした。
幼かった僕が欲しくて望んでも、手に入らなかった、それを目の当たりして
少し羨ましかったのか思わずポロリと口をついて出た。
「この子たちが…、羨ましいな…。」
「ん?」
「いや…、オンマを無条件に独占してるから。」
「やだっ…、シン君子供返り?マザコン?」
チェギョンは僕の意外な反応にギョッとした様子になっていたが
そんな彼女の様子に、僕は自然に笑みが零れて更に冗談ぽく言ってみた。
「子供返り出来るならイイかも?」
皇帝となって冗談とは無縁となりつつある、夫を神妙な面持ちで見つめ、おもむろに
手のひらを僕の額や、頬、首周りにペタペタ触れて
「やっぱり、熱はないわね…。」
「なんだよ…。」
それでも、不思議そうに見るチェギョンに軽く微笑んで
「心配するな、マザコンになる程、僕に幼少期の母上の記憶は無いよ…。
だからかな…、この子たちにはオンマの優しい記憶を残してやりたい。」
その言葉にやっと納得したのか
「そっか…。
うん…、そうだね…。」
そう言ってしばらく、2人して子供たちの寝顔を見ていた。
そして、チェギョンがポツリと呟くように言うんだ。
「シン君の記憶には残って無いだろうけど、ホントは皇太后様も、きっとこうして
シン君の傍に居たかったんだろうな…。」
彼女の言う事は理解は出来る。
ただ…、僕には幼少期からのトラウマというか、そういった親子の絆というものが、
心の核の部分で腑に落ちてないのかイマイチすんなり未だに落ち着かない。
そんな僕の様子をチェギョンは察したんだろう
「シン君もちゃんと愛されてたんだよ。だから大丈夫。」
そう言ってその小さな体で僕を包み込むようにして抱きしめくれた。
「オンマはね、子供を無条件に愛する事が出来るんだよ。
私もこの子たちのママになったからこそ、今は皇太后さまの思いがわかるよ…。」
そう言って、幼子に話す様に僕に語りかける。
「ママの思いはみんな一緒。
こうしていつも抱きしめて、『愛してるよ』って子供に伝えたい。
変わらぬ思いなんだよ…。」
子供の頃の僕は凍えるような寒い世界しか知らなかった。
大人の僕は、チェギョンによって人を愛する事を知って、本当の幸せを感じた。
「なあ、チェギョン。」
「何?」
「この子達の風邪が治って、仕事のメドがついたら、海にでも行くか?」
「どうして素直に温陽の御用邸に行こうって言えないの?」
「こういう時は何も言わず『わかった!』って言えよ。」
「ふふっ…♬
うん…、わかった。
この子たちも喜ぶね。」
「いや、父上と母上の方が喜ぶよ。」
「そうね…。」 そう言って子供たちを2人して見つめながら、僕はこの優しい温かな変わらぬ想いが
ずーっと続きますようにと願った……。 -END-
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