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光原百合の『時計を忘れて森へ行こう』(創元推理文庫)を読んだ。 〜あらすじ〜 同級生の謎めいた言葉に翻弄され、担任教師の不可解な態度に胸を痛める翠は、憂いを抱いて清海の森を訪れる。さわやかな風が渡るここには、心の機微を自然のままに見て取る森の護り人が住んでいる。一連の話を材料にその人が丁寧に織りあげた物語を聞いていると、頭上の黒雲にくっきり切れ目が入ったように感じられた。その向こうには、哀しくなるほど美しい青空が覗いていた…。 ☆ 文庫版腰帯に「語り手と一緒に物語(ミステリ)の森をさまよってみませんか」(←新しく追加された公式wiki:斜体を使ってみた)と書かれている通り、本書は森の空気が濃厚な作品である。 タイトルからして『時計を忘れて「森」へ行こう』だし、語り手の高校生は若杉翠、探偵役を務める自然解説指導員(レンジャー)は深森護と、これでもかというくらいの名前である。 そして物語の主な舞台となるのは清海にあるシーク協会の敷地。八ヶ岳南麓に広がっている。 ☆ 収録されているのは3つの短編だ。 どの短編でもある謎めいた出来事が起き、その謎を自然解説指導員の深森護が解き明かしていく。 謎を呼ぶ出来事は作品全体の持つ静謐な印象とは対照的に、ブラックなものばかりだ。たとえば第一話では、普段温厚な坂崎先生が恵理さんを叩いたのはなぜか、など。 ☆ 謎があって、それが解き明かされる、というミステリ的な部分はある。 しかしそれと同じくらい重要なのは、心を温かくさせてくれる作品であるということ。 登場人物の人柄や、文章の一つ一つ、そしてシークの活動なんかがジーンとしみてくる。<ゆうゆう倶楽部>に僕も参加したいと思うようになってくる。 できればこの小説は、夜なんかに心を落ち着かせて読みたい。 ☆ ストーリーとは直接関係なくともハッとする箇所が多い。 2章でこずえさんが口ずさむ佐藤春夫の詩がいいじゃないか。 君は夜な夜な毛糸編む 銀の編み棒に編む糸は かぐろなる糸あかき糸 そのラムプ敷き誰がものぞ あるいはキャンプの朝食のシーン。 江戸紫に沈んだ色のジャムが、スプーンですくったとたんに、鮮やかな古代紫に輝く。ブルーベリージャムを食べるときはいつも、この紫の魔法を見るのが楽しみだ。 ミステリを読むことの面白さ以上に、文章を読むことの面白さに気づかされた作品だった。
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わぁ、面白そうですね。またまた読みたい本が増えてしまいました。題名を見ただけで、いいなぁと思っちゃいました。日本語の多様さや面白さも味わえそうですね♪
2007/1/25(木) 午後 10:22
なかなかの高評価ですね。これ、デビュー作でしたっけ?自然と人間の触れ合いが素敵でしたね。でも実は私は光原作品、この頃よりもう少し後のほうが好きです。今のところ「最後の願い」が一番好きかなー。
2007/1/26(金) 午前 0:15
初めてお目にかかる作家です。佐藤春夫の詩いいですね〜〜江戸紫も!
2007/1/26(金) 午後 8:18
>ぞうの耳さん。この作家さんは、なかなかオススメですよ。僕もまだ2作しか読んでいないので偉そうなことは言えませんが。題名も素敵ですよね!
2007/1/27(土) 午前 0:38
>cuttyさん。そうですね、ミステリ界におけるデビュー作のようです。「最後の願い」というのは未読でして、cuttyさんの評価を聞くにつけ早く読みたいものですね。
2007/1/27(土) 午前 0:42
>ちろママさん。寡作の作家さんで、創元推理文庫など限られた所にしか著作がないため、本屋さんでも目に付きにくいかもしれませんね。佳品が多いですよ。「静謐」「清冽」というイメージがぴったりの文章です。
2007/1/27(土) 午前 0:44
個人的には2話目のあまりに悲しい真相(?)がストライクでした。cuttyさんオススメの『最後の願い』は僕も一押しです♪
2007/1/30(火) 午後 6:16
2話目は全体的に印象深い物語でした。『最後の願い』はcuttyさん、たいりょうさんの2名から薦められ、ますます期待が高まってきましたね。
2007/2/4(日) 午前 1:41
読みました!「ゆうゆう倶楽部」私も参加したくなりした。森の中でのんびりと穏やかに心をリフレッシュしたいなあ。とにかく、とても気持ちよくなれる作品でした。教えていただいたことに感謝です!
2007/4/4(水) 午後 2:08
この作品読めば絶対参加したくなりますよね☆ストレスがたまった時なんかに参加したいものです。本を紹介して感謝されると面映ゆいですが嬉しいですね。
2007/6/4(月) 午後 11:35