|
「釣れたでー。ブルーギルや」先生はザリガニそっちのけで釣りをしている。
先生の声につられ、生徒が集まってくる。
「先生、その魚なんな?」
「これかブルーギルや。池にはよくおるで」
「食えるんか。それ?」
「いや、食われへんやろ。これから解剖の実験するんや」
と、先生愛用のサバイバルナイフを取り出し、魚をさばきだした。
「今日はな、三枚おろしの仕方を教えちゃる」
まず、おなかにナイフを入れてはらわたを取る。はらわたが
取れたら充分に水洗いして。頭にナイフを入れる。切れ目を入れて
尻尾に向けてナイフを滑らす。これを表うらと繰り返し、あっという間に
魚が3分割された。上手いもんである。
「上手いもんやな。先生。板前見たいや」
「そやろ、みんなも、これを練習して。お母さんを驚かしてやれ」
「こつはな。ナイフをえらの後ろに入れて。そこから尻尾に向けて
背骨に剃って水平に入れることや。最初のうちは骨に身がたくさん
ついてもったいないけど、慣れてきたら骨だけになる」
「ふーん。なるほどね。でも、それできたら、何の意味があるん?」
生徒達は授業では算数、国語、理科、社会と特に何に役に立つかわからず
授業を受けているが、こういった勉強以外のことは興味津々だ。
日頃気にもしなかった、先生に教わった事は社会でなんの役に立つのか
なんて高尚な疑問まで出てきた。
「これができたらな、男なら確実にもてる。女なら結婚できる。
以外に出来ない人が多いから、絶対将来武器になるで」
「もてる」という言葉に、小学生も高学年になると敏感だ。
「ほんまにもてるんか。なら練習するわ」
子供は現金である。もてるという不順な動機が彼らを動かす。
しかし、勉強というものは本来、不順なものかもしれない。
勉強自体が役に立つとかよりも、1番になって目立ちたいと
考えて頑張るものかもしれない。だから、一生懸命やっても
一番になれない事が分かると、とたんにやる気をなくしてしまうのだ。
その点、この先生は巧みだった。全ての生徒が一番になるフィールドを
提供して誰もが一番になる快感を味合わせていた。
「魚が一番上手くおろせる奴には、このナイフをやる。みんながんばりや」
生徒達の目が先生への尊敬から欲望に変わっていた。そこらにあるサバイバル
ナイフだが、先生が持っているものは何でもカッコよく見えたものだった。
(つづく)
|