窓の外は一面の<チェリー・ブラッサム>。
桜は今が盛りの優美な美しさ。
太陽の下の柔らかな・儚い美しさ。
夜空に風に微かにそよぎ、光なくしても白く浮かびあがる華麗な桜。
「桜の花が、冷ややかに美しいのは、その桜の木の下に死体が埋まっているからだよ。」と
気持ちの良い夜風が吹いていて、夜桜が初雪のように零れ落ち。
誰かが教えてくれたのは、私が20歳の時でした。
風流な事を言う人だな。
そして、カッコいいなと想いました。
大人になったら、30歳を過ぎたら
さり気なく、夜桜の下を歩くとき、
20歳の女の子の想い出に残る言葉が言えたらいいなと、思いました。
カッコいい人は、何処までもカッコよく。
風が揺れると、その人の香水の微かな残り香が、
想い出の中でさえ、よみがえります。
それから、数年して、25歳の春。
フランスのディジョンで学んでいた時。
友人とブルゴーニュ大学の医学部の中庭を、通り過ぎたとき
柔らかい日差しの中、小さな桜の花びらが、春の嵐に舞っていました。
「桜の花はね。美しく咲き誇るのは、その桜の木の下に死体が埋まっているからだよ。」
長い艶やかな黒髪が風に揺れて、先を急ぎながら友人が口ずさみました。
さり気なく、一言だけ。
カッコいい人は、何処までもカッコよく。
美しい女性は、思い出の中でさえ美しく・印象深い。
その日の夜。いつものように、学生寮の大きな窓を開け放ち
赤いワインをグラスに注ぎ、
「桜の木の下に死体が埋まっていると書いたのは、小説家の坂口安吾だったかな?」
そういいながら一冊の小説を手渡してくれました。
彼女は美術の修士課程に在籍し、博識で、美しく
22歳の女性だった。
桜の想い出がいつまでも、新鮮に心に残るのは
それは、桜の美しさだけでなく
彼らのまとっていた、優美な物腰と風流な感性が、
私の羨望の思いが、覚めやらぬからなのだ。
時は21世紀。
これから出会う素敵な人々は、私にどんな素敵な夜桜の思い出を残してくれるのだろうか。
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