鷲巣義明のシネファンタスティック

ようこそ、ホラー映画とSF映画の快楽の部屋へ……!!

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 最初に、ちょっとした余談を……。
 ジョン・カーペンター監督の出世作ともいうべき『ハロウィン』(78)が、今年のアメリカ国立フィルム登録簿に選定された。素直に嬉しい。
 これは、アメリカ国内のフィルムを国立で永久保存・管理することが88年に制定され、89年より毎年25本ずつ選ばれてきた。今年は、ヒッチコックの『汚名』やアビルドセンの『ロッキー』などが選出されている。これで白いマスクのマイケルとカーペンター節が永遠のものになったわけですよ。

 最近あることがきっかけ(仕事関係ではない)で、篠田節子のホラー・パニック小説「絹の変容」(集英社文庫)、「夏の災厄」(文春文庫)、「神鳥〜イビス」(集英社文庫)を立て続けに読破。文章が読みやすかったこともあり、それぞれを存分に楽しむことができた。彼女の小説を読んだのは今回が初めてだけど、いすれも映像が思い浮かぶほど描写が緻密で、親近感漂わせる登場人物にも好感が持てた。

 15cmもある毛虫のような雑食性の蚕(かいこ)が群れをなして街に現れる「絹の変容」では、雑食性の蚕自体が秀逸なアイデアだし、絹の特殊成分がアレルギー体質の人間にとっては命取りになるくだりや、生物研究に心血を注ぐ、ちょっとクールな女性生物研究家のキャラが徐々に魅力をおびてゆくあたりが好き。
 ただ雑食性の蚕が皮膚に侵入したり、肉を貪る描写に限っては、もうひとつ突っ込んだ、おぞましい表現があってもいいような気がした。映像作品と比べるものではないが、同じたぐいの、のたくり状生物パニック物の映画『スクワーム』(こちらはゴカイやミミズだったけど)の方が、気色悪さでは圧倒的に勝っていたと思う。

 日本脳炎と思しき未知のウィルスが蔓延する街を舞台に、権力の網の目をかいくぐって、しがない医師、看護師、事務員などが協力して原因究明にあたる「夏の災厄」は、ウィルスの恐怖がシュミレーション的な感覚でジワジワと広がり、静かに忍び寄る感覚がたまらない。姿の見えない未知のウィルスの恐怖を、媒介する虫や動物、感染したものの異様な症状によって描写。
 更に自然破壊、新薬実験、行政の縦割り社会の構図、マスメディア批判、薬害裁判など、様々な社会的な要素を巻き込んで、ウィルス発生の原因の謎解きをあれこれ推理し、最後の最後まで飽きさせない。
実はこの小説、日本テレビで『ウィルス・パニック2006 夏』のタイトルでTVドラマ化されている。私は未見だが、もしどなたか詳細な情報(ビデオ)をお持ちでしたら教えてください。物語をどう脚色したのか? 見えないウィルスの恐怖をどのように表現していたのか?……を是非知りたいところ。

 この3冊の中で個人的に最も大好きなのが、「神鳥〜イビス」だった。著名な男性と浮名を流した写実派の女性画家の遺作「朱鷺(とき)飛来図」に隠された謎を、ヴァイオレンス作家と女性イラストレーターが解き明かしていく物語で、この2人の掛け合いがユーモアに溢れていて笑える(ページをめくるのが思わず早くなる)。女性イラストレーターは、女性画家の心理を探る内に自らの心を重ね合わせるようになり、今回のイラストの仕事の題材である朱鷺の行動を理解しようとする。
『鳥』のような動物パニック物の要素と『トワイライト・ゾーン』的な展開を巧みに絡めつつも決して中途半端な表現にならず、予想以上に完成度の高い小説だと思った。ニュース映像でしか知らなかった、絶滅種・朱鷺の悲哀だけでなく、怖ろしい一面をも描写し、ほのかな後味の悪さも実にいい感じなのだ。

 久々にパニック・ホラー小説を続けざまに読んでみて、映像で表現した方がストレートに伝わる場合があると感じた。『クリープス』+ゾンビ系の要素を合わせ持った映画『SLITHER(原題)』(日本では07年劇場公開予定)では、20cmもある、なめくじ状の宇宙生物が群れをなして襲い掛かる場面がある。
 多少コミック・テイストなホラーであっても、私が最も忌み嫌う生き物が<なめくじ、毛虫>ということもあり、観ているだけで寒気が。家中の天井や壁、バスルームや寝室にその生物がベッタリとはりついて動きまわる……思わず、ヒェーッ!!
 だから「絹の変容」には、もっと私を震え上がらせるような描写があっても良かった。少しおとなしい。それとも女性作家の初期の作品ということもあり、あまりグロさを強調したくなかったのか、或いは嫌悪感溢れる不気味な描写に抵抗があったのかもしれないが。

 3作はどれも映像化向きだとは思うが、最も映像映えするのは、「絹の変容」だと思う。他の2作も上手くやれば面白くなるかもしれない。
 例えば、「夏の災厄」の場合、未知のウィルスによるパニック描写ばかりを主眼に置いてしまうと、未知のウィルスが発生する原因と社会的な背景を暴く過程がおろそかになり、原作とは異なるタイプの作品になってしまう可能性がある。だからといって、発生の原因や社会的背景ばかりを盛り込みすぎると、社会派色が濃く出てしまい、娯楽性が失われそうだ。その両方を同じぐらいの比重で描くことで「夏の災厄」らしさが出てくる。
 しかも、ウィルスは目に見えない分、その恐怖を映像で表現するのは難しい。そのあたりを何でカバーするのか……そして何を最大のクライマックスに持ってくるのかも考慮する必要があると思う。

 私の本心を言うと、一番映像化して欲しいのは「神鳥〜イビス」だ。でも脚本化が難しいことと、ある程度、監督の手腕が重要になってくる。女性イラストレーターの心情を多分に盛り込んでいることと、彼女と女性画家の存在を対比させることが、ある意味、核だと思うから。それに朱鷺の怖ろしい一面を映像として明確に表現できるのだろうか? そのあたりも多少不安が残る。それとヴァイオレンス作家のちょっと頭髪が薄くて、腹が少し出ているキャラも変えなくてはならないかもしれない。
 とにかく映画になると製作費や興行面などを考慮しつつ、それでいて原作の魅力をも抽出しなくてはならない。その両方を成立させるには、「神鳥〜イビス」は難しい面がいっぱいありそう。絶対に低予算では映像化して欲しくない作品だけど……。

最後に近況を。
●現在発売中の「ハイパーホビー」に、『墨攻』(3月公開)、『DOA/デッド・オア・アライブ』(2月公開)の紹介記事を執筆。
●交流のあるイラストレーターの開田裕治さんたちが制作する人気同人誌「特撮が来た13」に、樋口監督作『日本沈没』に絡めた原稿を執筆。12月30日と31日に開催されるコミケで販売するとのこと。
●2007年1月20日発売の「映画秘宝」3月号に以下の原稿を執筆。「2006年ベスト10」の選出、「2006年劇場未公開SF&ホラー部門・ベスト10」の選出、劇場未公開作『デスリング』のレビュー。
●ソニー・ピクチャーズから依頼されて、「今日も、ホラー日和。」のブログ用に、コラム「ホラー映画って何だ!!」を執筆。2007年1月8日から連日5回に分けてアップされます。http://blog.livedoor.jp/ohohohohorror/
●2007年1月20日発売の「この映画がすごい!」3月号に、『グアンタナモ、僕達が見た真実』『叫(さけび)』のレビュー、『グエムル/漢江の怪物』のDVD発売に関する紹介記事を執筆。

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さっきちょうど見たんですが「ハロウィン」が入っていたのは意外な驚きでした

2007/11/11(日) 午後 10:37 tkr*21

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個人的には、ハロウィンはもっと早くアメリカ国立フィルム登録簿に選定して欲しかった気持ちですね。でも、嬉しいです。

2007/11/12(月) 午前 0:33 [ 鷲巣義明 ]

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