鷲巣義明のシネファンタスティック

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『玄海灘は知っている』
(「東京国際映画祭2009」ディスカバー亜州電影・部門で上映)

 一昨年、TIFF(東京国際映画祭)で観た、韓国の姥捨て山伝説を題材にしたキム・ギヨン監督の『高麗葬』(63)に大感激したので、今年は同監督が61年に製作した『玄海灘は知っている』の修復版(117分、B/W)が最も気になっていた(なんとか観ることができて、とりあえずホッ!)。ただ映像及び音声が一部欠落しているため、それは日本語字幕でフォローしてあった(※脚注1)。
 第2次大戦末期……敗戦濃厚の兆しが見えた頃、本土決戦に向けて日本軍兵士を増員しようと、従軍させられたア・ロウン(英語の「アローン=孤独」から命名されたようだ)たち朝鮮人兵士の理不尽な差別を描くと共に、ア・ロウンと日本人女性の波乱に満ちたラブストーリーである。
 ア・ロウンは反抗的な態度の要注意人物として軍部に通達されるが、作品を観た限りは、さほどの問題兵には見えない。それでも日本人の上官らが難クセをつけまくり、クソのついた靴底を舐めろとか、上官が食べ残した飯を食えとか、無謀な仕打ちに耐え続ける。そんな日々を送る彼の心を癒すのが、日本人女性の秀子。彼女はア・ロウンが朝鮮人兵士と知って最初は驚くが、ここで嘘臭くなるようなヒューマニズムを持ち出さず、「朝鮮人も日本人も、先祖は同じサル……」の秀子のひと言で観客を納得させてしまうあたりが凄い。
 ア・ロウンと秀子の人種を超えたラブ・ロマンスの障害として、秀子の母親、上官たちの罠、面会に現れた韓国人女性などが絡むが、ア・ロウンと秀子はそれを乗り越えてゆく。
 波乱万丈のメロドラマとはいえ、『高麗葬』のダークなタッチとは趣きが異なるが、クライマックスでは米軍のB−29編隊による大空襲の中、ア・ロウンと秀子が日本軍の追っ手からも逃げ回ったあげく、民衆の絶望からの暴動、そして人間性の復活をも暗示させるラストに至るまでの展開に思わず唸る。最終的にはクライマックスでア・ロウンが言う、「一億年にひとつの命」に相応しく、実にギヨンらしい“生”に執着した骨太なメロドラマに仕あがっている。
 歴史的事実を脚色して盛り込みながら、仕打ちを与える日本人兵士らも魅力的な役柄として描かれ、日本人が観てもさほど不快感を与える作品にはなっていない。
 題名にある玄海灘(朝鮮と日本の間にある)はプロローグに出てくるだけだが、日本人と朝鮮人の民族間にある、醜い亀裂と深さを象徴している存在のように思われる。
 尚、本作には原作小説(同題名で邦訳出版)がある。ただ原作はシリーズ化されていて、全て邦訳されているわけだはないようだ。
 本作の映画化は1作目の小説の映画化であるが、ラストが原作と大幅に変わっているため、ギヨン監督と原作者が対立したという。
 でも、このクライマックスからラストに至るまでの展開があまりに素晴らしい。世界的に再評価が高まるキム・ギヨン作品は、機会があればとりあえずは観て欲しい。


[※脚注1]
 韓国で08年に上映された修復版を映画祭側がデジタル変換し、映像の周囲に黒フレームをつけての上映。字幕は黒フレームに出る。デジタル変換は割と美しく、フィルムの質感に近いと思えるような色味で鑑賞できた。ただし完全に修復されたわけでなく、映像しか残っていないところはサイレントの状態のままで、音声のみ残っているものは黒味に音声のみが流れた。
 映像と音声、どちらかが欠落している部分に関しては、その欠落部分の直前に、欠落部分に関する内容が日本語字幕であらましが紹介された。


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