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安部幸子は、長女で忙しい両親に代わって妹や弟の面倒をみて来た事が習い性となったのか、比較的にやさしい、思いやりのある人間だと自負していた。頼まれごとをされれば、なんでも引き受けてしまうし、少しばかり自分の労力を費やすことになっても、それを惜しむ気持ちにはあまりならなかった。
だから他人からは、面倒見がいいとか、気配りがあるとか、やさしいとか言われ、そう言われればもちろん悪い気がしないから、自分でも何となくそんな気になっていた。そんなある日、食事中に彼女は、友人から意外なことを言われた。共通の友人の窮地を見かねて、私が一肌脱いだ経緯を話し終わった時の事だった。
終始、話しを聞いていた彼が、小さくため息をついて言った。「君のやさしさって、素晴らしいけど・・・何処か、自己満足的なところがあるよね。・・・」それを聞いた、彼女は思い切りカチンときた。「どう言うことよ、それ・・・」普段は冷静でも、思いもしない言葉に、反射的に言いかえした。
「いや、だからさぁ、君は確かに相手のために何かをしてあげているんだろうけど、結局それは、自分の美学をまっとうするためって感じが、時々するんだよね。・・・」彼は、言いにくそうに、しかしきっぱりと彼女に言ってのける。思いもよらない彼の反応に、彼女は猛然と反論をし始めた。
「人の為に何かをしてあげて、それで少しばかりこちらの気分がよくなったら、それが自己満足なの・・・」「やさしくしてあげよう、そう心掛けていることをしたのに、それは自分の美学を遂行したにすぎないって言葉で片づけるの。!それって、あんまりじゃない。」・・・
「もちろん私は神でも仏でも聖人でもないんだから、そりゃあ無垢な心でやっている訳ではないけれど、相手の事を思ってやっているのは事実よ・・・」黙ってしまった彼の前で、私はひたすら言葉をつづけた。・・・「百歩譲って偽善でもいいじゃないの。偽善でやさしく出来るほうが、何もしないより・・・」
「能書きばかり言って、あなたみたいに何もしない人っていうもが一番、始末が悪いのよ・・・」こちらも、ついつい興奮して、刃の鋭い言葉を投げつけてしまった。彼は苦笑しながら、彼女を見た。「ごめん、ごめん・・・別に君を批判してるわけじゃない。人に何かしてもらいたいってことばかり求めている人が多いからね。」
「君みたいにしてあげる事を喜べる人は、偉いと思っているよ。ただ・・・そこで立ち止まっているのは、君らしくないと思っているだけ・・・」その話は、そこで終わり、気まずいまま彼女たちは店を出て、ほとんど会話をすることなく駅まで歩き、そしてそのまま別々の電車に乗って別れた。
下りの電車はまだ混んでいて、彼女は吊り皮にぶら下りながら、さっきの友人の言葉を思い返していた。腹はたつのだが、何となく気になる。残念だが心の奥底が、どこかで彼の言葉を認めているような気もし始めていた。そこに、ふと昔聞いた仏教説話を思いだした。・・・
それは、地獄を釈迦が歩いている時の事だった。地獄に落ちた人達が、釈迦に向かって口々に「食べ物をくれ・・・!」と叫んでいた。釈迦はその言葉を聞き、大皿に食べ物を山のように盛り、人々の前に置いてこう言った。「食べても良いが、手ずかみではいけない。この箸を使って食べるように・・・」
差し出された箸は、重くて長い箸だった。人々は釈迦が歩み去るのを待ちかねて、箸に手を伸ばし、食べ物を口に入れようとした。ところが、箸が長いので、食べ物を箸ではさんでも、遠くてそれを口に入れることが出来ない。結局、目の前の山のようにある御馳走を、誰も口に入れる事が出来なかったのである。
これが、もしも少しでも他人を気遣い、長い箸を使って目の前の御馳走を他人の口に運び、そのお礼として、自分にも相手の長い箸で、食べ物を食べさせてもらう。・・・自分ばかりが食べようとしている時には、口に入らなかった食べ物が、人に食べさせられることによって、自分の口にも入ってくるのである。
結局は、人を思いやることが、結果的に自分に戻ってくることにつながるものなのだ。仏説は、おおまかにはその様な内容であった。その説話を聞いた時、一緒にこんなことを、付け加えられたのを思いだした。「これは、思いやりは大切だという教えですが、もう1つ大切なことが隠されている事。・・・」
それは、人が誰かのために何かをするという行為は、所詮、自分への見返りを期待してのこと。仏の慈悲と同じだと思い上がってはいけない・・・と言うこと。彼女の友人は、この事を言いたかったのであろうか。・・・彼女は、何かをしてあげる時、見返りを期待している訳ではないと思っていた。
しかし、心の底には、そうする自分を見て満足すると言うか、人の評価を聞いて満足するというような、見返りを待っている自分が皆無とは言い難たかった。そう思うと、先ほど別れた友人の顔がにわかに浮かんで来て、自分はどうしたら良いのか、急に電話をしたくなり、いてもたってもいられなくなった。・・・
(注・この記事は二部構成で、次回に続きます・・・)
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この先が早く読みたいです。
2011/8/27(土) 午後 8:52 [ ろうせん ]
私もです。読みたい。
2011/8/27(土) 午後 11:37
こんにちは、ろうせん さん、ご訪問有難うございます。(^^♪
本日、更新しますので、よろしくお願いします。
2011/8/28(日) 午前 11:42
こんにちは、SARA さん、ご無沙汰しています。
後半は、驚く様な展開がまっています・・・よろしくお願いします。(*^^)v
2011/8/28(日) 午前 11:43
釈迦、キリストのような悟りを開いた教祖でない限り、
人は誰でも。衒い、気取りを持ちます。
わたくしも、何もしないくせに、えらそうに、批判の発言には
怒りを感じます。
2011/8/28(日) 午後 0:08 [ サチコ ]
続きを読んでみたいと思います。
このお釈迦様のはなし、聞いた事あります・・・・
2011/8/28(日) 午後 0:53
こんにちは、サチコ さん、コメント有難うございます。
無償の愛とは、いかに難しいか・・・また、それを利用した偽善者の何と多い事か・・・
自分では何もせずに他人の批評ばかりしている人が沢山います。中々勇気ある一歩を踏み出す事が出来ずに。
しかし、↑この青年は少し、違いました。(^^♪
2011/8/28(日) 午後 4:09
こんにちは、白雪姫 さん、コメント有難うございます。
地獄と天国を分けるものは、本来何も無いものであるのに、地獄と呼ばれる人達は、みんな上の例え話の様に、自分の事以外には、何も考えていないのかも知れません。・・・
2011/8/28(日) 午後 4:20
お友だちの言っていることは正しかったのでしょうが、けっこう厳しいですね。でも、本当のお友だちだから言えたのでしょうね。最初は怒ってしまった安部幸子さんですが、後になってお友だちの言ったことを受け入れていくところはすごいなと思います。私は相手が正しいことがわかっても「でも、あんな言い方しなくてもいいじゃないっ」と心を頑なにしてしまうところがあります。反省。そして、ポチっ☆
2011/8/29(月) 午後 1:55
こんにちは、holy さん、コメント有難うございます。
主人公の安部さんは、心やさしい人なのですが、さすがに彼の言葉には色をなして、キレてしまいました。この状態で、冷静になる事は難しかったでしょう。・・・
それでも、後から思い直して、電話をするところが彼女の良いところだと思います。(^^♪
キレた後に冷静になって、自分の事を考え直すこと・・・中々出来ません。
ポチ☆有難う
2011/8/29(月) 午後 3:05
こんにちは〜♪
人生いろいろありますよね。。。
感謝〜〜〜♪のポチを〜☆
2011/8/30(火) 午後 5:26
こんにちは、きょんきょん さん、コメント有難うございます。
人生も山が高ければ、谷も非常に深いものがあります。・・・
どちらに対しても、常に感謝の気持ちを、常に持っていたいものですネ。(^^♪
ポチ☆有難う
2011/9/1(木) 午後 5:03
次を読んできます。。
2011/11/6(日) 午後 4:25
おお〜rinta さん・・・ご訪問有難うございます。(*^^)v
是非、続きをご覧ください。・・・
2011/11/6(日) 午後 4:43