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たまに通る都内の道筋に一軒の古書店がある。ビルの建ち並ぶオフィス街の小さな店。
一月ほど前に、店先のワゴンの中にある本が目についた。川越のことが記述されている古い本。ほしいと思ったが、躊躇してしまう価格がつけられていた。探せば半額で買えるはずである。あきらめて店先を後にした。
このことはそれきり忘れてしまっていたのだが、数日前に所用で古書店に近い駅に下りたとき、ふいに思い出した。用事の済んだあと、店先まで足をのばしてみるとその本はまだあった。手にとって価格を見たがやはり高い。再度あきらめて歩き出した。が、ほしい本を一度逃したら、次ぎにめぐり合うまでの困難は身にしみて知っている。ましてや昔の本だもの。新刊だって時期を逃せば入手はむづかしい。
100メートル歩いたところでUターンした。給料日だったことも気持ちを大きくしてたことは確か。
本を手に店奥へ行くと、品のいい老婦人と息子さんらしき人がいた。
本を見た婦人は即座に笑顔で「川越の方ですか?」
そうですと答えると
「わたしは、川越からここにお嫁にきたんですよ」
それをきっかけに、3人でしばらく会話がはずんだ。川越の記述がある本だったので、市場で仕入れてみたのだという。川越あたりの顧客に打診してみたが、いらないと言われたのだとか。息子さんも明るくしゃべる人で、古書店にいる感じがしないほどフレンドリー。以前、古書目録をほしいと言ったら、投げてよこした某店とは大違いである。
「先日も、兵庫赤穂の本を出したら、通りかかって買ってくださった方が赤穂出身で、喜んでいいだきました」
笑顔を絶やさない婦人だった。
帰宅してから内容を確認すると、ある時期の川越の姿を如実に記録していて貴重な書籍。昼飯代を削って穴埋めをしよう。
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