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大山賢介は彼女のことで悩んでいた。 「月二回は、きれいなお店で、ボーイに給仕され、音楽を聞きながら食事をしたいわ」 といわれ困っている。結婚しても続けたいと言う。 賢介の勤める北九州市の鉄工会社は年々仕事が減って、リストラや、賃下げや、サービス残業が続いている。 彼女は何やら難しい資格を学生時代に取って優雅な公務員をしている。 家庭は裕福でまた新車を買って貰っていた。 甘えた声で「たまにはチャンとしたお店に行ってみたいやん」といわれると「何デヤ」と言い返せない。 必死の思いで、月に一度と機嫌をそこなわないように頼み込んだ。 賢介は自分のブログ「安リーマンの日記」に投稿した。 ○「安リーマンの日記」 新規投稿 タイトル「人生相談」 安月給のケースケ(28)です。 相談に乗っていただきたく思い切って投稿しました。 公務員の彼女(25)がチャンとした所で食事がしたいといっています。 「月2回は、着飾って、きれいなお店で、給仕され、音楽を聞きながら食事をしたいわ」 2回のところを、なんとか1回にまけてもらいました。(爆) 私といえば福岡市の親元を離れ安アパートに住み作業服でボロ車に乗って通勤しています。 背広は一着、ネクタイは一本、革靴は一足しか持っていません。 彼女からは「早よー結婚しょうな」と前々から言われています。 携帯電話は会うたびにチェックされ「浮気したら許さんけんね。会社に怒鳴り込んでやる」と脅されます。 そこまではいいのですが、経済観念が私と違うようで少々不安です。 月一の食事だってもっと安い店にして、少しでも貯金をしたいと思っています。 わがまま娘のあしらい方や私の進むべき道をご指導下さい。 ○ 賢介と同じ会社の雪子がブログ記事を読んだ。 雪子の父も母に言われていた。 「ねえ、たまには外でご飯でもたべたいわ」 「何デヤ。スーパーで好きなもん買って、好きに食うたらよかばい」 と父親は競馬新聞から顔もあげずにいう。 「上げ膳下げ膳で人の作ったもん食べたいのよ。あーたは会社からおいしものを食べにいってるでしょ」 「会社の付き合いで仕方なく行きよるとたい。値段が高くてもったいないと思っちょる」 「けど、ムードよ、ムード。きれいに着飾って、きれいなお店で、音楽を聞きながら食事をしたいわ」 「あほらしい、何のためにわざわざ高いもん食わされて」 と競馬新聞から目をはなし、嫁さんを見やった。 「あら、夫婦同伴で出かけるのがおしゃれなんです。きちんとした格好して二人で食べにいきたいわ」 「ワシは不合理な金はもったいない、思うて嫌やと言うとるんや。それに歳を考えなさい。今更……」 いまさらお前なんかと歩けるかいと言いかけ口をつぐんだ。 雪子の父は全然わかっていない。 「歳は関係ないでしょ。あーたの競馬だって無駄使いです。お金がもったいないわよ」 とうとう嫁さんを怒らせてしまった。 ケースケからの相談を読んだ雪子は、はたと膝を打った。第一感は明快である。 「わがまま娘との結婚はダメ。尻に敷かれる。もっといいのがいるはず……」 たとえばわたし。少し顔が赤らんだ。 しかし嫁さん候補が公務員とは、聞き捨てにならない。 将来もし、いざとなったら嫁さんに頼ることができる。どうせ今でも尻に敷かれているのだ。 自慢のブラインドタッチで返信作業に入った。 ○回答コメント タイトル「Re:人生相談」 投稿者:ゆっきーな 若い娘は、わがままで皆そんなものです。 きれいな高いチャンとした店で音楽聴きながら、食事したいとすぐ言います。 わがまま娘の教育は、結婚してからすればすむことです。 自信を持って結婚してください。 新婚のうちに、炊事、洗濯、掃除にアイロンがけを教えましょう。 気長に教えれば、ぼつぼつと覚えることでしょう。短気はだめです。 結婚しても休日には、思う存分ネット囲碁や競馬を楽しんでください。 そのくらいは亭主の威厳でビシッと言ってください。どこの家庭でもそうです。 ○ 雪子は返信ボタンを押してウソだらけに気がついた。
まっ!いっか。 |

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