国際政治の視点

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PINR

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イラク撤退を迫るプレッシャーに直面する米国
2005年7月15日
エリック・マークアート
Erich Marquardt
The Power and Interest News Report (PINR)
http://www.pinr.com/

ワシントンはイラクにおける武装勢力に勝利するための戦いを継続している。しかし、イラク介入に対するアメリカ国民からの支持は減少しつつあり、イラクからの米軍の撤退を開始せよというプレッシャーが強くなっている。イラクに対する介入は、1973年にベトナムからの米軍撤退を招いた失敗と同じ失敗をしている。どちらの場合も、現地住民による武力抵抗を押さえることに長期間失敗することによって、アメリカの軍隊と資源に受け入れ難いダメージをもたらした。ベトナムにおいては、勝利の展望もなく戦争が長引くにしたがって、米軍の撤退を要求する国民の声が次第に大きくなり、最終的に撤退に至り、ベトナムに対するアメリカの影響力を恒久的に失った。

イラクのケースでも、介入に対するアメリカ国民の支持が低下しつつあり、連邦議会における撤退の要求も大きくなりつつある。ワシントンがイラクの武装勢力に対して形勢を逆転することはかなり可能性の低いシナリオではあるが、そのようなことが生じない限り、ワシントンはこの紛争への関わりを限定的なものにすることを余儀なくされるだろう。

武力抵抗への道

米国がサダム・フセイン政権を転覆させた直後のイラクにおける武力抵抗は初期段階であった。ゲリラが米軍に対する最初の攻撃を行った後、米国の当局者は、武力抵抗が将来に向って大きくなり始めていることを公然と見くびっていた。米国のイラク侵略の約3ヵ月後の2003年7月1日、当時のイラクにおける米国政府の行政官であったポール・ブレマーは「攻撃は、新しいイラクに適応することを拒否し、ますます絶望的となりつつある数人の個人によって行われている」と述べている。

その後数ヶ月経て、武力抵抗はさらに過熱し、米軍の被害者数は増加した。武力抵抗活動が始まってから約2年が過ぎたが、その規模と内容は激しさを増した。武力抵抗は、日常的に米軍とその同盟軍、イラク軍および民間人を犠牲にしており、そのすべてが頻繁に起きる爆弾攻撃、走行中の車の中からの銃撃等の犠牲者となっている。イラク内務省によってニューヨーク・タイムズに最近提供された機密情報は、2004年8月から2005年5月の間に、武装勢力が1ヶ月に800名の民間人を殺したことを明らかにしている。恐るべき数だ。この情報源は、2004年8月以前の民間人の死者数を明らかにしていない。2年間の米軍の占領期間中、米兵は1,750名が殺されただけだが、犠牲者の数はアメリカ国民が予想した以上の数となっており、確実なペースで増加し続けている。

2003年末、米中央軍司令官であるジョン・アビザイド将軍は「イラクには、われわれを追い出すことのできる軍事的脅威はないということをアメリカ国民に強調しておきたい。われわれは、対処すべき困難な地域に世界最高の装備を備え、最も訓練された軍隊を送り込んでいる。これらの軍隊は自信を持っており、有能であり自分達が何をしているかをよく承知している」と断言した。

アビザイドの述べたことは正しいが、彼の述べたことは米国がイラクにおける作戦に成功するかどうかとは常に無関係である。武装勢力は米軍を打ち負かすことはできないことを十分承知しており、米軍を打ち負かすことは決して彼等の目的でない。これらの武装勢力の目的は、占領軍に直面している多くのゲリラの目的も同様だが、米軍の撤退を余儀なくさせる上で必要な長期間の不安定な状態を十分に作り出すことなのだ。

同じ戦略はベトナムの武装勢力に成功をもたらしている。南ベトナムのゲリラと北ベトナム軍の合同での攻撃はアメリカの世論に影響を与え、ワシントンは軍隊を撤退させている。1980年代におけるソ連のアフガニスタンに対する介入も、アフガニスタンのゲリラがゲリラ活動を長期化させることによって、ロシア軍を撤退させ、武装勢力の側に同様の勝利をもたらす結果となった。そして、チェチェンにおいても、ゲリラがロシア軍に対してこれと同様の戦いを未だに続けている。

米国陸軍大学における軍事戦略の研究教授であるマックス・マンワーニング博士は、2005年1月、「米国がイラクにおける武力抵抗を打ち負かす可能性は低い」とPINRに述べた。第二次大戦後の武力抵抗に関する彼の研究は、西側の大国が軍事行動を激化させればさせるほど、その政府は武力抵抗に敗北する可能性が高くなることを示しており、また、介入を行っている大国が、悪化する状況に対応するためにその兵力を増加させれば、それだけ状況は悪化するということを示している、とマンワーニングは述べている。そして、土着の武装勢力を打ち負かそうという占領軍が一貫して敗北を続けてきたことを明らかにした。

現在、米国のイラク侵略から2年以上が経過し、米国民には疲弊した兆候が見え始めている。米軍の被害者数は確実に増加し、武装勢力に打ち勝つことに成功するいかなる兆しも見えず、全体の作戦を原因とする経済的負担が重荷となっている。そのため、ますます多くの連邦議会議員がブッシュ政権に軍隊の撤退を開始するようプレッシャーをかけている。ブッシュ政権が国内政策の実行に問題を抱えていることもその外交政策に対する継続的な支持を得る努力を阻害している状況だ。

イラクに留まる決意を失いつつある米国

2003年末に、アビザイドは正しくも「敵の目標は米軍を打ち負かすことではない。アメリカ合衆国の意思をくじくことであり、われわれを退去させることだ」と述べた。2003年7月始め、民主党上院議員で上院軍事委員会の委員であるカール・レビンは「米軍はイラクを何年間か占領するであろう。それゆえ、アメリカ国民はその路線を堅持するための辛抱が必要だ」と述べた。しかし、2003年7月9日にPINRが主張したように、そのような誓いにもかかわらず、イラクの武装勢力は、民主主義国、特に米国や英国のように繁栄した社会と対決するときに、母国の国民の決意を弱めるには、戦死者の数を増やすことが最良の手段であるということを十分に意識している。

アメリカ国民の決意は弱められた。2003年半ばに行われたギャロップの世論調査おいては、76%の米国民が「イラク戦争は行うだけの価値がある」と答えた。2005年6月の現在、同じギャロップによる調査では、わずか42%のアメリカ人が「イラク戦争にその価値がある」と考えているだけである。同じ世論調査は、アメリカ人の59%が「イラクからの米軍の一部あるいは全面撤退」を支持している。また、6月16日に発表されたCBSニュース/ニューヨーク・タイムズの世論調査では、51%のアメリカ人が「ワシントンは最初からイラクに手をつけるべきでなかった」と考えていることを示した。もちろん、アメリカ国民が完全な撤退を要求しているというにはまだ程遠い状態にある。実際、7月14日に発表されたウォールストリート・ジャーナルによる世論調査は、「イラクが自らを統治することができるまでイラクに一定の軍隊を駐在させ、経済的支援を継続することは重要である」と57%のアメリカ人が考えていることを示した。しかしながら、いずれにしても、イラク介入に対するアメリカ国民の全体的な支持がかなり低下してきたことは明白だ。

共和党と民主党からそれぞれ2名ずつの4名の連邦議会議員が2006年10月以降のイラクからの米軍の撤退を要求する決議を連邦議会に上程した。6月16日、41名の民主党下院議員議員が「イラクからの撤退」のためのグループを結成した。ブッシュ政権を常に支持してきた保守派の共和党下院議員ウオルター・ジョーンズ・ジュニアは「1,700名の死亡者と12,000名の負傷者が生まれ、2000億ドルの費用を使った後、われわれは現在これらについて論争し、議論すべきだと信じている。われわれは現在どこに立っており、これからどこに向おうとしているのかということについて新らたな視点から検討を加えるべきだ」と述べた。

イラクに対する介入の主要な提唱者であったネオコン志向の団体であるアメリカン・エンタープライゼズ・インスティチューション(AEI)の軍事アナリストのトーマス・ドネリーは「ウオルター・ジョーンズのような共和党の一般の下院議員がこのような問題をホワイトハウスに質問するときは、政治的計算の変化を反映しており、そのことは大統領や戦争にとって好ましいものではない」と最近新聞記者に告げている。

現地での作戦が何らかのはっきりした結論に向かって動いているように見えないときには介入が一層強化されることとなり、これらの反応や声明はそのような介入に対する論争の初期のステージであることを反映している。ブッシュ政権はこのような傾向が強くなることを懸念しており、それが6月28日に大統領が米国の約束を強固なものにすることを求めて特にアメリカ国民に呼びかけを行ったことの理由だ。

とはいえ、ブッシュ政権が公式に発言していることがひそかに計画しているものとは大きく異なることはあり得る。最近漏洩され、国際的なメディアにおいて頻繁に引用されている英国の秘密文書によれば、ブッシュ政権は2006年に米軍を撤退させる計画を検討中である。

英国防相ジョン・リードから英国首相トニー・ブレア宛てに書かれたメモは「米軍には大幅な兵員削減要求がある。現在作成されている計画は、2006年初めまでに、18州のうち14州をイラク人による統治に任せることを想定している。これによって、連合軍の兵力を176,000名から66,000名に削減することが可能となる。しかしながら、兵力数について比較的に大胆な削減を好む米国防総省・中央軍司令部と、より慎重なアプローチをしている多国籍軍との間には見解の相違がある」とのことを明らかにしている。

この見解の違いの多くは米軍の構成に由来する。すべて志願兵から構成されている米軍は長期間に及ぶ大規模な作戦を行うには適していない。米軍の任務を処理するために、ワシントンは陸軍の予備役と州兵に大きく依存してきた。すべての新たに補充される兵員は自分達がイラクにおける任務に就かなければならないということを知っており、多くの補充要員はこれを受け入れたくない。このことが米軍の新兵補充能力に影響を与えている。例えば、州兵は2003年と2004年の兵員補充目標を達成できなかった。そして、現在、連続して9ヶ月間その目標を達成できない状態が続いている。州兵は現在イラクの米兵の3分の1以上を占めている。予備役と現役兵力も2005年の兵員補充目標を満たしていない。これらの一連の問題は、ワシントンのイラクに対する現在の兵員派遣約束を長期的には持続不可能なものにしている。

さらに、米軍はイラクに集中しており、その展開は過度になっている。これによって、ワシントンが世界のその他の地域で新たな作戦を始める機会を減少させている。このことは、米国の国益と相反する戦略を追求する国々にとっては、米国による軍事的対応という見通しにあまり懸念を持つ必要のない状況を作り出していることになる。

(続く)

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ベトナム戦争とイラク戦争の類似性を指摘し、アメリカのイラク撤退が余儀なくされている事情とその後について分析している。

2005/7/21(木) 午前 5:58 [ mak*2*5002* ]

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イラクに駐留する米国兵士の中に、強いストレスを感じるという数が増えてきているようです。 兵士の士気も低下すると同時に遠方での軍事行動には、多額の軍事費がかかります。これは、ロ−マ帝国の例までさかのぼらなくても、近年では、米国のベトナム戦争、ソ連のアフガンなどいずれも帝国崩壊まで至る問題となりました。 ブッシュ政権も石油と軍事費を秤にかけるとそろそろ限界にきているようです。 イラク新政府が落ち着けば、自分たちは、駐留するも、統治は、イラク軍に任せる準備をしています。

2005/7/23(土) 午後 2:25 [ kog*ne*iyos* ]



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