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イランの核が真の問題なのか?
5月28日
イランの核問題をめぐる国連安全保障理事会とドイツによる六カ国の外相会議が来週末、欧州で開かれることとなったようです。外相会議では、ウラン濃縮活動の停止を求めているイランに提示する予定の「見返り」と「制裁」の双方を含む包括提案を最終協議する予定のようです。ただ、中国とロシアは「制裁」に慎重な立場であり、隔たりが埋まるかどうかは不透明な状況であり、包括提案に対する合意が六カ国で得られたとしても、イランは「見返り」案そのものに反発しており、調整は難航が避けられないと、日本経済新聞(5月28日夕刊)は報じています。
一方、イランのザリフ国連大使は5月26日、核開発のための国際事業体を設立する構想を提唱し、米国を含めた主要国に検討を求めたとのことです。イラン単独で行う活動については濃縮レベルに上限を設定し、核兵器開発につながらない8%以下の低濃縮ウラン製造に限定する用意があるとの新たな妥協案です。国際事業体に濃縮を委託することで核開発の透明性を確保しながら、一定の枠内で濃縮を継続するのがイラン側の狙いと見られるが、イランの濃縮技術開発取得に反対する米国の反発は必至だろうと、日本経済新聞(同上)は報じています。
いずれにしても、これら関係当事国の問題打開のための努力が実を結び、事態が平穏に解決されることを望んでいますが、当ブログではこれまで、アメリカがEU3(英、独、仏)を交渉の前面に立て、イランとの直接対話を避けていることに対して批判が出ており、直接対話を求める声が出ていることを指摘してきました。そして、前回は、直接対話を避けるべきだという、ネオコンと目されるデビッド・フラムの主張を紹介しました。
この直接対話を求める声はますます強くなっていますが、ブッシュ政権内部でもこれまでのイランとの直接協議をタブー視する政策を一時棚上げすべきかどうかについての論議が行われたと、ニューヨークタイムズ(5月27日電子版Steven・R・Weismanの記事)は報じています。
同記事によれば、ヨーロッパの指導者たちは、制裁をめぐっての争いや軍事行動という結果に陥ることになりかねない対立を回避することを目的にアメリカが一層の努力をしたことを示すためにも、イランとの協議にアメリカが参加することを望んでいるとのことです。
ライス国務長官はこの問題を国務省内の側近上層部と協議をしたが、最終的には政権の国家安全保障担当者によって取り組まれるべき問題だと感じているようだと、ヨーロッパのこの問題を担当している高官は述べたとのことです。
しかし、ライス国務長官をよく知っている他の関係者は、対話をする意欲があることを示すシグナルを送ることは弱さを見せ、ヨーロッパが行っている微妙な交渉に悪影響を与えることになるだろうという根拠で、ライスが直接交渉に抵抗している、また、ブッシュ政権がイランに対して最終的に譲歩しすぎることになることをライスは恐れていると述べたとのことです。
政権内では、ブッシュ大統領、副大統領ディック・チェイニー、国防長官ドナルド・ラムズフェルドが非公式な裏ルートを通してであっても直接対話に反対している。したがって、すぐに対話を行うという決定がなされる可能性は低い。政権高官はニューヨークタイムズにそう伝えたとのことです。
米国国内では、ヘンリー・キッシンジャー、外交評議会会長でパウエル前国務長官のトップ補佐官であったリチャード・ハースやパウエルの下で国務副長官を務めたリチャード・アーミテージなども最近直接対話を提唱しています。また、ライスにイランとの直接交渉を促したヨーロッパの外交当局者はドイツのシュタインマイアー外相、ソラナEU共通外交・安全保障上級代表などであり、ドイツのメルケル首相はブッシュに問題提起をしていると、同紙は伝えています。
同記事によれば、アメリカとイランとの直接対話に関する議論は現在協議されているイランに対する包括提案には含まれていないが、イランとの交渉をめぐる雰囲気を改善する一つの方法となるだろうと、ヨーロッパの担当者は述べたとのことです。また、他のヨーロッパの担当者も、直接対話が実現することをヨーロッパは熱望しているが、当面は何も起こらないだろうといっているとのことです。
こうしてみると、ブッシュ政権は本当にイランの核問題の外交的解決を欲しているのだろうかという疑問が生まれてきます。時間が経過し、手詰まりとなって直接交渉に乗り出すということになればよいのですが、圧力一辺倒というブッシュ政権の真の意図がイランの核問題の解決にではなく、ネオコンの主張するように政権転覆にあるとすれば、なぜブッシュ政権が直接交渉に関心をもっていないのかということは容易に納得できてしまうのですが、果たして、真相はどうなのでしょうか?
インター・プレス・サービスIPSのガレット・ポーター*は、「イランの核は真の争点ではない」と題する記事を5月12日のアジア・タイムズに掲載しています。
5月3日付の当ブログ「イランとの直接対話の可能性」でも触れましたように、イラン指導部は2003年に、イラクのフセインを追放した後のブッシュ政権がイランを攻撃すると確信し、アメリカとの間にある諸懸案(核開発問題、ヒズボラその他の反イスラエル武装集団に対する支持問題及びイスラエルの存続問題)をめぐってブッシュ政権に交渉を申し入れています。
イランはその申し入れにおいて、それらの問題に対して具体的かつ大幅な譲歩を提案しました。しかし、ブッシュ大統領は、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官のアドバイスを受け、提案に応じることを拒否しています。ポーターは、したがって、核兵器の問題は米国にとっての主たる懸念の原因ではなく、イスラム共和国の正統性を否定することのほうがブッシュ政権内の優先度の高い関心事だったのだろうと指摘しています。
ポーターは、ブッシュ政権がイランの核問題をこれほどまでに危機的な状況にまで推進している真の狙いを考えるに当たって、ネオコンのシンクタンク・タンクであるアメリカン・エンタープライズ・インスティチュートのトム・ドネリーに注目する必要があるとし指摘しています。
ドネリーは、ブッシュが大統領選挙当選後にチェイニーとラムズフェルドのために「アメリカ防衛の再構築"Rebuilding America's Defenses"」という論文の執筆に、ブッシュ政権において後に要職を得ているステファン・カンボン(国防総省情報次官補、ルイス・リビー(チェイニー副大統領首席補佐官、現在起訴されている)、ポール・ウオルフォウイッツ(国防副長官、現在世界銀行総裁)らとともに参加した人物です。
ポーターによれば、昨年12月に出版した「核武装の準備が整ったイランに対処する“Getting Ready for a Nuclear-Ready Iran”」という自著において、イランが核大国になることに対して異議を申したてる真の目的は、イランの核大国化がブッシュ政権の「中東変革プロジェクト」とドネリーが呼ぶ中東における米国のより壮大な大望の実現を妨げることとなるからだと、ドネリーは明らかにしているとのことです。
ドネリーは、イランが核兵器を使用するあるいはテロリストグループに引き渡すからという理由で「核保有国イラン」が問題なのではなく、「核保有国イラン」が米国の大中東戦略に対する障害となるから問題なのだといっていると、ポーターは指摘しています。
そして、ドネリーは、ブッシュ政権の視点にとって重要なことは、イランイスラム共和国を打ち倒すことが中東における権力ヒエラルキーを米国にとってさらに有利なように再秩序化する機会を提供していることだと主張しているとのことです。
一方、ポーターは、2003年時のアメリカによる対話の拒否は、米国との問題は、イランの政策にあるのではなく、イランの力にあるのだろうという疑念をイラン国民の間に広めたという専門家の指摘を引用し、イラン側のその結論は奇しくもブッシュ政権の目的についてのドネリーの分析と類似していると述べています。
イラン人が本当に望んでいるものは、核兵器ではなく、ペルシャ湾岸地域の権力ヒエラルキーにおけるイランの正当な地位の認知であり、イランの同地域での地位に関する要望は米国との広範な外交的合意によってのみ達成することができるだろう。また、中東における米国の優位性を一層拡大するというブッシュ政権の主張は力による脅し、あるいは脅しに失敗した場合の戦争によってのみ達成できる代物でしかないのでしかないのだろう。イランの外交政策専門家であるジョン・ホプキンス大学のトウリタ・パーシーやブルッキングス研究所のナジメ・ボゾルグメールなどの発言を引用しつつ、ポーターはそう指摘しています。
以上のようなことを踏まえると、一層強くなる直接対話への要望があっても、ライス国務長官は自らのイニシャチブを発揮して、そのような動きを主導することはできないだろうと思われます。ライス国務長官は、本来的に現実主義者といわれ、ネオコンではないとはいわれています。しかし、先に紹介したニューヨークタイムズの記事が報じたように、ブッシュ政権内では、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官の意見に最終的に影響されている可能性があります。そして、その背景にはドネリーのようなネオコンによる「中東変革プロジェクト」すなわちイランイスラム共和国打倒という目標がある。それがこの問題におけるアメリカのかたくな強硬姿勢の原因ではないのだろうか。それが思い違いであってくれればよいと思いますが・・・・
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