今春出版させていただいた“だって本”にまつわるエピソード、はずかしながら一つご紹介させていただきます。
この曲、知ってる?
そう言って、祖母に歌詞を示したんです。
すると、歌いだしたんです。
めったに歌わない、いいえ、歌うのを聞いたことがないかも…
でもね、歌ってくれたんです
“だって本”には、〈蘇州夜曲〉の一番の歌詞を引用しています(掲載に当たり著作権料を納めました)。
ご存知のとおり、西条八十(さいじょう・やそ,1892-1970)の作詞したものです。
Mさんは上記のような内容の話を書いて、私に渡してくださいました。
受講終了後、小課題の答えなどを書いて提出していただくのです。
その用紙のすみっこに、わざわざ書き込んでくださったのです。
“だって本”に掲載した歌詞を、Mさんは、おばあさまにお見せになったんだそうです。
念のために申しますが、楽譜はつけていません。
おばあさまは80歳を過ぎていらっしゃるとか、
孫が差し出した歌詞に、メロディーが思わずよみがえったのでしょう。
わかったんです
何事かと思いました。
後日、Mさんが、今度は話しかけに来てくださいました。
Mさんは、ぬけるように白い、美肌の持ち主なのですが、ほほを紅潮させておられたのが印象に残っています。
おばあちゃんの歌ってたのは李香蘭バージョンでした…
Mさんのような20歳前後の受講生の方は、平原綾香の〈蘇州夜曲〉の方がぴったり来るみたいです。
「着ウタにしてます」って方もおられます。
ゆったりとのびやかに歌う李香蘭の〈蘇州夜曲〉。
おばあさまが思い出されたのですから、それは昔に覚えた歌い方で、つまり李香蘭風に歌われたことでしょう。
知っている方々にとっては当然と思われるでしょうけれど、
知らない人には、びっくり!!なのです。
当たり前のことですが、歌は歌い手さんによって違って聞えるし、アレンジによっても違った曲のように仕上がります。
Mさんは、そのことを、頭でわかるっていうだけでなく、肌身で実感されたのでしょう。
彼女にとって、発見は意味があったにちがいありません。
年末ですから、私の祖母(母の母)のことを少し書かせていただきましょう。
大正三年生れだった彼女は、今春、亡くなりました。
二冊目の本である“だって本”が世に出て、母の十七回忌が終わった後のことです。享年95歳。
〈浦島太郎〉
〈早春賦〉
〈青い目をした人形〉……子どもの頃、色々な歌をうたって聞かせてくれました。
子ども相手だったせいでしょうか。唱歌が多かったような気がします。
特に繰り返し歌ってくれたのは、〈かなりあ〉、でした。
詞を作ったのは西条八十です。
西条八十について語ると、祖母を思い出してしまいます。
逆に言えば、祖母を思い出すきっかけを、西条八十はこれからも与え続けてくれるのだと思います。
おばあさまの歌われた〈蘇州夜曲〉を、Mさんは忘れずにいるんだろうな……。
切ないような、ほっとするような、そんな気持ちになりました。
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Mさん、すてきな話を、ありがとうございました。
出版に関わってくださった皆様方、ありがとうございました。
その後のエピソードをまた一つここにお伝えし、感謝の意を表したいと思います。
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画像は、李香蘭(山口淑子)のCD。
SP盤レコードを音源としているもの。
音が不安定なところもあります。それもまた味があるんですよね。
流行した当時のアレンジや歌い方で聞くのは、ひとしお趣き深いものです。
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御高覧いただき、ありがとうございました。
“だって本”につきましては、お手数ですが、
書庫「はずかしながら」で探索いただければありがたく存じます。
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