ご無沙汰しています。映画俳優の高倉健さんがご逝去されました。つらい思いを抱いていらっしゃる方に、次の詩をご紹介いたします。ご冥福をお祈りいたします。
「去りぬるを」
ジェームズ・ウィトコム・ライリー/小川二郎訳
言えないのです,言いたくないのです,
あのかたが亡くなられたのだと。ちょっと
お出かけになっただけなのです。
お元気なほほえみをお浮かべになって,お手を振られて,
知らぬ国へ行かれたのです。
あのかたがとどまっておられるからには,
その国はどんなにか美しいだろうと,私たちを
夢見させつつ残して行かれたのです。
そしてあなたがたは――おお,あなたがたは
あのかたが出かけたときの足音と帰ってくるときの
うれしそうな足音を,狂おしく待ちこがれられ,
うつし世のときと同じにあの世でも愛に包まれ,
いとしまれておられるゆえに,
あのかたのお美しさはそのままとお思いになっている,
またお国の仇にもののふのようたくましい
打撃を与えなさったように,
あのかたが今もなお忠節でおられると
お思いなのです。
あのかたはお勇ましかっただけでなく,
おだやかでおやさしい,
いのちの限りこよなく甘美な愛情を,
あのかたは楚々としたものにもおよせになりました。
あのかたのお目にもたぐうべき菫が咲いたときなど。
あのかたの手触りは,祈りをされたお口元のように
敬虔に残っているのです。
かん高く鳴く小さな茶色のつぐみが,
ものまね鳥と同じにあのかたには可愛かったのですもの。
またあのかたは雨にぬれて身もだえる蜜蜂を
苦しんでいる人なみにお憐れみになりましたねえ。
あのかたは少しもお変わりでないと考えましょう。
お亡くなりになったのではないのです――
ちょっとお出かけになっているだけなのです。
AWAY
by James Whitcomb Riley
I cannot say, and I will not say
That he is dead--. He is just away!
With a cheery smile, and a wave of the hand
He has wandered into an unknown land,
And left us dreaming how very fair
It needs must be, since he lingers there.
And you-- O you, who the wildest yearn
For the old-time step and the glad return--,
Think of him faring on, as dear
In the love of There as the love of Here;
And loyal still, as he gave the blows
Of his warrior-strength to his country's foes--.
Mild and gentle, as he was brave--,
When the sweetest love of his life he gave
To simple things--: Where the violets grew
Blue as the eyes they were likened to,
The touches of his hands have strayed
As reverently as his lips have prayed:
When the little brown thrush that harshly chirred
Was dear to him as the mocking-bird;
And he pitied as much as a man in pain
A writhing honey-bee wet with rain--.
Think of him still as the same, I say:
He is not dead-- he is just away!
日本最初の女性外交官山根敏子さん(1921-1956)が飛行機事故で亡くなった時、敏子さんをよく知るアメリカ人の方が、ご両親に送られた詩を、広島大学英文科教授だった小川二郎氏が翻訳されたものです。訳詩は追悼文集『去りぬるを――亡き山根敏子を偲んで』から引用させていただきました。原詩は、AWAY に基づきます。
紅葉が鮮やかになってきました。
最後までごらんくださり、ありがとうございます。