英語・ドイツ語翻訳者に転職したドイツ語好きの化学者のメモ

ルター聖書を使った教材を作成するためにも、ドイツ語の勉強を続けよう。

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受注した2件の英日翻訳のうち、短い1件の推敲が夕方までに終わった。
残り1件は130ページ以上で、納期もきつく、すぐ作業すべきだが、クジラのニュースが気になった。

水産庁がエコテロリストに指定したシーシェパード関連のニュースは、いつも大きく取り上げられているが、
日本の捕鯨関係者に都合の悪いニュースは、なぜか報道されないので、どうもバランスが悪い。

そして 「クジラのことなら何でもわかる」 と豪語する、鯨ポータルサイトにも出ていない。
http://www.e-kujira.or.jp/index.html

日本語での報道がないので、仕方なく、外国語報道を地道に探すことになる。

アメリカ TIME 誌の2月17日の記事が、数は少ないが、いくつかのブログや掲示板で話題になっている。
「クジラを殺すと世界の漁業を救うのか?」
http://www.time.com/time/health/article/0,8599,1880128,00.html

この記事は、Science, Vol. 323. no. 5916, pp. 880-881(2月13日)の論文を引用している。
「漁獲高を増やすためにクジラを間引くべきか」
http://www.sciencemag.org/cgi/content/summary/sci;323/5916/880

アリゾナ州立大学 Leah R. Gerber のグループが、いわゆる 「クジラ食害論」 を検証した。
日本政府が漁業ODAとセットで宣伝している、カリブ海とアフリカ北西岸で調査したそうだ。
(論文ダウンロードは有料コンテンツなので、月曜日に会社で読んでから、追記する予定。)

研究室のHPにある、プロジェクトの紹介は次の通り。
http://www.public.asu.edu/~lrgerbe/whales.htm


この研究の資金は、Lenfest Ocean Program という、PEW財団のプロジェクトから出ている。
http://www.lenfestocean.org/

この財団は、海洋生態学の研究、特に漁業の環境への影響に関する研究も支援している。
支援した研究の結果は、科学者の検証などを経て、持続可能な漁業の提案などに利用されている。

昨年も別の生態学者が、同様の研究について結果を発表した(IWCでも発表した)。
PEW財団のHPでも紹介されている。
http://www.pewtrusts.org/our_work_report_detail.aspx?id=40740&category=150

過剰な漁獲圧力と違法漁業が魚を減らしていることは、ナショナルジオグラフィックでも記事になった。
http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0704/index.shtml (2007年4月号)

なにがなんでも、クジラを犯人にしようという日本政府は、非科学的根拠に固執しているわけだ。


TIME 誌の記事に戻ろう。

「クジラ食害論」が出てきた背景は、次のように説明されている。
日本人一人当たり鯨肉消費量は30グラム程度で、「需要がない」 という批判に反論できない。
そこで、クジラと漁業が競合するという、「クジラ食害論」 が突然出てきたのだ。

それで Gerber らは、クジラを排除した場合のバイオマス変化を推測したところ、
商業的価値のある魚類に対して、クジラの影響は無視できるほど小さいということが判明した。

生態系は複雑であり、捕食者−被捕食者の1対1関係だけを取り上げる 「クジラ食害論」 は無意味。


今回も 「クジラ食害論」 が否定されたわけだが、日本政府の主張で正しいことは一つあるという。
それは、世界の漁業資源が危機に瀕しており、このままでは漁獲高の急激な減少が確実ということだ。

マグロ類の危機については、よく知られているが、他にもニシンやタラなど、主要な魚類が危険な状況だ。

捕鯨サークルには都合の悪い研究結果だが、漁業資源の危機についての認識は一致しているはずだ。
クジラ以外に漁獲高減少の原因があるならば、クジラにこだわって対策が遅れれば、元も子もない。

水産庁が、「感情的対立ではなく、科学的議論をすべき」 と主張しているのだから、
持続可能な漁業を推進するためにも、真の原因を特定し、一日でも早く国際的取り組みを提案してほしい。


追記(2月23日):
Science の論文を会社でダウンロードして読んだ。
論文本文は2ページと短いが、研究成果の要約の他に、「クジラ食害論」 の経緯もまとめてある。
まあ、Policy Forum という区分なので、論文というよりは意見書と呼ぶ方が合っているかも。

研究対象とした生物種のリストを見ると、クジラも魚も多岐にわたり、
実際の複雑な生態系を把握するために、適切なモデルを作ろうと努力している。

アフリカ北西岸からヒゲクジラ類を根絶した場合、漁業対象魚類バイオマスの増加はわずか 0.07% だ。
クジラの摂食量を5倍に見積もっても、増加はわずか 0.15%、10倍にしても 0.26% しか増えない。

それに対して漁業モラトリアムを実施すると、バイオマスはなんと 442% の増加となる。

つまり、ヒゲクジラ類が捕食する対象種と、商業的漁業の対象魚類とは重複しておらず、
「クジラ食害論」 など大ウソで、乱獲や環境変化、海の温暖化など、他の要因を考慮すべきだ。

しかし環境問題には政治が絡んでくるので、ODAと引き換えに捕鯨再開に賛成したりもする。
正しい手法で得られた科学的知見が、政策立案者の関心を引くように努力を続けるしかない。

ところで、日本の捕鯨サークルは、今回の論文は南極海が対象ではないとして無視するだろう。
ただし、カリブ海やアフリカ北西岸の発展途上国に、「クジラ食害論」 を宣伝するのはやめるべきだ。

結局のところ、毎年クジラを1000頭殺す理由を無理やり作っただけなのだ。
日本の調査捕鯨など、科学ではない。

追記(2月24日):
鯨ポータルサイトの 「鯨論・闘論」 では、「食害論」 の質問に対して、次のように答えている。
http://www.e-kujira.or.jp/geiron/morishita/1/#c50

【水産庁・森下丈二 参事官

一言でいえば,世界の海の中にはクジラと漁業が競合している可能性がある
ホットスポットがあるらしいというのが,もっとも正確ないい方だと思います。

捕鯨をめぐる議論の中では,日本が,「クジラが世界中で漁業資源を食べつくしているから,
間引きしてしまうべきだ」と主張しているように言われたり,逆に,「南極海ではクジラは
オキアミしか食べていないので,(世界中で)漁業との競合はない」という単純化された反論が
行われたりしていますが,両方とも極論です。

捕鯨問題ではしばしばこのような単純化された,白か黒かといった主張が行われ,
不要な対立を生んでいます
。】

ならば、IWCホガース議長の提案を蹴るのではなく、真摯な態度で妥協点を探ってほしい。
そして日本国内の捕鯨賛成者に対しても、極論を言わないように要請すべきだ。

ただ、【日本が,「クジラが世界中で漁業資源を食べつくしているから,間引きしてしまうべきだ」と
主張しているように言われ】 という表現は、反捕鯨派が極論を言っていると、宣伝する意図がある。

捕鯨サークルは、常に日本が正しいという前提で話をするので、調査捕鯨は科学ではなく政治なのだ。

追記(3月1日):
水産庁の森下氏は、「クジラ食害論」というウソを利用しているのは反捕鯨派と言っているが、
捕鯨賛成派でも、クジラが漁業を圧迫していることを子供たちに教えているから、批判すべきだ。

例えば、「ウーマンズフォーラム魚」のクジラキャンペーンでの、子供の感想を引用しよう。
http://www.wff.gr.jp/camp.html

【クジラは人間がとるより多くの魚を食べるから、クジラがかわいそうだといって
とらないのもよくないことがわかった。】

【クジラはかわいそうだけど、クジラが増えると漁師さんが困るから、
ちょっとは減らさないといけないなぁと思いました。】

(最終チェック・修正日 2009年03月01日)

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本来なら日本の政策と直結する話ですから、新聞一面に紹介されてもかわまないと思うのですが・・。せめてどこか科学欄ででも取り上げてくれないでしょうかね・・ 削除

2009/2/23(月) 午前 2:21 [ kkneko ] 返信する

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追記で示しましたが、水産庁は、「クジラ食害論」を主張していないかのように説明しています。
アフリカ西岸諸国で行われた漁業国際協力の会合には、なぜか日本鯨類研究所の研究員が参加して、クジラと漁業の関係について説明しているのに。
つまり水産庁ではなく、鯨研や他の捕鯨関係者が勝手に主張していると言いたいのかもしれません。

2009/2/24(火) 午後 7:29 [ ドイツ語好きの化学者 ] 返信する

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局地的な漁獲競合を除けば所謂「食害論」は大袈裟に喧伝されてる、という事には完全に同意した上でいくつか。
先ず、水産庁・鯨研が「食害論」を大きくアピール
しなければならなくなったのは「やむを得ず」だったと思いますが。
普通に食料資源利用の為に商業捕鯨したいのに宗教がかった一部の人達と、その人達の金と票目当ての海外政治家・団体が理屈にもならない理屈で捕鯨をさしとめようと(するフリ)してるから、「食害」を押し出したんじゃないかと。これは「食文化」も同じですが。

>日本人一人当たり鯨肉消費量は30グラム程度
>で、「需要がない」 という批判に反論できない。

コレは絶対的な供給量が現状より増やせない以上反論する必要が全く無いものです。
無意味なモラトリアム継続さえなければ100グラム
程度と数字が変わってたでしょうけれどもね。
文字制限があるようなので一度切りますね。

2009/5/26(火) 午後 4:59 [ koimo0072 ] 返信する

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>それに対して漁業モラトリアムを実施すると、バ
>イオマスはなんと 442% の増加となる。

コレは直裁に言って実現不可能な愚案愚作でしかありませんね。「アフリカ北西岸での鯨根絶」を漁獲
UPの為に鯨研が主張してるというのならばそれは問題ですが、そこでの「ホットスポット」で適切に鯨類を排除できた場合に漁獲が増やせるのは事実です。この「排除」には鯨類による漁具破損防止と破損漁具の鯨肉による補填、が占める割合が大きい。
実際に日本の沿岸歯鯨対象に行われてる事と同じですね。
アフリカ北西岸の漁業が欧州等大手資本によるものならばまだ理解できますが、あまり裕福でない地元諸国に上記方策を講じる事も無く漁業モラトリアムを押し付けるのならば文字通り「人を餓えさせてまで資源(主目的は鯨?)を守る」という愚策中の愚策ですね。また一度切ります。

2009/5/26(火) 午後 5:16 [ koimo0072 ] 返信する

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>それに対して漁業モラトリアムを実施すると、バ
>イオマスはなんと 442% の増加となる。

あぁ、この部分は前提部分をよく読んでなかったので「歯鯨による漁具破損防止〜」とか書いてしまいましたがそこで言われてるのは髭鯨でしたね。失礼

しかしコレも別のエントリーでのコメントに書いた事と同じです。
現在未利用な漁業資源との競合がありえるのならば
将来的に未利用海洋資源利用を拡大した時には「ホットスポット」が大幅に増える、という事です。
そして未利用種開拓も無しに禁漁或いは減漁によって回復を図ろうなどとは「元も子もない」愚策なのも同じです。
人を餓えさせてまで守るべき資源は存在しませんし
開拓した先でホットスポットが現れる可能性が否定できない以上「食害論」を否定する事も出来ません。

2009/5/26(火) 午後 11:33 [ koimo0072 ] 返信する

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