英語・ドイツ語翻訳者に転職したドイツ語好きの化学者のメモ

ルター聖書を使った教材を作成するためにも、ドイツ語の勉強を続けよう。

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クジラ保護団体のWDCS(Whale and Dolphin Conservation Society)の研究者と、
環境保護団体WWFの研究者が連名で、地球温暖化とクジラ類との関係について総説を書いた。
http://www.wdcs.org/news.php?select=354

Climate change and cetaceans: concerns and recent developments
Mark P. Simmonds and Wendy J. Eliott
Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom (2009), 89: 203-210.
http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=4250232&fulltextType=RV&fileId=S0025315408003196

現時点で無料ダウンロードが可能なので、興味があれば読んでみてはどうだろうか。

生態系に影響する海水温上昇が、レジーム・シフトという変動なのか、温暖化によるものなのか、
私には判断できないが、地球温暖化の一つとして海水温上昇が見られるという前提で推論しているようだ。

ところで、環境保護団体が書いた総説だからなのか、日本のクジラ研究は全く引用されていない。

既にIWCでは、1996年に気候変動ワークショップが開催され、クジラ類への影響が報告された。
この報告集が出版されているが、クジラ類保護の本なので、日本鯨類研究所は無関係のようだ。

IWCに提出する以外にも学術論文を出していると、日本鯨類研究所は主張しているが、
日本のクジラ研究は地球温暖化の影響を考察していないのか、ここでは引用できないのだろう。

日本鯨類研究所は南極海調査捕鯨の目的の一つに、「南極海生態系のモニタリング」 を挙げ、
「南極海における世界最大の総合的な鯨類調査である」 と豪語しているが、温暖化研究には利用価値はない。


海水温が上昇すると、直接的な影響として、回遊パターンや繁殖域を変えることになるかもしれない。
特定の海域に留まるクジラ類では、海水温の上昇が生息域の喪失を意味することになるだろう。
特にカワイルカ類は、他の水域に移動できないため、そのまま絶滅してしまうという脆弱性を持つ。

マッコウクジラでは、海水温が高い時期を経験後に妊娠率が低下すると知られており、
繁殖海域の海水温上昇は、そのまま繁殖率低下につながり、クジラ資源量の回復は遅れるだろう。

氷が融けたり降水量が増えると塩分濃度が変化するし、極地での冷海水の沈み込みが弱くなると、
栄養塩類を表層に押し上げる効果も弱くなり、餌となるプランクトンや魚類の減少につながる。

氷が融けるのは北極でも南極でも共通した現象だが、クジラ類への影響の形式は異なっている。
北極の氷が減少すると、油田・ガス田開発や漁船・貨物船などの航行が増えて環境汚染を引き起こす。
南極の氷が減少すると、海氷の下で育つ藻類を食べるオキアミ類の減少につながり、クジラ類も減る。

特に南極海では、餌のほとんどをオキアミ類に依存しているので、非常に脆弱な生態系と言える。
南極海でのクジラ資源量を考察する場合、捕鯨と気候変動の影響との相互作用に注意すべきだ。


二酸化炭素濃度の上昇による海水の酸性化も、塩類濃度を変化させるから、餌資源量にも影響する。
餌となる生物が減るのだから、クジラ類が飢えて死んでしまうのも当然だ。

海水温の上昇は、一般的に病原体の増殖に寄与するから、致命的な感染症の大発生が懸念される。
加えて、赤潮を起こすような毒性の藻類の大発生も頻発し、壊滅的打撃を受けるだろう。


ただ、クジラ資源量に影響するのは、温暖化だけではなく、人間活動も無視できない。
混獲や非持続的捕鯨、化学物質による環境汚染、ソナーなどのストレス要因もある。
そうすると、様々なストレス要因が複合的・相乗的に影響しており、温暖化だけを考慮するのは困難だ。

この総説では、温暖化の長期的影響を調べるために、国際協力による科学調査が必要だとしている。


著者らは、捕鯨を禁止するようには主張していないが、新しい調査をIWCが始めるならば、
日本は今の調査捕鯨を中止して、この国際的共同研究に参加して貢献すべきだと、私は考える。

南極生態系の調査ならば、文部科学省の予算も加えて、今の調査捕鯨と合わせて年15億円は使えるだろう。
他国も資金提供するし、人工衛星や航空機なども動員すれば、十分な生態調査が可能ではないだろうか。

もし、内臓や脂身などの汚染分析が必要ならば、最低限必要な捕獲枠を設定すればいい。
具体的な頭数は、一般的な野生生物研究の倫理規定に準じて、IWC科学委員会が決定すればいい。

日本の調査捕鯨は、5年間の随意契約が終わる年だし、IWCの改革を求めているのだから、
地球温暖化対策の一つとして、新しい南極生態系調査に衣替えする方が、世界に貢献できるのではないか。

(最終チェック・修正日 2009年04月26日)

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わかりやすい解説ありがとうございます。拙HPの方で紹介させていただきました。 削除

2009/4/27(月) 午前 1:51 [ kkneko ] 返信する

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