英語・ドイツ語翻訳者に転職したドイツ語好きの化学者のメモ

ルター聖書を使った教材を作成するためにも、ドイツ語の勉強を続けよう。

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中日新聞のサイトに5月24日に掲載された社説は、「難航IWC 溝は深いが望みはある」 だ。
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2009052402000045.html

この社説では、反捕鯨国との和解を日本はあきらめずに目指すべきだとしているが、
以下に引用した後半部分に疑問を持ったので、赤で示した部分を中心とした質問メールを送っておいた。

【日本は正常化に向けた取り組みを放棄してはならない。

南極海での鯨類はナガスクジラなど一部を除き順調に回復している。発展途上国などの将来の食料問題を
考えれば鯨類の持続的利用は真っ先に挙げられるテーマだ。また北西太平洋ではクジラによるサンマや
イワシなどの大量捕食が問題となっている
。これらは調査捕鯨で判明したことだ。

一方、水産関係者によると動物性タンパク質を増やすには、畜産よりも漁業生産のほうが二酸化炭素
(CO2)排出量は十分の一以下で済むという。地球環境問題からはこの指摘は無視できない。

日本はこれらの「世界共通語」を積極的に活用し、反捕鯨国との和解に取り組んでもらいたい。】

最後の 「世界共通語」 とは、「食料問題解決のための鯨類の持続的利用」、「二酸化炭素排出削減」、
そして 「クジラ食害論」 なのだろうが、どれも捕鯨サークルの主張をそのまま信用していて恥ずかしい。

「クジラによるサンマやイワシなどの大量捕食が問題となっている」 とあるが、誰が問題にしているのか。

確かに大型のクジラは大量の餌を食べるわけだが、サンマは何度も出漁制限をするほど豊漁だ。
イワシが減ったのはレジームシフトという海水温変動が原因で、禁漁にしないから資源が回復しないのだ。

調査捕鯨の委託元である水産庁(森下参事官)は、「クジラ食害論」 の存在を、表向きには否定している。
鯨論・闘論に寄せられた 「食害論」 に関する質問に、次のように、中立の立場であるように答えている。
http://www.e-kujira.or.jp/geiron/morishita/1/#c50

【一言でいえば,世界の海の中にはクジラと漁業が競合している可能性があるホットスポットがあるらしい
というのが,もっとも正確ないい方だと思います。

捕鯨をめぐる議論の中では,日本が,「クジラが世界中で漁業資源を食べつくしているから,間引き
してしまうべきだ」と主張しているように言われ
たり,逆に,「南極海ではクジラはオキアミしか食べて
いないので,(世界中で)漁業との競合はない」という単純化された反論が行われたりしていますが,
両方とも極論です。

捕鯨問題ではしばしばこのような単純化された,白か黒かといった主張が行われ,
不要な対立を生んでいます


… 「漁業管理においてクジラの捕食量が無視できない可能性があるので,それを調査して,
生態系モデルを作って検討する」というのがこの調査の目的です。

… いずれにしても,世界各地での漁業資源の悪化をすべてクジラのせいにするのも極論で,
競合がどこでも起こっていないと否定するのも極論
です。】

官僚のレトリックは解釈が困難だが、「可能性があるらしい」 などと、わざとあいまいな表現で、
「調査捕鯨を継続しないと何もわからない」という雰囲気作りをして、予算がほしいだけだろう。

殺す直前に食べた魚がサンマやイワシだっただけで、漁業と競合する可能性があると言いたいようだが、
サンマの最大の天敵はクジラではなく、スルメイカであることは既知なので、もう調べる理由がない。

イワシの資源量が減ったまま回復しない理由は上述の通りで、これももう調べる理由がない。

つまり、「漁業資源の悪化をすべてクジラのせいにする」極論を唱えているのは、捕鯨サークルである。
アフリカへの漁業協力の会議に、なぜか日本鯨類研究所が参加して、漁業との競合について講演している。
「ウーマンズフォーラム魚」でも小学生に、クジラを間引くべきだと教えている。

したがって 「クジラ食害論」 とは、反捕鯨国が日本を非難するためにでっちあげた話ではない。

職業として新聞を発行している人たちが、上記の事実を調べられなかったとは、とても信じられない。
他の主張も、捕鯨サークルの主張そのままで、何の裏付け調査もないままに社説に書いていると思われる。


発展途上国の食料問題を解決するのはイモだとされ、日本の農林水産省も品種改良に取り組んでいる。
農地と水の確保は課題だが、イモの生産拡大ならば農民は土地を離れることもなく、社会の安定に寄与する。

タンパク源として魚類・鯨肉に期待しても、既に資源量に余裕はなく、非常に限定的なものとなるだろう。
それにカリブ海やアフリカ西岸を対象にした研究では、クジラ食害論を否定する結果が得られているのだし。


「二酸化炭素排出削減」 のために鯨肉利用というのは、あまりにも我田引水のレトリックだ。
トータルで考えるのが科学的議論だが、「捕鯨船の燃料のみ考慮」 ではあまりにも不完全な条件だ。

確かに畜産も含めて農業では、特にメタンの発生が問題で、二酸化炭素換算すると影響は大きくなる。
しかし、バイオマスエネルギー利用が普及すれば、二酸化炭素排出量は相殺されると期待されている。

クジラを殺す理由が作れるならば、何でも利用しようということなのか(原発推進にも似ている構図)。


中日新聞が回答することを期待しながら、IWC関係のニュースをチェックしておこう。


追記(5月25日):
この記事を投稿直後の、テレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」では、ウシ由来のメタンを抑制する方法として、
帯広畜産大学・高橋潤一教授のグループが開発した、「システイン含有飼料」 が紹介された。
http://www.obihiro.ac.jp/ichiran/takahashi_junichi.html

また、家畜の糞尿の発酵でメタンを生産するバイオガスプラントも紹介された。
メタンの元をたどれば牧草だから、二酸化炭素は再び牧草に固定化されると考えてよいことになる。

農林水産省内の組織である水産庁が、日本の畜産研究について情報を全く持っていないはずはない。
しかも帯広畜産大には、日本鯨類研究所と共同研究をしている福井豊教授もいるのに。
http://www.obihiro.ac.jp/ichiran/fukui_yutaka.html

それとも、捕鯨をする理由づけに邪魔になりそうなものは、日本の研究成果でも無視するということか。

(最終チェック・修正日 2009年05月25日)

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海洋水産資源の減少の主因は人間の乱獲と、海洋の汚染にありますよね。
加えて最近では地球温暖化による海洋酸性化が海洋環境を悪化させています。

1970年以前は鯨も魚ももっと多い豊かな海だった事実を認めるだけで、鯨食害論は一掃されるものである、と思うのですけど^^;

中日新聞の知見はあまりにも幼稚すぎます。
転載させてください♪

2009/5/24(日) 午後 10:36 サンバの良心 返信する

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サバンナの良心さんから来ました。
同じ名古屋?愛知県で、中日新聞愛読者です。
転載しておきます。

2009/5/25(月) 午前 0:20 アニマルファーム  紘 返信する

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局地的な漁獲競合を除けば所謂「食害論」は大袈裟に喧伝されてる、という事には完全に同意した上でいくつか。
先ず、水産庁・鯨研が「食害論」を大きくアピールしなければならなくなったのは「やむを得ず」だったと思いますが。
普通に食料資源利用の為に商業捕鯨したいのに宗教がかった一部の人達と、その人達の金と票目当ての海外政治家・団体が理屈にもならない理屈で捕鯨をさしとめようと(するフリ)してるから、「食害」を押し出したんじゃないかと。これは「食文化」も同じですが。
>官僚のレトリックは解釈が困難だが、「可能性が
>あるらしい」などと、わざとあいまいな表現で、

局地的な競合可能性すら無い、なんて事はありえませんよ?
それにサンマ鰯等現在漁業対象にしてる魚種だけに
その競合可能性を見たがるのは反捕鯨さんだけでして、現在未利用な魚介資源への影響を知る事は重要な筈ですが・・・?
鰯が回復しない⇒じゃあ禁漁にしよう。では問題解決には繋がりません。(一度切りますね)

2009/5/26(火) 午後 6:01 [ koimo0072 ] 返信する

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鰯の漁獲分を減らし、その他現在未利用な資源利用を開発するか、利用可能な鯨資源で穴埋めをするか
という方向で総合的な食糧生産量を「減らさない」
方向に考えなければ全く意味がありません。

>タンパク源として魚類・鯨肉に期待しても、既に
>資源量に余裕はなく、非常に限定的なものとなるだろう。〜

現在未利用な海洋生物資源は漁獲総生産の数十倍はあると言われてるのを御存知ないんですか?
中でも頭足類資源はそれだけで全人類を養って尚余りある、と言われています。それ以外でも直接食するとワックス成分で下痢を起こしたりするような
中深海性魚類などを脱脂加工すれば陸上資源への無理な負担無く蛋白源を得る事が可能です。
(また切りますね)

2009/5/26(火) 午後 6:09 [ koimo0072 ] 返信する

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この回の地球号は私も見ましたが、トヨタが厳しいせいかプリウスのCMになっちゃってましたね(^^;
番組中で「システインは国内で飼料添加物として認可されていない」という注記がありましたが、農水省が気候変動問題に関心があるのなら何故早々に認可しないのか、理解に苦しみます。番組の内容全体も、よその国に注文つける前に麻生首相に提案すべきもんでしたね・・
以下の研究なども水研センターと横並びの機関によるものですから、情報を持っていないのはおかしいですね。
「家畜ふん尿及び食品廃棄物からのメタンガス回収」
http://www.affrc.go.jp/ja/research/seika/data_kanto/h13/01/narc0101a32 削除

2009/5/27(水) 午前 1:14 [ kkneko ] 返信する

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