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原則として「聖書でドイツ語」では、Luther 2017と新共同訳を使い、2018年12月からは聖書協会共同訳も利用しています。

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有機化学の研究をしていたとき、英語論文を書くときも、日本語で学会発表をするときも、化合物の名称について、誰が見てもわかるように気を付けていた。
その研究分野の独特の略称だったり、伝統的な慣用名を使うこともあるが、最新の命名規則に従って名称を書くようにした。

ところが、特許では、学術論文とは異なり、工業的に使われる通称などが自由に使われているように思える。
例えば、「シアン化ナトリウム」を「青化ソーダ」と書いてある特許を、21世紀なのに見たことがある(特開2002-371046)。

発明した研究者ではなく、知財部門の人が書いていると、以前の出願に合わせて古い名称を使うのかもしれない。

最近は時間のあるときに、ドイツ語特許を教材にした資料を作る目的で、ドイツの化学メーカーが出願したドイツ語オリジナル特許と、それを英訳・和訳したものを収集している。

最近、ドイツ語の Carbonsäurenitril を「カルボン酸ニトリル」と和訳したものを見て困惑している(WO2007/039536 A1(B1)、和訳 JP5511187 B2 (特表2009-511241 A)、英訳 US2007/0117980 A1)。

正しくは英訳特許のように「カルボニトリル(carbonitrile)」となるはずなのに、「カルボン酸ニトリル」なんて、これまで使ったこともないので困惑しているのだ。

発明の名称を比較してみよう。
ドイツ語(WO2007/039536 B1): 
MANGANDIOXID-KATALYSATOR ZUR HYDROLYSE VON CARBONSÄURENITRILEN
機械翻訳で自動的に付けられた英語での名称:
MANGANESE DIOXIDE-CATALYST FOR HYDROLYISING CARBOXYLIC ACID 
NITRILES

和訳 (JP5511187 B2):
カルボン酸ニトリルの加水分解のための二酸化マンガン触媒

英訳 (US2007/0117980 A1):
MANGANESE DIOXIDE CATALYST FOR THE HYDROLYSIS OF CARBONITRILES

経済産業省のサイトある国際特許分類(IPC)の和訳では、C07C 253/00 は、「カルボン酸のニトリルの製造」で、WIPOのサイトにある英語「Preparation of nitriles of carboxylic 
acids」に対応している。

しかし、J-Store に記載の国際特許分類 C07C 253/00 は、「カルボン酸ニトリルの製造」とあるから、この和訳を使っているのか。
英語でも、「Preparation of carboxylic acid nitriles」と書いてあるので、余計に困っている。

もしかすると、「カルボン酸ニトリル」と書いている和訳特許は、ドイツ語特許から直接和訳しているのではなく、carboxylic acid nitrile と英訳したものから和訳(つまり重訳)しているのかもしれない。

英語の方がワード単価が安いため、そして英語の方がチェッカーを手配しやすいため、英訳ができるまで待っていたのかもしれない。
ただし、その英訳での化合物名が、命名法に従っていない俗称では、誤訳の拡散? になってしまう。

クライアントから、「以前の出願に合わせてカルボン酸ニトリルにしてほしい」と言われても、50年くらい前の日本語論文(日本化学会, 88(3), 349-352 (1967))に出てくる名称であっても、化学者としては同意しがたい。

具体的な化合物名で見てみよう。

ニトリルの主な命名法では、…ニトリル(..nitrile)、…カルボニトリル(..carbonitrile)という置換名にすることもあれば、カルボン酸の名称を元にして、カルボン酸の語尾 ic acid または 
oic acid を、onitrile にすることもある。

シクロヘキサンカルボン酸(C6H11COOH, cyclohexanecarboxylic acid)
-> シクロヘキサンカルボニトリル (C6H11CN, cyclohexanecarbonitrile)

カプロン酸(caproic acid)と同じ炭素数6個の直鎖脂肪族ニトリルは、
caproic acid -> capronitrile となり、日本語名称は「カプロニトリル」になる。

決して「カプロン酸ニトリル(caproic acid nitrile)」ではないのだが、これを使う人が存在し、和訳の特表2017-521508 Aを見ると、請求項5に「6−アミノカプロン酸ニトリル」が出てくる。
しかし、段落番号【0011】では、「6−アミノカプロニトリル」と正しい表記をしていて、一貫性はない。
この点に審査官が気付いて指摘して、正しい化合物名に補正してほしいものだ。

また、「カルボン酸ニトリル」は、エステル(R-C(=O)-OR')やアミド(R-C(=O)-NH2)に類似していると連想させて、R-C(=O)-CN のアシルシアニドのことだと誤解する恐れがある。

特許翻訳者の間では、「カルボン酸ニトリルは、カルボニトリルの俗称である」という共通理解はあるのだろうか。

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