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原則として「聖書でドイツ語」では、Luther 2017と新共同訳を使い、2018年12月からは聖書協会共同訳も利用しています。

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ニューラル機械翻訳(NMT)が登場してから、翻訳者の仕事がなくなると言う人が現れるようになった。
実際には、人手翻訳と同様に、NMTでも誤訳や訳抜けが発生するため、ポストエディット(PE)という後処理作業が必須である。

どのような種類のエラーが発生するのか、「通訳翻訳ジャーナル」2018年春号の40ページに掲載された記事を参照してほしい。
山田優・関西大学教授の報告では、人手翻訳で一番多かったエラーは、「原文内容の歪曲」であった。

この歪曲では、単なる不注意による誤訳もあるが、原文内容を理解しているのに、より適切な訳を求めて修正するときに、言外の意味などを推測して、結果的に改悪してしまうものも含んでいる。

NMTでは、この「原文内容の歪曲」に加えて、「不適切/一致しない訳語」が同程度出現するという。
NMTでは、原文全体を見ていないし、単語相互の関連性を計算しているだけなので、セグメントごとに訳語が変わることも多い。

また、最近出版された「翻訳事典2019-2020」の機械翻訳批判記事? でも、NMTの問題点として、この種のエラー発生を強調しているようだ。

私は業務で、英日特許翻訳の案件で機械翻訳を利用して、PEを毎日していている。
確かに、長文での訳抜けや重訳の出現、数字があちこちに移動したり、PE作業の負担は予想よりも多いという印象だ。

それでも平均すると、最初から人手翻訳をしてタイピングするよりは、10〜20%の時間短縮が実現されていると感じている。
この作業負担感についての論文数は、まだ少ないものの、機械翻訳+PEでの効率改善が10〜20%のレベルであることは、多くの翻訳者に同意してもらえることだろう。

人手翻訳とは異なるNMTのエラーの癖があるため、PEに向く人材についての検討や、どのような点に注意してPEを行うべきなのかという研究も行われている。
www.fellow-academy.com/fellow/pages/tramaga/backnumber/388.jsp
honyakukenkyu.sakura.ne.jp/shotai_vol10/No_10-004-Yamada.pdf

ただ、PEという作業自体は、これまでの翻訳とは全く異なる業務内容となるため、PEをいくらこなしたとしても、翻訳者にはなれないとも言われている。
PEの作業に関する研究では、NMTの出力結果に引きずられて適訳が思い浮かばなくなったという、被験者の感想も明らかになっている。

それで、通訳翻訳ジャーナルでも、翻訳事典でも指摘されていることだが、これから人間がどのように翻訳に関わるのかというと、NMTでは対応できない部分である。
つまり、原文全体を読んで内容を把握し、筆者の意図をくみ取り、読者が理解しやすい適切な訳文を考えることだ。

また、NMTは原文の誤記に対応できない。
翻訳不能として原文ママで単語を残してしまったり、無理やり似たような単語に置き換えたとしても、それが誤訳だとはNMT自体は認識しない。

PEで全てのエラーを修正するとしても、正確な翻訳ができる翻訳者が参加して、正しい訳例としてフィードバックして、NMTに再学習させなければならないだろう。

しかし、機械翻訳+PEをコスト削減の口実に使おうという依頼者がいるのも事実であり、単価切り下げに加担したくない翻訳者が多く、協力が得られない恐れがある。
そのため、実力のない人がPEを受注して、低品質の翻訳が出回る恐れもある。

機械翻訳+PEという新しい業務形態の導入を阻止したい人もいるかもしれないが、どのようにすれば業務の改善ができるのかという視点でも検証を重ねて、PEに対応したカリキュラムを開発し、それと同時に多言語の翻訳者を養成する具体策も検討してほしいものだ。

ところで、翻訳事典2019-2020の40ページ、下から7行目に、「エントロビー」とある。
これは、正しくは、「エントロピー」である。

トップクラスの翻訳者が書いた原稿に誤記があったのか、編集作業による誤植なのかは不明だが、校正作業でも見落とされ、人間がいくら努力してもミスをしてしまう存在であることを再認識した。

今後は他者の翻訳者の協力も得て、独日の機械翻訳を検証したいものだ。

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    NMTは英独でのことでしょうか?
    英日ほど語順の入れ替えが無いので精度が高いのかな、と

    [ yak*y ]

    2019/2/11(月) 午後 5:37

    返信する
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    > yak*yさん
    日本の翻訳業界で話題になっているNMTは、英日/日英がほとんどです。
    日本では英語翻訳者が一番多いため、英語の話をしていることが前提で記事が書かれています。

    特許関連では、中国語と韓国語の機械翻訳にも取り組んでいますが、ドイツ語も含めて、英語に比べると進んでいないのが現状です。

    英独や英仏などは90%以上のマッチ率ですが、PEの作業が必須のため、負担軽減感は10〜20%程度にとどまるそうです。

    [ ドイツ語好きの化学者 ]

    2019/2/11(月) 午後 6:05

    返信する
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    >負担軽減感は10〜20%程度

    微妙な感じですね。。。

    [ yak*y ]

    2019/3/27(水) 午後 9:05

    返信する

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