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原則として「聖書でドイツ語」では、Luther 2017と新共同訳を使い、2018年12月からは聖書協会共同訳も利用しています。

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ニューラル機械翻訳(NMT)では、人間と同じ種類の「原文内容の歪曲」というエラーに加えて、「不適切/一致しない訳語」というエラーが同程度発生するという特徴がある。

NMTでは原文全体の文脈は無視しているため、複数の訳語がランダムに出現することが多く、ポストエディット(PE)という独特の後処理工程が必須である。
このPEにどれだけ手間がかかるのか、PEをすれば人手翻訳と同等の品質が保証できるのか、などの課題がある。

NMTの出力結果に対するPEは、人手翻訳に対するチェックとは異なる作業なので、翻訳とは異なるという意識で行う必要がある。
そのため、PE作業を専門とするポストエディターの養成カリキュラムを開発しなければならない。
そのカリキュラムを利用して、人手翻訳をしている翻訳者がポストエディターという新業態に移行できるように教育したり、外国語大学などの学生を翻訳者兼ポストエディターとして育成することになるだろう。

現在、翻訳者として働いている人たちは、私も含めて、このPEに対応できるかどうか、あるいは、PEを受け入れるかどうかを決断する日が来る。
ただ、優秀な翻訳者であっても、PEは翻訳とは異なる作業なので、誰でも向いているわけではない。
PEに向いていない人、そしてNMTを受け入れたくない人は、人手翻訳が必要な高度な題材に取り組むことになるだろう。

ただ、ポストエディターを養成するとしても、翻訳者としてのトレーニングが不要になることはないだろう。

ある実験では、NMTの出力結果に引きずられて、適切な訳が思い浮かばなくなった被験者もいた。
また、知らない単語の意味を調べる必要がなくなって楽だ、と感じた被験者もおり、安易な作業という先入観が生まれると危険だ。

だから、NMTの出力結果は翻訳ではなく、計算結果が並んでいるだけだと、健全に疑う意識を持って、自ら正しい翻訳を生み出す力を持っている必要がある。

PEもできる優秀な特許翻訳者が望まれているが、国家レベルで養成しているわけでもなく、外国語を専攻した大学生が特許翻訳者を目指しているという話もあまり聞かない。

外国語関連の大学や学部で説明会をしている翻訳会社もあるが、文系学生にとっては、特許の技術内容が理解できないのか、あまり興味を持ってもらえないそうだ。

大学や企業の研究者の第二の人生として、特許翻訳者という道もあることを宣伝してもいるようだが、英語翻訳者ばかりのようで、ドイツ語はヨーロッパで主要言語なのに人気がない。

私の会社でも、ドイツ語特許翻訳者としての経歴がある人材を募集しているが、元々人数が少ないのか、既に他社の専属となっているのか、ほとんど集まらない。

私はドイツ語特許翻訳のセミナーにも参加しているが、参加者の中で実際にドイツ語特許翻訳をしている人はわずかである。

特許翻訳者の人数が少ないから、養成にも時間と手間がかかるから、その代わりにNMTを導入するというのは、危険な選択だろう。
翻訳者が足りないということは、PEもできる人材もまた足りなくなり、チェックをすり抜けた低品質翻訳を大量に生み出してしまうという、負のスパイラルを加速することになるのかもしれない。

社内で独日担当が私1人なので、ドイツ語NMTを導入して生産性を上げたいと思っているが、できればフリーランス登録をしている翻訳者にも参加してほしい。
しかし、依頼できそうなのは1人か2人しかいないのが現状だ。

頼めないレベルの人というのは、実はNMTと同じくらいの頻度でエラーを発生させて、しかも推敲せずに納品してしまう人だ。
このレベルの人をポストエディターとして育成しようとしても、人手翻訳を頼んだときに、原文の文脈を考慮しない誤訳、訳語の不統一、数字の転記ミス、請求項で「前記」が漏れている、などを多発しているのだから、NMTの出力結果を修正できないだろう。

つまり、NMTを導入するには、優秀な翻訳者の確保とポストエディターの養成が同時進行で必要ということだ。

そして、ドイツ語特許翻訳者が確保できない場合、ドイツ語NMTを導入してもPEができないので、英訳ができてから英語翻訳者が和訳するという、現在でも問題と思われる重訳が増えるのではないだろうか。

オリジナルがドイツ語特許であっても、英語の方が単価が安いことに加えて、クライアント側にドイツ語を知っている人材がいない場合、納品物の検品ができないので、英訳の使用を希望するかもしれない。

その英訳が人手翻訳であっても、NMT+PEであっても、誤訳・誤記などが残っているリスクがある。
先日も、英訳された特許を和訳していて、どうしても内容が理解できないという部分があった。
それでオリジナルのドイツ語特許を調べてみると、英訳時に誤訳していたり、化合物名が間違っていたことが判明した。

NMTでは原文の文脈を無視しているので、誤記にも対応できない。
人間のように、「この表現は何だか変だな」という違和感を持つこともない。
だから、特許の内容を反映していない表現に出会っても、人間のように、「オリジナルのドイツ語を調べてみよう」という反応はしない。

大学で研究しているとき、「化学者は英語だけではなく、最低もう1つ別の外国語で論文を読めた方がよい」と主張していたが、賛同する人はごくわずかであった。
英語だけ勉強すればよいと思っている人が多いため、今後もドイツ語など非英語人材を確保することは困難であろう。
その少ない非英語人材の中から、特許翻訳を目指す人がどれだけ生まれるであろうか。
日本語がわかるドイツ語ネイティブに期待することになるのだろうか。

翻訳業界全体で協力して人材育成をしなければ、NMTが発達しても、日本では導入不可能ということになるかもしれない。

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