奇想の庭(復活そして昇天)

19世紀末から20世紀前半のロシア文化を駆け巡り、拾い集め、組み立てて、発見する・・・・・・

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 モスクワの魅力は何だろう? 中世からの建築スタイルの残る街。細い横丁が有名な大通りを縫って走り、美しい並木道がある。金色や銀色の玉ねぎ型のドームのそびえる大小の教会があちこちにあり、礼拝の時間に重い扉を開けると、薄暗い中に、蝋燭の明かりがちらちらと古いイコンを照らし、天井の採光窓からわずかに天の光が忍び寄る。敬虔な信者たちは頭にとりどりのプラトークを巻き、金髪やジプシーのような黒髪を隠して、それぞれのお気に入りのイコンの前で静かに頭を垂れたり、接吻する。トルストイの家の近くにも素晴らしい教会があり、古い、美しい、由緒のある生身女マリヤのイコンがある。

 わたしがモスクワの教会での礼拝を聞いた中で最も感動した教会は赤の広場にあるグム百貨店と小路を挟んで向かい合った小さなカザンの聖母教会にほかならない。カトリックのひどい素人たちの合唱の入るミサと違って、ロシア正教のリトルジーは主教や司祭と選ばれた聖歌隊によって執り行われる。ある晩のリトルジーは聖歌隊の合唱がとりわけ美しく、その中に、時々ソロのパートを歌うソプラノの女性がいたが、その歌声の素晴らしいこと。聴いているだけで、天にも昇る心地である。その時、思ったのだ。もう音楽はロシア正教のリトルジーさえ聴いていればよい。清らかなボーイ・ソプラノも、艶やかに伸びるテノールの声も、この時以来、すっかりかすんで興味がなくなってしまったのである。この聖歌隊の音楽を聞いていると、心の底から揺さぶられ、自然と涙が湧いてきた。

 そういえば、ロマノフ朝最後の皇帝ニコライ二世と妻であるアレクサンドラ皇后はモスクワが大好きであった。二人は中世の街をよく歩き、小さな教会の礼拝に参加した。一方、当時の首都であったペテルブルクは夫婦そろって大嫌いで、ペテルブルク市民のほうも皇帝夫妻を好きではなかった。夫妻はモスクワから戻っても、もっぱら、ペテルブルク郊外のエカテリーナ宮殿と隣接したアレクサンドル宮殿で過ごすことが多かった。

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