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ジャン・コクトーの同名の小説が原作である。コクトーはこの映画で脚色と台詞、ナレーターを担当している。独特の詩的な言葉が全編にちりばめられ、最も洗練された舞台のような映像とともに観る者を不思議な夢想世界へといざなう。ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲の《四台のチェンバロのための協奏曲BWV1065》が随所に非常に効果的に使われている(チェンバロの部分はこの映画の中ではピアノに編曲されていた)。衣裳はクリスチャン・ディオール。 〈ストーリー〉 雪の放課後、中学生のガキ大将たちはたちまち雪合戦に熱中した。ポールは必死でダルジュロスを探している。その時、雪玉が胸にあたって、ポールは血を吐いて気絶した。雪玉の中には石が入っていたのである。それを投げたのはダルジュロスだ。彼は美少年であるが、大変な問題児である。ポールの親友ジェラールが彼を家まで送っていった。ポールはエレベーターのない古いアパルトマンに病気の母、美しい姉エリザベトと三人で暮らしていた。 ポールとエリザベトは誰も入り込むことの出来ない二人だけの世界に生きていた。顔を合わせれば口をきわめて罵り合う二人であったが、奇妙な品々の溢れかえった一室で共に生活し、眠り、一切の秘密を持たなかった。古めかしい箪笥の引き出しの中には共通の不可解な宝物が詰まっていた。本来の用途を離れて象徴的な意味を持った品々。英国製の鍵、薬の容器、アルミニウムの指輪…それらは子供の気持ちを解せぬ者にはガラクタ同然であった。姉弟はしばしば一緒に夢想の世界に沈んでいった。ベッドに並んで仰向けになってある種の呪文を唱える。たとえば、こんな風に。「破壊の神殿があるの。50人の高僧のうち、4人が聖域に入れるのよ…」それから、恍惚状態に入るのだった。それを二人だけの隠語で「行ってしまう」と言っていた。「二人で行きましょう」と言えば、それで十分だった。 医者が往診に来た。ポールは胸が弱いからと静養をすすめ、また、姉弟の悲惨な暮らしぶりを見て取ると、看護婦を二人差し向けて、家事もやらせようと言う。奇跡であった。医者は姉弟を愛している。ジェラールが見舞いに来て、ダルジュロスが放校処分になったことを伝えた。ポールは衝撃を受けた。壁に貼ってあった写真を持って来させた。それは、学校の祭の芝居で、ダルジュロスが主役の女性アタリーに扮した時の写真であった。ポールにとっては宝物だ。彼はダルジュロスを慕っていたのである。 ポールは夢遊病になった。それから母が死んだ。医者はポールの顔色がひどく悪いので、海に行くことをすすめ、ジェラールの叔父に自ら電話して、ポールをバカンスに誘うようにと頼むのであった。列車の旅に姉弟は興奮した。ホテルでは一緒にシャワーを浴びてバスタブを溢れさせ、レストランでは示し合わせて小さな女の子を泣かせたり、店へ入れば度胸だめしに万引きをする姉弟であった。ジェラールにも無理やり万引きをさせた。 バカンスから戻り、ジェラールは次第に姉弟の部屋に入り浸った。姉弟はそれぞれのベッドで、ジェラールは床に寝床をつくって三人が一部屋で過ごした。相変わらず激しく口論する姉弟と、必死で仲裁を試みるジェラール。エリザベトは家を出て働くと言い出した。ポールは、せいぜい娼婦がお似合いさ、と罵ったが、彼女はジェラールの叔父さんの知り合いの店でモデルの仕事をすることになった。店ではアガートという名の先輩モデルが彼女に親切にしてくれて、モデルの歩き方などを教えてくれる。エリザベトもアガートも孤児なのだ。仕事帰りにエリザベトはアガートを家に招いた。 アガートの顔を見るなり、ポールは強い衝撃を受けた。アガートもまた、引き出しの宝物の中に入っていたダルジュロスの写真を見るなり驚いた。「私の写真?そっくり。どう見ても私よ」その時エリザベトは気がついた。壁じゅうにポールが貼ったボクサー、探偵、アメリカのスターたちは孤児のアガートやダルジュロスと似ていた。結局アガートもこの家で暮らすことになった。けれども、ポールはアガートに辛く当たり、絶えずいらいらするようになった。エリザベトが「行く」ことを誘っても「僕はもう神殿にも夢の国にも行けない」と苛立ちを募らせるばかりだった。 そんな折、ジェラールの叔父の知り合いの富裕なユダヤ人ミカエルがエリザベトを見初め、結婚を申し込んできた。彼はパリの街なかに18部屋もある屋敷を所有している。その上、優しかった。「ポールの生活費は面倒みるよ」などと言ってくれる。ところが、結婚式の後、ミカエルは一人で車に乗って別荘へと発ち、4日後には戻ってくることになっていたものの、事故死してしまった。エリザベトには莫大な遺産がはいった。ポールもアガートもジェラールも今や彼女のものとなった屋敷の住人になった。18部屋もあるのに、4人は一つの部屋でよく過ごした。ポールは相変わらずアガートに当り散らし、エリザベトとも大喧嘩をすると、毛布だけを持って部屋を出た。彼はホールに向かった。毛布を引きずりながら、だだっ広い、どこにもつながっていない不思議なホールへと夢遊病者の足取りで歩いていった。アガートが彼を支配していた。だが、彼女を愛し、身をゆだねる代わりに彼はムキになって暴れ、悪魔的な宿命に戦いを挑む。ホールで彼は屏風を見つけた。彼は屏風を立て、城壁をめぐらせて中国風の村を作った。古い絨毯を敷き、毛布にくるまって眠った。古い家の家具が次々とこの「新居」に運び込まれた。ランプ、古い布、ベッド、椅子、ビン、宝物の箪笥、ひげをつけた石膏像。ほかの三人もこの魅惑的な風景を無視できず、ポールを追って移住した。けれども、エリザベトが「ここなら行けるわ」と言うと、ポールは「行くには年を取りすぎた」と悲しげに答えた。 とうとうポールはアガートに手紙を書いた。愛の告白である。「君が愛してくれないと僕は死ぬ。返事をくれ。僕は苦しい。ホールで待っている」と彼はしたため、渡す勇気がないので、郵送した。ところが、アガートの名を書くべきところに自分の名前を書いてしまった。一方アガートも恋の病にかかっていた。食事にも来ないのでエリザベトが様子を見にゆくと、アガートは泣きながら言うのだった。「愛しているの、あの人を。でも嫌われているの。初めから好きだった。からかわれたり、罵られたり、でも彼がいれば幸せだった。でも彼は避けている。もう耐えられない」そうして、その相手がジェラールではなく、ポールであると聞いた時、エリザベトは驚愕した。まさに晴天の霹靂だった。次の瞬間、彼女の心の奥底に潜んでいた悪魔が動き出した。彼女はポールに話してあげる、と優しく言うと、今度はポールのところに行った。ポールは手紙のことを気にしていた。アガートは手紙を箪笥の上に置きっぱなしにして眠っていた、とエリザベトは言った。本当は受け取っていないことを知りながら。それから、アガートが愛しているのはポールではなくジェラールであると嘘をついた。ジェラールの叔父さんが金持ちだから、ブルジョワ家庭を築いて二人は幸せになれるとも付け加えた。次にエリザベトはジェラールのところへ行って、「アガートがあなたを愛し、申し込みを待っているわ」と彼に話した。ジェラールは意外そうであったが、エリザベトは彼にアガートとの結婚を熱心に勧めた。それから、エリザベトは再びアガートを訪れた。「ポールは恋の出来ない男よ。誰も愛せないの。利己主義で自分も相手も破壊する男よ」と断言し、「ジェラールは愛情深いし、将来を保証してくれるわ」と、アガートがジェラールと結ばれるようあらゆる策をめぐらせるのだった。ポールはふたたび夢遊病の発作に襲われるようになった。 アガートとジェラールは結婚した。ある時、旅行の帰りに久しぶりにエリザベトとポールのもとを訪れた。二人はマルセイユでダルジュロスと会ったという。彼はインドシナの方へ車の販売をしており、「今でも雪玉(ポールのこと)のやつと付き合っているか?」とジェラールは聞かれた。彼はまた各国の毒薬を集めていて、「雪玉が欲しがっている毒薬を今ぼくが集めている」と語ったという。そうして、彼の贈り物だ、とジェラールがポールに差し出した包みの中には「ペストとゼラニウムの強烈なにおいを放った」毒薬が入っていた。毒矢に塗るものであるという。アガートは怖がって、捨てるように願ったが、エリザベトはそれを鉄の箱に入れて宝物の引き出しに大切にしまった。 雪の日曜日、エリザベトはまどろみ、夢を見た。ポールが死ぬ夢であった。彼女は青い小道を歩いていた。小道はホールの絨毯に続いていた。見慣れないガウンを着て丘を登っていた。屏風の後ろを通ったが中国風の部屋はなかった。玉突き台にポールが寝ていた。奇妙な姿勢をして、「別れのベルをお聞き」と言った。ベルの音がして、エリザベトは夢から覚めて跳ね起きた。すると、アガートが来ていた。ポールから毒を飲むという手紙をもらったというのである。慌てて屏風に囲まれたポールの寝室に駆けつけたが手遅れであった。ポールはベッドに瀕死の状態で横たわり、日曜日なので医者を呼ぶこともできない。エリザベトがコーヒーを沸かしに席を外した隙に、ポールはアガートにすべての真実をぶちまけた。アガートは呆然とした。今やエリザベトの仕掛けた罠や嘘がすべて明るみに出た。エリザベトが戻ってきて、ポールに飲ませようとしたコーヒーを、アガートは「飲んじゃダメ」とはねのけた。ポールも最後の力を振り絞ってエリザベトを罵った。「汚らわしい悪魔め!」 「ポールを失いたくなかった。アガートに奪われるのが許せなかった」とエリザベト。引き出しの一つからピストルを取り出して、すでに、すっかり常軌を逸し、憑かれたように喋り続ける。「我慢できない人生を清算するのよ。私を追放する人生ドラマはイヤ」アガートは悲鳴を上げる。だが、エリザベトはポールを最後の催眠に導こうとしていた。彼を惹きつけ、黄泉の世界へと誘うのだった。ポールは死んだ。アガートはエリザベトと二人きりになった。「助けて!」と必死で叫ぶアガート。銃声がした。屏風が倒れた。その屏風に重なるように倒れたのは自らを撃ったエリザベトにほかならなかった。 1950年フランス映画/100分 監督・製作・脚色:ジャン=ピエール・メルヴィル 原作・脚色・台詞・ナレーター:ジャン・コクトー 衣裳:クリスチャン・ディオール 音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ キャスト:ニコール・ステファーヌ(エリザベト)、エデュアール・デルミット(ポール)、ルネー・コジマ(ダルジュロス、アガートの二役)、ジャック・ベルナール(ジェラール)、メルビル・マルタン(ミカエル) |

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