この映画の原作はウィリアム・メークピース・サッカレーである。そうして、このどこにも類をみない緻密な映像を、完璧な時代考証と洗練された趣味によって実現したのはキューブリック監督であるが、彼の他の作品をいくつか並べてみると、そのスケールの大きさもさることながら、それぞれまったく分野の違うテーマに取り組んでいることに驚かされる。『2001年宇宙の旅』、『時計じかけのオレンジ』、『ロリータ』、『スパルタカス』。いったい彼はどんなものでも求められば魔法のように創りだす天才職人なのだろうか?それとも、限りなく多くの引き出しを持って、それらを自由にエゴイスティックに操る芸術家なのだろうか?
さて、『バリー・リンドン』ははっきりと二つの部分に分けられる。前半ではバリーが外見も含め、数々の恵まれた資質を生かし、一兵卒から、女伯爵兼女子爵兼女男爵の地位を持った美貌の権力者の婿にまで登りつめる。後半では彼が放蕩の限りを尽くし、家庭にも失敗し、没落する。
全編を通して、登場人物の性格描写も実に破綻がなく、すべての人の運命はこうなるべくしてなったという感じで、矛盾がない。また、アンティーク好きな人にとっては、18世紀の建築、美術、衣裳、家具調度のすべてが美しく、本物で、見飽きることがないだろう。音楽のアレンジも見事であった。同じ音楽が
ロマンティックな愛を語らう場面に使われたと思うと、ドラムの音が不気味な緊張感をもって迫ってくる決闘のシーンにもなるのである。
1975年イギリス映画
監督・脚本:スタンリー・キューブリック
キャスト:ライアン・オニール、マリサ・ベレンスン、パトリック・マギー、ハーディ・クリューガー、
マーレイ・メルヴィン
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