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シャルル・ペロー(1628-1703)の童話の中では〈青ひげ〉はこう書かれています。
「昔々、あるところに、町にも田舎にも立派な屋敷をいくつももち、それに金や銀の食器類や、刺繍のあ
る家具や、金ぴかの四輪馬車などを所有している男がありました。けれでも不幸なことに、この男の髭は
青かったので、そのために大へん醜く、大へんおそろしく、どんな女でも娘さんでも、この男を見て逃げ
出さないものはないほどでありました。 …… その上、もっと気分の悪いことには、この男はもうすでに
何人もの女を妻にしていて、その女たちが現在どうなってしまったかは、だれひとりとして知らないので
した。(澁澤龍彦訳)」
しかしながら、ハンガリーの作曲家ベラ・バルトーク(1881-1945)の神秘的な音楽が異彩を放つ、この一
時間弱の歌劇の中の青ひげは実に閉ざされた心を持った謎めいた孤独な人物として描かれています。妻と
して迎えた美貌のユーディットの強い求めに応じて、次々と七つの鍵を手渡し、秘密の扉を開けさせるこ
とになります。観客の好奇心はユーディットと共に最高潮まで高まってゆき、目の前に天国か黄泉の幻影
のごとく現れる神秘の部屋部屋に息を呑むことでしょう。
第1の部屋は怖ろしい呻きの渦巻く拷問部屋。
第2の部屋はいにしえの戦場の勇壮な響のする武器庫。
第3の部屋は金銀宝石があたかも世界中の光を集め生命を得たごとくまばゆく強烈に輝いていました。そ
の時、ユーディットは宝石に血の跡がついていることに気がつきました。
第4の部屋は世にもかぐわしい薔薇や目にも綾な花々の咲き乱れる秘密の花園でした。ところが、薔薇の
花には点々と血がつき、土は血で染まっているのでした。
第5の部屋は青ひげの領土です。太陽も月もあらゆる星も地上にあるものはすべて彼に属していました。
しかし、ユーディットは真っ赤な影を帯びている雲に気がつき恐ろしく感じます。
第6の部屋には悲しげなため息が渦巻いていました。白い、寒々とした部屋です。死んだように水の動か
ぬ池がありました。「この池は?」「これは涙の池なのだよ」
第7の部屋では青ひげの前の妻たちが沈黙の中を彫像のように佇んでいました。生きているのか、死んで
いるのか?冠を被って女王のような装いをした女たちが三人、足音もたてずにゆっくりとユーディットの
もとに歩みよってきました。青ひげはユーディットにも冠を渡し、女王の装いをするよう促します。
「第1の女とは曙の時に、第2の女とは白昼に、第3の女とは宵の頃に、そうしてユーディット、お前と
出会ったのは真夜中であった…」
歌劇のラストは非常に謎に満ちています。伝説や童話の中では殺されていた女たちはバルトークの歌劇の
中ではあたかも永遠に生きているかのよう。それとも、象徴的に殺される、つまり青ひげの心の闇に一種
のメモワールとして葬られてしまったのでしょうか?扉の向こうは誰も知ってはならぬ青ひげの心の奥の
秘密だったのでしょうか?そうして、青ひげは一人悲しみの底に沈んでしまいます。厚い壁に閉ざされ、
太陽の光の決して届かない、陰鬱な沈黙の城の闇の中で。
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