第一作『ミツバチのささやき』から10年後に発表されたビクトル・エリセ監督の長編第2作。簡素なまでに装飾の抑えられた室内に射しこむ曙の薄明かりや、ほとんど閉ざされた鎧戸の透き間から忍び寄る一条の白色光、夜になれば電灯の黄色い光。ここでは光と影が大胆な対照をなすバロック絵画の構図の中に静かに浮かび上がる、ゆっくりと悲劇に向かう人間模様が描かれている。鎧戸が完全に閉ざされれば、明かりが消されれば、すべては沈黙の闇に沈んでゆく… 冬にはあらゆる風景が氷の衣を着せられる北(バスク地方)の村の、屋根の風見鶏ゆえに「かもめの家」と呼ばれている人里はなれた一軒家に父母と暮らすエストレリャの心に灯った火、それは椰子の木蔭、暖かな微風、花咲き乱れる庭園、イスラム風の建築物や色鮮やかなドレスの衣擦れの音、女たちの南部訛りのお喋りの渦巻く南(セビリア)への密かな憧れであり、また、あまりにも深く愛し、無意識のうちに尊敬していた父親の過去の秘密へと遡る旅にほかならなかった。そうして、その父が少女の心にやるせない後悔の念を焼き付けたまま想い出の人となってしまった今、南との対面は現実となる。カトリック信者の子供たちが人生で味わう初の晴れの舞台である最初の聖体拝受。南に暮らす祖母がかつての父の乳母を連れて、わざわざ孫の儀式に立ち会うために寒々とした北国にやってきた。純白の花の冠を戴き、痛いほどに白いベールとドレスに身を包み、花嫁のような姿になった少女。何よりも嬉しかったのは教会嫌いの父が、この日は特別に来てくれて、隠れるように儀式を見守っていてくれたこと。それから、その後のパーティーで、アコーディオンに合わせて父と腕を組んで踊ったことであった。 ほどなく少女は父の部屋の机の引き出しの奥に、美しい女性の似顔絵と父の筆跡でイレーネ・リオスという名の綴られた封筒を見つけた。その女性は父の昔の恋人であり女優であった。エストレリャは父が彼女の映画を上映している映画館から出てくるところを目撃し、後をつけた。父はカフェに入って手紙を書いている。娘はこの時、父と会うが、イレーネ・リオスにまつわるすべては母には一切話していない。 その後、父はイレーネ・リオスから、もう二度と手紙はくれぬようにとの返事をもらう。酔ってふらふらと町をさまよい、ある時は家出を試みる父。エストレリャは深刻な夫婦喧嘩の声に目を覚ますこともあった。次第に彼女は父母に反抗的になってゆく。 ある時、「仲直り」をするためにと父親に昼食に誘われた。エストレリャはどこか父と距離を置いている。イレーネ・リオスのことを追求する一方で、父が寂しそうで、ずっと自分と一緒にいたいような様子をしていたのにもかかわらず、彼女は授業があるからと早々にレストランを出てしまう。それが、彼女が父と会った最後であった。 早朝、枕元に、かつて父の不思議な霊的能力を表すための道具であった「振り子」がそっと置かれていた。形見に違いない。エストレリャはすべてを悟った。 1883年スペイン、フランス合作映画/95分 監督・脚色:ビクトル・エリセ 原作:アデライダ・ガルシア=モラレス 音楽:グラナドス、モーリス・ラヴェル、シューベルト他 キャスト:オメロ・アントヌッティ(父アグスティン)、ソンソレス・アラングーレン(8歳頃のエストレリャ)、イシアル・ボリャン(15歳のエストレリャ)他 |

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