奇想の庭(復活そして昇天)

19世紀末から20世紀前半のロシア文化を駆け巡り、拾い集め、組み立てて、発見する・・・・・・

スペイン/ポルトガル映画の部屋

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第一作『ミツバチのささやき』から10年後に発表されたビクトル・エリセ監督の長編第2作。簡素なまでに装飾の抑えられた室内に射しこむ曙の薄明かりや、ほとんど閉ざされた鎧戸の透き間から忍び寄る一条の白色光、夜になれば電灯の黄色い光。ここでは光と影が大胆な対照をなすバロック絵画の構図の中に静かに浮かび上がる、ゆっくりと悲劇に向かう人間模様が描かれている。鎧戸が完全に閉ざされれば、明かりが消されれば、すべては沈黙の闇に沈んでゆく…
冬にはあらゆる風景が氷の衣を着せられる北(バスク地方)の村の、屋根の風見鶏ゆえに「かもめの家」と呼ばれている人里はなれた一軒家に父母と暮らすエストレリャの心に灯った火、それは椰子の木蔭、暖かな微風、花咲き乱れる庭園、イスラム風の建築物や色鮮やかなドレスの衣擦れの音、女たちの南部訛りのお喋りの渦巻く南(セビリア)への密かな憧れであり、また、あまりにも深く愛し、無意識のうちに尊敬していた父親の過去の秘密へと遡る旅にほかならなかった。そうして、その父が少女の心にやるせない後悔の念を焼き付けたまま想い出の人となってしまった今、南との対面は現実となる。
カトリック信者の子供たちが人生で味わう初の晴れの舞台である最初の聖体拝受。南に暮らす祖母がかつての父の乳母を連れて、わざわざ孫の儀式に立ち会うために寒々とした北国にやってきた。純白の花の冠を戴き、痛いほどに白いベールとドレスに身を包み、花嫁のような姿になった少女。何よりも嬉しかったのは教会嫌いの父が、この日は特別に来てくれて、隠れるように儀式を見守っていてくれたこと。それから、その後のパーティーで、アコーディオンに合わせて父と腕を組んで踊ったことであった。
ほどなく少女は父の部屋の机の引き出しの奥に、美しい女性の似顔絵と父の筆跡でイレーネ・リオスという名の綴られた封筒を見つけた。その女性は父の昔の恋人であり女優であった。エストレリャは父が彼女の映画を上映している映画館から出てくるところを目撃し、後をつけた。父はカフェに入って手紙を書いている。娘はこの時、父と会うが、イレーネ・リオスにまつわるすべては母には一切話していない。
その後、父はイレーネ・リオスから、もう二度と手紙はくれぬようにとの返事をもらう。酔ってふらふらと町をさまよい、ある時は家出を試みる父。エストレリャは深刻な夫婦喧嘩の声に目を覚ますこともあった。次第に彼女は父母に反抗的になってゆく。
ある時、「仲直り」をするためにと父親に昼食に誘われた。エストレリャはどこか父と距離を置いている。イレーネ・リオスのことを追求する一方で、父が寂しそうで、ずっと自分と一緒にいたいような様子をしていたのにもかかわらず、彼女は授業があるからと早々にレストランを出てしまう。それが、彼女が父と会った最後であった。

早朝、枕元に、かつて父の不思議な霊的能力を表すための道具であった「振り子」がそっと置かれていた。形見に違いない。エストレリャはすべてを悟った。

1883年スペイン、フランス合作映画/95分
監督・脚色:ビクトル・エリセ
原作:アデライダ・ガルシア=モラレス
音楽:グラナドス、モーリス・ラヴェル、シューベルト他

キャスト:オメロ・アントヌッティ(父アグスティン)、ソンソレス・アラングーレン(8歳頃のエストレリャ)、イシアル・ボリャン(15歳のエストレリャ)他

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蜂の巣を模った黄色いステンドグラスの窓から射しこむ蜜蜂色の光の中で子供たちがささやき、飛び跳ね、駆け回る。幻想と現実がまだ渾然としている世界に住む幼い妹と、すでに作り話で妹の心を弄ぶことを知っている姉による罪のない危険な物語。フェルメールやスペイン絵画の光と構図に溢れた繊細寡黙な映像美。

1940年頃。スペイン中部のカスティーリア台地の小さな村に巡回映画興行のトラックがやってくる。村の公民館で上映される映画は「フランケンシュタイン」であった。眼を輝かせ夢中になって映画に見入る子供たちの中にイザベルとアナの姉妹もいた。
フランケンシュタインが少女を殺したシーンを見て、アナはイザベルに尋ねた。「どうして殺したの?」「あとで」と姉。
だだっ広い部屋にベッドを並べて眠る姉妹。アナはどうしても知りたかった。「なぜ怪物はあの子を殺したの?なぜ、怪物も殺されたの?」うとうとしていた姉の脳裏をふと悪戯心が宿った。「怪物もあの子も殺されてないの。映画の中の出来事は全部ウソだから。私、あの怪物が生きてるのを見たもの。村はずれに隠れて住んでるの。他の人には見えないの。夜に出歩くから」真剣に聞き入るアナ。「お化けなの?」「精霊なのよ。お友だちになればいつでもお話できるのよ。目を閉じて彼を呼ぶの。『私はアナよ』って」
その夜から、アナにとって、フランケンシュタインは精霊となった。語りかければ、友だちになれるとアナは信じて疑わなかった。夜中にベッドを抜け出して、月明かりのもとで「私はアナよ」と天を仰いだ。
アナとイザベルは学校帰りに村はずれの、井戸のある朽ちた小屋を訪れた。アナはその小屋こそ精霊に会える場所だと確信した。ある時、脱走兵が小屋に隠れた。一人で小屋を訪れたアナは、とうとう精霊に会えたと思った…。

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1973年スペイン映画/99分
監督・原案:ビクトル・エリセ
脚本:アンヘル・フェルナンデス=サントス、ビクトル・エリセ

キャスト:アナ・トレント(アナ)、イザベル・テリェリア(姉イザベル)、フェルナンド・フェルナン=ゴメス(父フェルナンド)、テレサ・ヒンペラ(母テレサ)
スペインの巨匠ルイス・ブニュエル監督が『昼顔』で起用したカトリーヌ・ドヌーブをふたたび使って1920年代のトレドを舞台に数奇な運命に翻弄される若き美しきトリスターナの「愛」と「憎」、「純真」と「狂気」などの二面性を衝撃的に描いた。

〈ストーリー〉
母親と死別したトリスターナは16歳の時、孤児院から没落貴族のドン・ロペのもとに引き取られた。母親の喪もまだ明けておらず、黒衣に身を包んだトリスターナははっとするほど美しい。

地代のみの収入に頼るドン・ロペは金には相当困っていたが、虚勢を張って、死んでも働かないと決めている。社会を怨み、無神論者であることを広言して憚らない。名誉を重んじるが、恋愛には寛容である。街で美女を見かけると、声を掛けずにはいられない。女中のサトルナも「旦那様はスカートを見ると角が出るんだから」と呆れるほどだ。もっともトリスターナに対しては細やかな愛情を注ぎ、「父として愛してくれ」とまことしやかに言うのであった。トリスターナも献身的にドン・ロペの身の回りの世話をした。

ある時トリスターナは、サトルナの息子、聾唖で怠け者の同い年の少年と鐘楼に登った。心から笑い、はしゃぎ、鐘つき男の揚げたパンを頬張る姿は純真そのものである。トレドの町を一望のもとに見下ろせる、一番高い鐘楼まで昇っていって鐘をつかせてもらったり。ところが、その夜、鐘の舌がドン・ロペの頭になってゴーン、ゴーンと鐘を打つ奇妙な夢にうなされる。

ドン・ロペは金策のために銀器を売却した。トリスターナとはよく一緒に散歩をした。町で乳母車を押している女を見かけると、「退屈な家庭がぷんぷんと匂っているだろう。決して結婚してはいけないよ」などと教えこむ。その実、養女のトリスターナに対する高ぶる気持ちを抑えることが出来なくなって、強引に唇を奪ってしまうのであった。

その夜、ドン・ロペはサトルナを早々に帰してしまうと、トリスターナを寝室に招き入れた。

それから、トリスターナはいっそう献身的にドン・ロペに尽くしているようであった。サトルナと町に出た時に、トリスターナは初めてドン・ロペに対する激しい憎悪を露にした。「毎日醜くなってゆくわ」。ふと足を踏み入れた崩れかかった僧院でトリスターナは若い画家ホラシオと出会って、絵のモデルを頼まれる。

ドン・ロペはトリスターナの変化に気がついた。「近頃外出するのは男に会うためらしいな」「私は自由よ。自分の心に従って生きろと教えられたわ」「私はお前に二重の権限を持っている。お前の父で夫だ。この二つを行使する」

この奇妙な関係は間もなくホラシオにも知られることになった。養父を紹介しろと言われ、トリスターナが父であり夫でもあるドン・ロペのことを話すと、画家は激怒した。「一緒に発とう」と彼は言った。トリスターナは眼を輝かせる。彼女にはピアノの夢があった。「母が死ななかったら、もう少しで教えられたのよ。あなたが絵を描き、私が働けたら素敵」その日は夜遅く帰宅し、翌日、ホラシオの家で荷造りをしているところへ、ドン・ロペがやってきた。ホラシオはドン・ロペを殴り倒す。

トリスターナとホラシオはトレドの町を後にした。それから二年。独り寂しく食事をしているドン・ロペに、サトルナは意外なことを告げた。「お嬢さまは戻っています」早速会いにゆくと、彼女は会いたがらず、ホラシオが彼に話があるという。トリスターナは病気であった。足に腫瘍が出来て、重症であるという。結婚もしたがらないというのである。ドン・ロペは再び彼女を引き取ることにした。少し前に金持ちの姉が死んで、遺産がたんまり入ったところだ。売った銀器を買い戻し、トリスターナのために、立派なピアノも買い与えた。だが、彼女の病状はひどく悪く、一刻も早く脚を切断しなければならなかった。

ホラシオが彼女を訪ねてきた。トリスターナはすでに片脚を失っている。一本の脚でペダルを踏みつつ、黙々とショパンのエチュード《革命》を弾き続ける。突然、その手を休めたかと思うと、「愛してないから連れてきたわね」と言って、またピアノを弾き始める。「ロペなら帰さないわ」画家は絶望的に言葉を吐く。「君は違う女になった」「これで同じでいられる?」と片脚を見せる彼女。

ホラシオは去った。ドン・ロペはかつてないほどかいがいしくトリスターナの面倒を見た。けれども、優しくされればされるほど、トリスターナは彼に冷たく接するのであった。司祭は彼女にロペとの結婚を勧めた。「彼が悪い男だった頃に従ったあなたが、彼がすべてをあなたに尽くしている今、何が望みです?」トリスターナは氷のような眼をして、凍るような声で言う。「尽くされるだけ嫌いです」

二人は結婚した。だが、式の後でもトリスターナはロペと腕を組むことすら拒むのであった。寝室も別であった。「私を一人にするのか?」とロペが弱々しく哀願すると、「その年でおかしいわよ」と彼女は嘲笑った。

雪の夜。トリスターナは、またあの恐ろしい鐘の夢を見た。その時、ロペが苦しげにトリスターナを呼んだ。ロペの寝室に行ってみると、彼は蒼白になった顔を歪め、「死ぬほど苦しい。医者を呼んでくれ」と息も絶え絶えな様子である。トリスターナは隣室の電話の受話器を取った。音を立てずに電話を切って、つながっていない受話器に向かって声を張り上げる。「もしもし、ミキス先生?主人が苦しんでいるんです。急いで下さい。待っています」

意識のないドン・ロペの名をトリスターナは数回呼んだ。それから、ぞっとするような険しい表情をして、松葉杖の音を荒々しくたてて窓辺に行くと、大きく窓を開け放つのであった。外では雪が降りしきっていた。


1970年スペイン/フランス/イタリア合作

監督・脚本:ルイス・ブニュエル

原作:ベニト・ペレス・ガルドスの『トリスターナ』

キャスト:カトリーヌ・ドヌーブ(トリスターナ)、フランコ・ネロ(ホラシオ)、フェルナンド・レイ(ドン・ロペ)ほか

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