奇想の庭(復活そして昇天)

19世紀末から20世紀前半のロシア文化を駆け巡り、拾い集め、組み立てて、発見する・・・・・・

ルキノ・ヴィスコンティ監督

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18世紀の「家族の肖像」と呼ばれる絵に囲まれながらも、孤独に生きる老教授のもとに、ある時突然降って湧いたように現れた若者たち。以来、未曾有の災難が次々と教授の身に降りかかる。

〈ストーリー〉
ローマの広壮なアパルトマンに二人の家政婦のみを置いて暮らす老教授のもとを二人の画商が訪れた。18世紀の『家族の肖像』の絵を蒐集している教授に一枚の絵を売りつけに来たのである。珍しい絵であったが、教授は断った。そこにはもう一人美しい中年婦人が教授に会いに来ていた。彼女は上階の空室を借りたいと言ってきた。教授が部屋は貸せないと言うと、見るだけでいいと、その婦人は言った。彼女の名はビアンカ・ブルモンティ。それから彼女の娘リエッタとその男友達のステーファノ、コンラッドという名の青年がどやどやと入ってきた。そうして、上の部屋をてんでに見て帰っていった。

その後教授は『家族の肖像』を購入することに決め画廊に電話すると、すでに売れてしまったという。ところが、リエッタがその絵を持って教授のもとを訪れた。一年だけ上の部屋を借りたいと言い、三ヶ月分の賃貸料の前払いとして教授に絵を差し出すのであった。まんまと契約させられてしまった教授であるが、ある日、家政婦のエルミニアがアイロンがけをしていると、天井が崩れてきて、家中が粉だらけになった。激怒した教授が上に行ってみると、上階のあらゆる壁が壊され、瓦礫となった中からピストルを突きつけてくる男があった。コンラッドである。いつの間にか彼が上階に住むことになっていたのであった。リエッタとステーファノも同居することになっている。また、教授は浴室の改修だけを許可したはずなのに、この男はフロア全体を大改造しようとしているのである。しかも、教授がそのことを言うと、相手は話が違うと喰ってかかり、ブルモンティ夫人に電話をさせてくれと言い出した。夫人と電話で大喧嘩をし、パリやロンドンの友人に次々と用もないのに電話をかけまくるコンラッド。教授が被害の状況を彼に見せると、彼は「夫人に賠償金をふっかけろよ、何倍も」と悪びれた様子もない。だが、驚いたことに彼は教授が買ったばかりのモーツァルトの演奏会用アリア《あなたに説明できたら》のレコードに目を留め、しばし音楽を語り、また、壁にかかっていたアーサー・デーヴィスの絵と同じテーマの肖像と風景の絵を友人が持っているから、写真を見せるなどと言って、繊細で教養ある一面をのぞかせる。教授は内心嬉しかった。コンラッドも「あなたと話せてよかった」と言い、人との交流を一切絶っていた教授の頑なな心も融け始めたかのようであった。

一方、呼び出された夫人のほうはすごい剣幕であった。「この部屋を誰に使わせるかは私の自由よ」コンラッドのことは「お金で囲っている愛人よ」とにべもなく言う。とうていまともに話が出来る相手でないことを教授は悟り、娘のリエッタと話し合おうとするが、彼女は優しく理解を示そうとするものの、あまりに話しがかみ合わない。「言語が違うようだ」と、とうとう教授は笑い出してしまった。コンラッドは行方をくらまし、ほどなく、約束の写真を持って教授のもとに帰ってきた。彼は美術史を学んだが、学生運動に深入りして追われる身になったというのである。教授は写真の絵にとても興味を持った。

ある夜、教授がベッドで本を読んでいると、壁の向こうから乱闘をしているような騒ぎが聞こえてきた。廊下に出て見ると、上階に続く階段のところに、コンラッドが血まみれになって倒れていた。教授は彼を背負って、書斎の奥にある隠し部屋のベッドに運び込んだ。そこは教授の母が戦時中に政治犯、パルチザンやユダヤ人や匿うために作ったという小部屋である。教授はコンラッドの傷の手当をし、エルミニアにも内緒で彼に食事や飲み物を運んでやった。別の夜には、上階から漏れてくるカンツォーネによって教授の静かな読書は乱された。様子を見にゆくと、コンラッドとリエッタとステーファノの三人がカンツォーネに合わせて全裸で踊りつつ、抱き合ったり、キスをしているのだった。リエッタはコンラッドともステーファノとも愛し合っている様子。コンラッドはブルモンティ夫人と別れることを決意し、ここを出てゆくことになっている。煙がもうもうと燻り、三人はマリファナの回し飲みさえしていた。リエッタが教授に言う。「あなただって、若い頃は楽しんだでしょ?」「学問をして、旅をして、戦争に行き結婚した。やがて破局。ふと気がついてまわりを見回したら、人との距離を感じた」と教授。リエッタは教授にキスしようとする。「コンラッドかステーファノのどちらかが私を妊娠させたら子供を産んで先生にあげる」教授は苦笑する。「老い先が短いから年かさの子がいい。私の知識を伝えたい」「じゃあ、コンラッドを養子にしたら?」その一方で、「コンラッドが殴られたのは、博打の借金で首が回らなくなったからよ」と言うリエッタ。

すっかりモダンに改装された上階にブルモンティ夫人とリエッタとステーファノがくつろいでいる。夫人はエルミニアを自分の召使のようにこき使っている。教授は三人に、コンラッドが国境で警察に止められたことを伝えた。麻薬の売買の嫌疑がかかっていて、警察は彼の前科を調べているとも言った。すると、リエッタが彼はベルリンの過激派で活動家であることも知っていると付け加えた。夫人も彼の後ろ暗い秘密を知っている様子だ。教授は驚いた。そんなクズと娘たちを平気で同居させていた夫人に呆れたのであった。

ある晩、教授が亡き母の面影にひたっていると、またも上階からカンツォーネが聞こえてきた。激高して、エルミニアに「音楽を止めさせろ」と怒鳴る教授。その時電話が鳴った。上階からで、リエッタの声だ。その電話で、音量を下げるようにと教授が頼むと、相手はすぐに承知したが、また電話をかけてきた。そうして、下まで駆け降りてくる。コンラッドが戻りパーティを開いているので、教授にも来てほしいというのである。教授は断ったものの、代わりに若者たちを晩餐に招待すると約束した。

和やかな打ち解けた雰囲気の晩餐。工場経営者の息子ステーファノは皮肉屋でもあった。教授の絵画のコレクションを眺め、彼は訪ねた。「父の工場ではストが続いて、父と兄が険悪で、父は押し黙って食卓についている。先生のように。でも、先生には工員もマルクス主義を気取る息子もいない。絵の人物だけ。静かな人間に取り囲まれている。問題も起こさない。彼らが好き?」「好きになったり嫌いになったり…」教授がひとしきり絵の家族との関わりを語ると、リエッタが「この家族は?」と聞いてきた。「君たちのこと?もう十分に喧嘩してきた」と教授は答え、「老人とは奇妙な動物だ。愚かで狭量で突然孤独が怖くなり、自分を守ろうとする。そんな衝動にかられて今夜君たちを招いた」と打ち明ける。リエッタはそれを変化の時であると言い、一緒に食卓を囲み、家族を作りましょうと教授に提案した。そうして、ママも一緒にね、と言ったちょうどその時ブルモンティ夫人が入ってきた。彼女は夫が突然マドリードに発つことになって、空港まで送ったところであるという。それから、皆で書斎に移ってコーヒーを飲むことになった。ところが、家族のように打ち解けた会話は次第に険悪な方向へと向かっていった。夫人とコンラッドの関係も決裂し、コンラッドが「あんたの夫が逃げたのは共産党員や閣僚の暗殺に失敗したからだ」と夫人に言うと、ステーファノがコンラッドが密告者であることを暴露する。二人は殴り合い、教授は仲裁に入った。「君たちは仲のよい友達ではなかったのか?」生まれながらのブルジョアジーであるステーファノたちと、底辺から這い上がり、金持ちの奥方のベッドに入り込んで初めて屋敷に上がりこんだというコンラッドは所詮思想がかみ合わない。「そうだ。いつも一緒だった。食い、語り、笑い、セックスする。お楽しみが終わればそれぞれの道を行く」とコンラッド。「そう、それぞれにふさわしい道を」と夫人が意味ありげな眼差しをコンラッドに向けた。「わかった。僕は出て行く」コンラッドは「家族」のもとを、夫人のもとを去った。夫人は「彼にいい服を着せて旅をしたわ。間違いでもいい。尽くしたかった。愛していた」とその時初めて神妙な顔をした。リエッタはステーファノを非難して泣き出した。「あなた、彼を傷つけたのよ。まるで使用人のようにあっさりとクビにしてひどすぎるわ」そうして、彼を見殺しにした教授をも非難した。すると、ステーファノが、「罪悪感に悩むことはない。これから彼を追いかけて許しを請えばいい」と言うのであった。

その後、教授のもとにコンラッドから手紙が届いた。「残念ですが、もう会うことはないでしょう。息子コンラッドより」ほどなく、上階から爆音が轟き、教授が慌てて行ってみると、ガス爆発が起こった後で、塵や煙がもうもうと舞う中、コンラッドが床に倒れて死んでいた。ショックのあまり教授は寝たきりになってしまった。コンラッドを救うことの出来なかったことへの自責の念からか、教授は一瞬嗚咽する。階上からは死期を知らせる足音が聞こえてくるようであった。


1974年イタリア/フランス合作映画/2時間1分

監督:ルキノ・ヴィスコンティ
原案:エンリコ・メディオーリ
脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ、ルキノ・ヴィスコンティ、エンリコ・メディオーリ
音楽:フランコ・マンニーノ
美術:マリオ・ガルブリア

キャスト:バート・ランカスター(教授)、シルヴァーナ・マンガーノ(ビアンカ・ブルモンティ)、ヘルムート・バーガー(コンラッド)、クラウディア・マルサーニ(リエッタ)、ステーファノ・パトリーツィ(ステーファノ)、エルヴィラ・コルテーゼ(エルミニア)、ドミニク・サンダ(教授の母親)ほか

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1860年のシチリア島を舞台に、「山猫」の紋章に象徴される一人の誇り高き名門貴族サリーナ公爵の栄華と衰退の物語を通して、新旧の世代の交代、腐敗した貴族支配から新たに台頭してきた中産階級の支配への交替、ブルボン王朝支配下のイタリアから新たな統一国家、イタリア王国への歴史的転換が描かれる。滅び行く旧時代を体現するサリーナ公爵(バート・ランカスター)と、見事に新時代に適応してゆく若く魅力溢れる人物タンクレディ(アラン・ドロン)が鮮やかな好対照をなす。

〈ストーリー〉
サリーナ公爵の広大な屋敷内の礼拝堂では、家付きの聖職者ピローネ神父がミサを執り行なっている。そこへ、ガリバルディの赤シャツ隊のシチリア島上陸の報が入る。イタリア統一を目指し、腐敗した貴族からの解放を謳うガリバルディの登場に土地の貴族は怯え、公爵の家族もすっかりうろたえた。公爵夫人のステラは取り乱して泣き出す始末。公爵のもとには、一緒にイギリスへ亡命しようという手紙まで届いた。けれども、彼はそれを一笑し、夜には豪快に売春宿に繰り出すのであった。馬車で途中まで同行したピローネ神父からは、公爵の甥のタンクレディがいかがわしい連中と付き合っているとの進言を受ける。けれども、自分の息子たち以上にこの甥を可愛がっていた公爵は取り合わない。

翌朝、タンクレディが公爵のもとを訪れた。彼は颯爽たる美青年で、目から鼻に抜けるような外交家で野心家であった。公爵の娘コンチェッタと彼は相思相愛の仲のようだ。彼はガリバルディの義勇軍に参加することを報告しに来たのである。公爵も最初のうちは「我ら一族は王に恩義がある」とブルボン王朝への忠誠を示していたが、「共和制を阻止しようと思うなら、現状維持を願うのなら変化が必要です」というタンクレディの言葉に敢えて反対することもなく、金貨を渡して彼を戦場に見送った。

パレルモの戦いでタンクレディは片眼に負傷し、戦線を離れる。一方、サリーナ公爵一家は例年通りドンナフガータ村の別荘を避暑のために訪れた。途中で、タンクレディが合流する。馬車を何台も連ねての「殿様」の一行の到着に、村はお祭騒ぎで、楽隊の吹奏が一家を賑やかに出迎える。

晩餐会を控えて公爵が入浴しているところへ、ピローネ神父がやってきて、コンチェッタとタンクレディを一刻でも早く結婚させるべきだと迫る。ところが公爵は「彼女に大国駐在大使の夫人が務まると思うか? 内気なコンチェッタが厳しい出世の道を歩む夫を助けていけるかな? 持参金も十分に出せない。タンクレディにはもっと必要なのに」と、少しも乗り気でない様子。

晩餐会には村長であり、公爵をしのぐほどの大地主となったドン・カロージェロも招かれた。彼は夫人の代わりに娘のアンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)を連れてきていた。その娘が現れるや、あまりの美しさに一同は息を呑んだ。タンクレディもひと目で彼女に魅せられたようであった。晩餐の席はタンクレディの左隣にコンチェッタ、右隣にアンジェリカという皮肉な組み合わせ。いつしか、タンクレディはアンジェリカとばかり話し、いささか淫らな話題にも及んだ。すると、突然、アンジェリカが場違いな大声で笑い出した。皆があっけにとられる中、彼女はのけぞって、いつまでも下品に笑い続ける。そう、彼女は公爵たちとは明らかに異なる階級に属していた。彼女の父ドン・カロージェロは利殖にたけた抜け目のない金持ちで、実力者である。だが、それだけなのだ。そうして、彼女の母親は後ろ暗い過去の秘密に包まれている。

村で投票が行われ、その夜、結果が発表された。
「シチリア島民は統一イタリア国の国王としてV・エマヌエレ王を戴くことを選択しました」

アンジェリカを愛したタンクレディが、公爵に彼女との結婚のとりなしを頼んできた。公爵の夫人ステラは泣いて反対した。公爵家を信奉するオルガン奏者ドン・チッチョも猛反対であった。「由緒ある家系もこれで終わりですね」公爵は彼につかみかかる。「終わりではない。始まりなのだ」

公爵はアンジェリカの父ドン・カロージェロを呼んで、タンクレディからの正式な結婚の申し込みを伝えた。感極まるカロージェロに公爵は、「この地に渡って以来、アラゴン、スペイン、ブルボンなど各王朝のもとで栄えてきた直系貴族で、スペイン大公でもあった」自らの家系について語り、また、甥のタンクレディの家名に伴わない経済状態について率直に語った。ドン・カロージェロは広大な土地をタンクレディに与え、莫大な持参金を用意することも約束した。要するに、この結婚は、いかに当人たちが愛し合っているとはいえ、金と家名の結婚でもあった。それでも、土地を獲得するために、時には非合法な手段も用いたであろう相手への嫌悪感を公爵は隠すことができなかった。

戦場からタンクレディが帰ってきた。かつてはガリバルディの赤シャツ隊の制服に身を包んでいた彼は、革命軍とはきっぱりと縁を切り、今度はイタリア王国正規軍の黒い軍服姿であった。彼は将校になっていた。同僚の将校が一緒に来ていた。ほどなくアンジェリカがやってきた。タンクレディは皆の見ている前で彼女に指輪を渡すのだった。

新政府の使者であるシュヴァレという人物がサリーナ公爵のもとを訪れた。シュヴァレは公爵が上院議員の要職を引き受けてくれるよう願っていた。しかし、どれほど熱心に頼まれようと、公爵は頑として首を縦に振らなかった。「私は旧体制と結ばれたかつての支配階級の者です。上院に入り、国王政治の最高機関で人を導くことなど不可能です。2500年もの間植民地だったシチリアは老いている。我らは力を失った。燃え尽きた」というのである。「シチリアは未来ある新しい国家の一部です」と、シュヴァレは、古い因襲の島も新しい世界に対処し目覚めてゆく必要があると説くが、無駄であった。公爵は老いと諦観の観念に取り付かれていたのであった。「我らは長い眠りを求めていて、揺り起こす者を憎む。新しい王の贈り物も信じていない」使者を帰すと、公爵は悲しげに独りごちた。「我々は山猫だった。獅子だった。山犬や羊どもが取って代わる。そして山猫も獅子も、また山犬や羊すらも、自らを地の塩と信じ続ける」

ポンテレオーネ公爵邸で大舞踏会が催された。サリーナ公爵夫妻に、コンチェッタ、タンクレディ、大勢の国王正規軍の将校たち、大佐、華やかな衣裳に身を包んだ貴婦人たちや貴族の娘たち、貴族社会にデビューするアンジェリカの純白のドレスに包まれた姿があった。夜を徹しての、壮麗なめくるめく舞踏と饗宴。タンクレディとアンジェリカも腕を組み、くるくると軽やかに舞う人の群れに加わった。ただ一人サリーナ公爵だけが孤独であった。ひどく疲れ、身体の不調を覚える。はしゃぎまくる貴族の娘たちが猿のように見える。貴族社会の近親結婚の産物である彼女たちの没個性ぶりに「掃き溜めだな」と彼は呟いた。それから、舞踏やお喋りに興ずる人々でごった返した幾つもの部屋を抜け、薄暗い無人の書斎にたどり着いた。その部屋の壁の一つに「義人の死」という大きな絵が飾ってあり、公爵は吸い寄せられるようにその絵に見入った。彼は自らの死期を予感していた。そこへ、タンクレディとアンジェリカがやってきた。二人は公爵を探していたのであった。「時々、死のことを考える。我が家の墓の整理をしよう」と公爵は二人に言った。輝かしい未来に向かう若々しい二人には無縁な心情である。アンジェリカは公爵が二人の結婚を後押ししてくれたことへの深い感謝の気持ちを述べた。そうして、踊りの名手として評判のある公爵に「私とマズルカを踊って頂きたいの」と願い出た。最初は断っていた公爵も踊らざるを得なかった。「マズルカは動きが激しいからワルツで」

確かに公爵は類い稀な名手だった。人々は波が引くように二人のために場所を開け、その大胆で華麗なステップや身のこなしに呆然として見惚れている。そうして、タンクレディでさえ嫉妬を覚えるほど二人の息はぴったりなのであった。

豪華な食事も供された。皆、楽しげに会話を弾ませながら、絶妙な料理の数々に舌鼓を打っている。公爵は食欲がない。化粧室にひきこもり、鏡に映る自らの、老いた、病の影の忍び寄る孤独な顔を見つめて、涙をこぼす。舞踏会はいっそう華やかにラプソディックに盛り上がっている。食べる人も踊る人も入り混じっている。手をつないで大きな輪になって屋敷中を踊りながら練り歩く人々。

舞踏会がお開きになった頃、タンクレディはようやく公爵を探し出し、次の選挙に立候補するという吉報を伝えた。公爵の沈んだ様子に、タンクレディは彼が気分でも悪いのかと心配する。しかも、公爵はこんな時間に徒歩で帰宅するというのである。

公爵は薄汚れた吹き溜まりの貧しい地区を歩いている。ふと、その一角で立ち止まると、薄明の空を仰いだ。悲痛な面持ちをして、天に向かって語りかけた。
「おお、星よ。変わらざる星よ。はかなきうつし世を遠くはなれ、なんじの永遠の時間に我を迎えるのはいつの日か?」


1963年イタリア/フランス合作映画/186分

監督:ルキノ・ヴィスコンティ

原作:ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペデューサ(1896-1957)

音楽:ニーノ・ロータ、ジュゼッペ・ヴェルディ《華麗なるワルツ》

キャスト:バート・ランカスター(サリーナ公爵)、アラン・ドロン(タンクレディ)、クラウディア・カルディナーレ(アンジェリカ)、パオロ・ストッパ(ドン・カロージェロ)、リーナ・モレッリ(公爵夫人 マリア・ステッラ)、ロモーロ・ヴァッリ(ピローネ神父)、ピエール・クレマンティ(公爵の長男)、ルチッラ・モルラッキ(コンチェッタ)ほか

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『地獄に堕ちた勇者ども』『ベニスに死す』と共にヴィスコンティの「ドイツ三部作」と呼ばれる作品群の最後を飾る四時間の大作である。

〈ストーリー〉
1864年、18歳のルートヴィヒはバイエルン国王として即位した。戴冠式の盛儀が執り行なわれたが、ルートヴィヒの関心は国事にはない。「ワーグナーのほうが王族などより重要なのだ」と断言し、債権者たちから逃れるために行方をくらましているワーグナーの捜索を命じる。

ルートヴィヒには唯一心を許し、一途に思いを寄せている女性がいた。8歳年上の従妹、オーストリアのエリーザベト皇后である。二人はバート・イシュルで5年ぶりに再会した。
エリーザベトは晩餐をすっぽかして曲馬場で白馬に乗って曲芸を楽しんでいた。「曲馬師になろうかしら」などと冗談を言う。牢獄のような宮殿や戦争をする夫(フランツ=ヨーゼフ)も嫌で世界中を旅して回っている、気紛れで、いささか変わり者の皇后である。芸術に耽溺し孤独を愛するルートヴィヒと内面的にも大いに通じるところがあった。二人は意気投合し、満月の夜の遠乗りを楽しんだ。ルートヴィヒはエリーザベトがワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》の上演に来ることを切に望んでいた。けれども、彼女は来なかった。エリーザベトはルートヴィヒよりはるかに現実的であったのだ。1865年6月に上演された《トリスタンとイゾルデ》の大成功を嬉々として語るルートヴィヒにエリーザベトは批判の眼差しを向けた。
「上演にいくらかかったの?ワーグナーや指揮者やその家族にいくら払ったの?成功は忘れられ、もっと厳しい批判を招くだけよ」と彼女は言った。実際、上演の経費はすべて国庫でまかなわれていたのであった。ワーグナーのパトロンたるルートヴィヒのこうした過度な援助は国家に深刻な財政難を引き起こすことにもなる。ワーグナーは後に劇場建設の計画を王に打ち明け、その資金援助をも期待する。愛人のコージマ・フォン・ビューロー(リストの娘。後のワーグナー夫人)も「先生はお金をお望みです。負債の清算と将来の安定が得られなければ」と巧みに王の同情を惹くのであった。

一方、エリーザベトは、ルートヴィヒの自分への愛は幻想に過ぎないのだから、夢を捨てて現実に立ち向かいなさいと彼を諭す。そうして、彼が国王に相応しい体面を保つためにも、自分の妹との結婚を強く勧めるのだった。「結婚なさい。ゾフィーと」

1866年プロシャとオーストリアの間に普墺戦争が始まり、バイエルンはオーストリアの同盟軍として参戦するが、ルートヴィヒは戦場にも行かず、ベルク城に閉じこもってしまった。弟王のオットーが代わりに出陣し、前線から一時帰還して、戦場の悲惨な状況を報告する。しかし、ルートヴィヒにとって戦争は存在しないのだった。バイエルン・オーストリア同盟軍はプロシャに敗北する。

ルートヴィヒはゾフィー公女との結婚を決意する。だが、結婚を控えた王は城の建設に着手する。同性愛に目覚め、結局、公女との婚約を解消してしまう。国務にも全く関心を示さず、世の中の出来事に背を向け、城の造営の事ばかり考えていた。

1870年、普仏戦争でプロシャが勝利を収める。バイエルンもプロシャ王を統一大ドイツの皇帝と認めざるを得なかった。その頃、弟のオットー親王が発狂してしまう。ルートヴィヒは従僕たちだけに囲まれて過ごすようになった。彼らと馬鹿騒ぎをし、容姿がいい給仕や俳優に大金を貢いだ。とりわけシェークスピア俳優のカインツを寵愛し、リンダーホーフ城に招待した。贅を尽くした白鳥の洞窟に彼を来させ、王は貝の形の小舟に乗って現れる。二人きりで数日を過ごし、ロミオの台詞を一晩中喋らせるが、俳優は疲れきって眠ってしまう。ルートヴィヒは彼に失望した。かつて自分の信頼を裏切ったワーグナーに感じたように。

エリーザベトは王が造営した城を次々と見て回った。豪奢の極み。驚き呆れるエリーザベト。だが、王は決してエリーザベトと会おうとしなかった。かつての美貌の王は中年になって肥満し、歯はボロボロ、退廃した生活によりすっかり醜くなっていたのであった。エリーザベトが帰ってしまうと、泣きながらその名を呼び続ける、無力で孤独な男がいた。

閣僚たちは、王の濫費と奇行をこれ以上看過することが出来なくなった。精神科医のグッデン教授は王を「パラノイア」と診断する。王の廃位が決定され、王はベルク城に監禁された。雨の夜、王はグッデン教授と散歩に出たまま戻らず、二人とも湖で溺死体で発見された。王の寵臣であって、王を廃位させた中心人物であったホルンシュタイン伯爵は王が教授を殺害した後、自害したと主張した。

1972年イタリア/フランス/西ドイツ合作

監督:ルキノ・ヴィスコンティ

原案・脚本:エンリコ・メディオーリ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ、ルキーノ・ヴィスコンティ

音楽:ロベルト・シューマン《子供の情景》、リヒャルト・ワーグナー《ローエングリーン》《タンホイザー》《トリスタンとイゾルデ》、ジャック・オッフェンバック《ペリコール》

キャスト:ヘルムート・バーガー(ルートヴィヒ2世)、ロミー・シュナイダー(エリーザベト皇后)、トレヴァー・ハワード(リヒャルト・ワーグナー)、シルヴァーナ・マンガーノ(コージマ・フォン・ビューロー)、ジョン・モルダー・ブラウン(オットー親王)ほか

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この映画の原作はカミッロ・ボーイトの短編集『官能、新ばかげた小話』(1883年刊)の一編「官能」である。

〈ストーリー〉
イタリアはスペイン支配やナポレオン支配の後、オーストリアに制圧され、いまだ統一国家を実現しておらず、外国支配からの解放と統一の気運が高まっていた。その解放の戦いが切迫した1866年春。

ヴェネツィアのフェニーチェ劇場でのヴェルディのオペラ《トロヴァトーレ》第3幕の上演から『夏の嵐』の幕は開く。この言わば劇中劇はフィナーレに向かって、次第に感情が高まってゆき、「武器を取れ! 武器を取れ! さあ、ともに戦おう。さもなくばともに死のう」の合唱と共に極限に達する。その間にも天井桟敷の観客たちにイタリアの三色旗を象徴する緑と白と赤のビラや、三色の花束が密かに配られてゆく。第3幕が降りるや、「外国人は出ていけ!イタリア万歳!」の叫びが上がり、天井桟敷から平土間席に群がっているオーストリア将校の一人の肩めがけていきなり花束が投げつけられる。それから、三色のビラが一斉に天井から降ってきて、しばし劇場のあらゆる空間を紙吹雪が舞うのであった。

そんな折、イタリア解放の地下運動の指導者ロベルト・ウッソーニ侯爵は若いオーストリア士官マーラー中尉の軽率な嘲弄に激怒し、決闘沙汰を引き起こす。熱烈な愛国者であり誇り高き伯爵夫人リヴィアは、居間のように広々とした桟敷席で一部始終を目撃し、尊敬すべきウッソーニ侯爵の身を守るためにも決闘を止めさせようと決意する。彼女は桟敷席に事もあろうにマーラー中尉を呼んだ。相手は女たらしで、誠意も良心もなく、悪い噂には事欠かない人間である。

だが、マーラー中尉は美男で魅力的であった。その唇からは詩のように美しい言葉が溢れ出て(台詞の部分は『欲望という名の電車』などで知られる劇作家のテネシー・ウィリアムズが協力している)、本当の恋を知らずに愛のない結婚をした女の心を愛撫する。氷山のように凛としていた伯爵夫人がどろどろに溶けてしまうのにさほど時間はかからなかった。運河に面した瀟洒な隠れ家で二人は逢瀬を重ねた(ブルックナーの交響曲第7番の甘美で官能的な調べがロマンチックな気分をより高める)。そうして、もとより誠意などかけらも持ち合わせていないマーラー中尉が他の女たちと遊び歩いて自分をなおざりにしていると、リヴィアは自尊心も羞恥心もすっかり忘れ、男ばかりの将校宿舎を娼婦さながらに一人で訪ねる始末であった。中尉が軍務を逃れるために、医者を買収する金が必要だと言うと、彼女は苦悩の末、2000フロリンの大金を彼に渡してしまうのだった。それは、彼女がウッソーニ侯爵から託された、イタリア解放のための義捐金に他ならなかった。

戦争が始まって、激しい戦闘の後、イタリアはオーストリアに勝利した。

マーラーとの再会に胸をときめかせて、リヴィアが彼の住居を訪ねると、そこには若い娼婦がいた。マーラーは退廃しきって酒浸りで、リヴィアが大金を渡したことを逆恨みさえして、あらゆる屈辱的な言葉を投げつけてくるのだった。


1954年イタリア映画

キャスト:アリダ・ヴァッリ、ファーリー・グレンジャー、マッシモ・ジロッティほか

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原作はイタリアの詩人、作家、劇作家であるガブリエーレ・ダヌンツィオ(1863-1938)の「罪なき者」である。また、この作品はヴィスコンティ監督の遺作である。

19世紀末のイタリアの退廃した貴族社会を舞台に、自由恋愛に生きる稀代のエゴイストであるトゥリオ・エルミルとその妻ジュリアーナの愛憎関係を軸に、トゥリオの愛人である蠱惑的官能的な美人テレーザ・ラッフォ伯爵夫人、ジュリアーナが密かに愛して、その人の子を身籠ることになった作家フィリッポ・ダルボリオなどの間の息詰まるような感情の嵐が、洗練と贅沢の極みであるような音楽サロンや貴族の館や絵のような別荘の中で繰り広げられる。室内装飾も衣裳も音楽も世にも甘美で心地よいというのに、このドラマの主人公たちは残酷で容赦のない嫉妬の感情に苛まれ、心を偽り、のた打ち回っているのである。その複雑に交錯する感情は緊張感溢れるクローズアップの表情によって表される。救いようのない嬰児殺しという悲劇と破滅に向かって。

なお、劇中に公爵夫人の音楽サロンが二回登場するが、一回目はピアノ曲が演奏され、曲目はモーツァルトの《ピアノ・ソナタ第11番トルコ行進曲》、リストの《エステ荘の噴水》、ショパンの《子守歌》《子犬のワルツ》《別れのワルツ》である。二回目は声楽で、グルックの《オルフェオとエウリディーチェ》が歌われた。

1976年イタリア/フランス合作。
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ、エンリコ・メディオーリ、ルキノ・ヴィスコンティ
キャスト:ジャンカルロ・ジャンニーニ、ラウラ・アントネッリ、ジェニファー・オニール、マルク・ポレル

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