元々は講釈の根多です。それが浪曲でもやられるようになり、特に木村松太郎氏の名演で広く知られるようになります。
そして、この木村松太郎に惚れたのが、立川談志。最後の本物の浪曲師と持上げて、松太郎直伝の『慶安太平記』を落語にした。
「善達の旅立ち」「吉田の焼討ち」「箱根の惨劇」と「秦式部」の四席だそうですが、私は「秦式部」聞いた事がありません。
また、現在はこれを談志の弟子である談春師匠が伝承されていて、「善達の旅立ち」「吉田の焼討ち」は、
本当に師匠そっくりに演じておられます。以前は、志らくさんもやってましたが、最近やりませんね。
志らく師匠は、国立で二百六席だかの会を始められていますが、そこではやるのかな?『慶安太平記』
もう少し談志師匠の落語の『慶安太平記』のお話をすると、談志師匠がこれを寄席や独演会で掛けていた時代。
1970年代の頃は、おそらく客の殆どが講釈か浪曲、そして芝居や映画で、『慶安太平記』を熟知していたと思います。
その下地のあるお客様に、「どうです、松太郎直伝の『慶安太平記』でございます」と、やるから乙なんですよね。
そして、結構晩年まで『慶安太平記』を、談志師匠は掛けておられました。談志信者や普通のお客様に。
ですから、昔の寄席でやっていた音源だと、いきなり本編に入り二十分ちょっとで演じでいます。
ご通過のお客様ばかりなので、そんな芸当が通るのだと思いますね。それがやはり晩年は、
この『慶安太平記』というものは、みたいな説明と、善達だと増上寺と知恩院の関係などにも触れるように。
そうしたマクラも付いて三十分くらいの根多になって、弟子の談春師とリレーでやったりしていました。
私は、この師弟のリレーは、三鷹の落語会で聴きました。その後、歌舞伎座が幻に成ったのでついていました。
談春師匠の『慶安太平記』は、本当に談志師匠のまんまやっているので、是非、機会があれば聴いて下さい。
さて、本家講釈の『慶安太平記』ですが、こちらは実に長い物語です。神田松鯉先生のは全十九話です。
これを弟子である松之丞さんは前部持ってます。よく言います「所詮、談春は二席だが、俺は十九席だ!」と。
この『慶安太平記』は、講釈特有の構成でできているので、長い物語が起承転結で進行するだけじゃないんですね。
時代劇を観ていると分かると思いますが、あのように、本筋はゆっくり善悪の対立で流れて、
殆どの毎回、オブニバスで主人公に関係する新しい登場人物のエピソードが紹介されて行きます。
01「正雪の生い立ちから紀州公出会い」
『慶安太平記』は、当然、主人公は由比正雪です。そして対立側が徳川幕府/松平伊豆守です。
そして、正雪のお立ちから始まって、なぜ、打倒・徳川幕府なんて大それた事を夢見るように成ったのか?その説明から序開きです。
02「楠木不伝闇討ち」03「丸橋忠弥登場」04「忠弥・正雪の立合い」05「秦式部(皿回し)」06「戸村丹三郎」
次に、目的を定めた正雪は、じっくり打倒・徳川幕府の計画を練ります。まず、足場となる道場を手に入れる。
そして、自身の名声を高めながら、徳川幕府を一緒に倒してくれそうな仲間を集います。
ここにも正雪なりの考えがあり、単に兵力として使える奴ばかりではなく、幕府を倒した後、
正雪と一緒に政を行い、補佐してくれるような、できるだけ文武両道に優れた人物を集めます。
07「宇津ノ谷峠」08「箱根の惨劇」09「佐原重兵衛」10・11「牧野兵庫」上・下
12「柴田三郎兵衛」13「加藤市右衛門」14「鉄誠道人」
更に、正雪は軍資金の調達にも奔走します。で、ここから人集め、そして金集めと物語は、交互に展開する。
善達(講釈では傳達:でんたつ)が、紀州公の御用金を宇津ノ谷峠で襲い、三千両を隠して吉田に逃げます。
そして、善達と一緒に襲うのが豊臣の残党・闇の重兵衛という爆薬使いです。
また、善達と重兵衛を吉田宿で召し取りに掛かるのが、松平伊豆守・知恵伊豆です。
一方、14話の「鉄誠道人」も正雪は凄い金集めをします。これは、松之丞さんの当り根多に成っていて、
鉄誠道人という“俺は太く短く生きる”と言って、辻説法で寄進を集めている願人坊主が居た。
この坊主は、所謂、アルビノ/白子で、全身真っ白だった。この鉄誠道人に正雪が知恵を付ける。
江戸中に「この世の諸悪全てを私・鉄誠が受入て炎に飛び込み焼身自殺する!!
よって、自身の悪を拭い去りたい者は、我より免罪符を買い求めなさい」と、触れて廻ります。
これによって、鉄誠道人は三万両の銭を集め、正雪は鉄誠道人に抜け穴を用意していると騙し、
焼き殺して骨にしてしまいます。この骨までも、お守だと言って砕いて粉にして売り払うのでした。
15「旗揚げ前夜」16「丸橋と伊豆守」17「奥村八郎右衛門の変心」18「正雪の最期」19「一味の最期」
いよいよ、人と金が集まり、三代将軍家光が死去します。四代将軍家綱は十二歳でした。
ここぞとばかりに正雪は幕府転覆を狙って決起するのですが、知恵伊豆の方が一枚役者が上で、
丸橋忠弥と奥村八郎右衛門のつまらない、諍いから謀反が露見し、正雪は駿府の宿屋で自害します。
そして、江戸、大坂、それぞれで決起するはずの仲間も、一網打尽にされるのでした。
この『慶安太平記』は、全19話もある長編にしては、ダレ場が少ない物語で、
登場人物にも、それなりに個性があり、物語に引き込まれて行く感じが十分楽しめます。
それに、七話目の『宇津ノ谷峠』と、十四話目の『鉄誠道人』という大きな山場も用意されています。
ただし、その割に、最後の二話「正雪の最期」「一味の最期」がやや肩透かしですね。
特に「一味の最期」は必要?って思ってしまいます。正雪が自害した時点で終わりでいいですよね。
さて、最後に何回くらいこの『慶安太平記』を聴いたか?集計してみました。
2009 談春「吉田の焼討ち」 横浜にぎわい座
2010 談春「善達の旅立ち」「吉田の焼討ち」横浜にぎわい座・相模大野グリーンホール
2011 なし
2012 談春「善達の旅立ち」「吉田の焼討ち」成城ホール
2013 談春「善達の旅立ち」「吉田の焼討ち」大田区民プラザ
2014
第一話「正雪の生い立ち」松之丞2
第二話「楠木不伝闇討ち」松之丞
第三話「丸橋忠弥登場」松之丞2
第四話「忠弥・正雪の立合い」松之丞
第五話「秦式部」松之丞2
第六話「戸村丹三郎」松之丞
第七話「宇津ノ谷峠」松之丞
第八話「箱根の惨劇」松之丞
第九話「佐原重兵衛」松之丞
第十一話「牧野兵庫・下」松之丞
第十二話「柴田三郎兵衛」松之丞
第二話「楠木不伝闇討ち」松鯉
第四話「忠弥・正雪の立合い」松鯉
第六話「戸村丹三郎」松鯉
第十話「牧野兵庫・上」松鯉
第十一話「牧野兵庫・下」松鯉
第十三話「加藤市右衛門」松鯉
2015
第七話「宇津ノ谷峠」松之丞
第十四話「鉄誠道人」松之丞4
第十六話「丸橋と伊豆守」松之丞2
第十七話「奥村八郎右衛門の変心」松之丞
第十八話「正雪の最期」松之丞2
第十五話「旗揚げ前夜」松鯉
第十七話「奥村八郎右衛門の変心」松鯉
第十九話「一味の最期」松鯉
2016
第八話「箱根の惨劇」松之丞
2009年から2013年までは、談春さんで「宇津ノ谷峠」の部分ですね。ここを重点的に3回連続で聴いてますね。
流石に、2011年の東日本大震災の年は「吉田の焼討ち」ができないんでね、流石の談春師匠も演じてません。
2014年から2015年に掛けては、松鯉先生と松之丞さんの俥読みで全十九話を平均2回ずつくらい聴きました。
さて、現在、講釈の松之丞さんと浪曲の玉川太福さんが、不定期ですが『慶安太平記』を俥読みされています。
私は、『慶安太平記』はお腹一杯なので、暫く聴かなくても良いので行ってませんが、
是非、まだ全部通して『慶安太平記』を聴いていない人は、この機会に若手2人のリレーで聴いて欲しいです。
もう、三回くらいやっていると思いますが、まだまだ、やると思うので、是非!!