丸いウォンバットの観察日記@

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最後のバラード 32

「エントリーナンバー18番。土方恭祐・・・・・・」

 俺は右手でマイクを掴んで、ゆっくりと客席を見回す。
場内は満員で立錐の余地もない。
梨花・・・・・・。
俺はざわめき始めた場内に梨花の姿を捜した。
薄暗い場内で、これだけの観客の中からたった一人を捜しだす。
それがどんなに難しい事かは分っていた。
しかし、きっと梨花はこの中にいる。
確証がないが俺はそう信じていた。

 ステージに響く複数の足音。係員が二人、俺に駆けより捕まえる。

「りかぁーっ!」

俺は客席に向かって叫んだ。
容赦なく俺をステージの外に連れ出そうとする係員。

「唄わしてやれ。責任は俺がとる」

ステージの袖から声がかかる。

「谷さん!」

その声の主は谷 永仁であった。
谷の言葉に従い抑えつけた手を放す係員。

「土方。スペシャルゲストを連れて来たぜ」

谷の言葉に続き、ステージの影から一人の女性が姿を現す。

「梨花」

俺の口から零れたのは最愛の人の名だった。
夢でも、幻でもなく正真正銘ホンモノの梨花がそこにいた。
かすんで見えるのはきっと俺の瞳が潤んでいるからだろう。

「恭祐さん。ごめんねっ。ごめんね。」

梨花が泣きながら俺に抱きつく。
俺は右手だけで梨花の背中に抱きしめる。

「謝るのは俺の方さ。辛い思いをさせてごめんよ。
 ・・・・・・もう二度と離さないから」

梨花を抱く手に力がこもる。

「唄ってこいよ。土方。
 ギャラリーがお待ちかねだぞ」

谷が右手の親指をたてて言った。
俺は黙って頷き、ステージの中央へ進む。
突然の出来事に場内は騒然としている。

「左手がダメになってて、ギターは弾けないけど。
 今夜は俺のお姫さまのために唄います。
 曲はシンデレラへのラヴ・ソング」

俺はマイクを握りしめそう言った。観客の一人一人に囁くように。

 ゆっくりとカウントを始める。ざわめきがおさまらない場内。
 
 俺は唄い始める。伴奏もなにもなく、アカペラで。
ステージの影では梨花が優しい微笑を浮かべ、たたずんでいる。
以前と変わらない懐かしい微笑で。

 俺は唄う。いつの間にか場内は静けさに包まれている。
そして静かなる観客の一人一人に響きわたる歌声。

 やがて観客の一人が手拍子を始める。
それは水面に落とした小石のように客席全体に波紋を広げた。

 俺は唄い続ける。

 歌は終局へと近づいた。これから始まる梨花との未来へと。

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