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歌は終局へと近づいた。これから始まる梨花との未来へと。
その時だった。突然、ステージの影から梨花が俺の側へ飛び出してきた。
「恭介さん」
梨花は俺にしがみつき、怯えた表情をしている。
俺はステージの袖に目をやった。
そこにはものすごい形相で俺を睨みつける神崎の姿があった。
神崎は今にも飛びかかって来そうな勢いだが、
背後から谷に抑えつけられ、そうはできなかった。
「ひじかたぁ!」
神崎の瞳は狂気に満ちあふれ、正気を失っている。
「バシッ」
谷を突き飛ばし走り寄る神崎。
右手には何かが握られている。
ステージのライトがそれにあたり眩しい光を反射する。
その刹那、俺はその不吉な光をたたえた物質が何か理解した。
身体ごと俺にぶつかる神崎。
強烈な痛みを胸に感じる。
恐る恐る視線を下ろすと俺の胸にナイフが刺さっている。
「負け犬のくせに・・・・・・」
ナイフを抜きながら神崎。
「まっ、負け犬はてめえだよ。神崎」
「ドスッ」
今度は腹を。・・・・・・深い。
神崎と二人、重なるようにステージに倒れる。
一瞬、遠ざかる意識。
その瞬間、梨花の悲鳴が聞こえた。
「恭祐さん。しっかりして。恭介さんっ」
気がつけば梨花が大粒の涙が俺の頬を伝わっている。
俺はステージに横たわり、頭を梨花に抱えられている。
首を起こすと神崎が谷さんに抑えつけられていた。
「続き唄わなきゃ・・・・・・」
俺は床に手を着き立ち上がろうとした。
しかし床が濡れていて手がすべる。
誰だ? こんなところに水を撒いたのは。
ふと手を見ると、それは水ではなく俺の身体から流れ出た血液だった。
「くそっ、立てねぇ」
「いいのよ。もう・・・・・・」
梨花は俺の頭を強く抱きしめた。
「梨花、クリスマスプレゼントがあるんだ」
俺はジャケットのポケットに手を入れ、
小さなオルゴールを取り出し梨花に渡そうとする。
しかし、手に力が入らずオルゴールは血まみれの床に転がった。
ひとりでに「虹のかなたに」を奏で始めるオルゴール。
「もう一度踊りたかったな。あの公園で・・・・・・梨花と」
「怪我が治ったらね」
「なんだか寒いな。・・・・・・ゴホッ」
口から鮮血が溢れだす。
「恭祐さん・・・・・・」
梨花の声が涙で掠れている。
泣かないで梨花。俺はお前の笑顔が好きだから。
女神のようなあの優しい微笑が。
俺は今までお前のその微笑のために唄ってきたんだ。
そして、これからも・・・・・・。
やがて床に転がったオルゴールは役目を終えたように曲を奏でるのをやめた。
ゆっくりと、そして静かに。
END
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