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「君は良くやったよ。
君のおかげで久しぶりに楽しいひとときを過ごせた。
残念だが、これでゲーム・オーバーだ。
言い残す事はないかい?」
「・・・・・・ふっふっふ。
勝負はまだ終わっちゃいない。
まだ俺のカードは伏せられたままだ」
急にいしかわの口調が変わる。
「やれやれ、せっかく君を認めてあげたのに
ここに来て悪あがきをするのかね?
さっさと観念して遺言を残したまえ」
「いいや、遺言を残すのはお前の方だ!」
ゆっくりと顔を上げるいしかわ。
その自信に満ちた顔つきは別人のようだった。
彼は最後に残された自分のカードを開く。
そのカードを見て、リアの表情が凍りついた。
「ジョ、ジョーカー!
・・・・・・そんなバカな。
さっきまでジョーカーは含まれてなかったはずだ」
「ああ、10回戦まではな。
今回からジョーカーを札の中に入れて、53枚にしたんだ。
最初からジョーカーなしだと決めてなかったはずだ。
俺の持ってきたトランプを使うという約束はしたがな」
「心が読めない・・・・・・貴様、いったい何者だ?」
さっきまでとあまりにも違ういしかわの態度に焦りを隠せぬリア。
「俺か? 俺はケチなギャンブラーさ。
以前、お前との勝負に負けて命を奪われた男だ。
今度はこいつの身体を借りて地獄から
リターンマッチにやってきたぜ。
思った通り、お前は人の心が読めるが複数の心は読めないようだな。
こいつにチャンネルを合わせて、
その奥に潜んだ俺の心は読めなかったお前の負けだ」
「そんなイカサマが認められるかっ!」
リアは牙を剥き出しにして、いしかわ、否、
ギャンブラーに襲い掛かろうとした。
その刹那、リアは動きを止めた。
ずっと黙って勝負の行方を見守っていたカーミエが彼の肩を押さえ、
制止したからだ。
「この勝負、私たちの負けよ」
そう言って、テーブルに置かれた卵に手をかざす。
「負けか。その一言を聞けたから俺も安心して成仏できる」
そう言うとギャンブラーの魂はすっと消え去った。
後には憑物が落ちたような顔をしたいしかわが残されている。
「いいのか? カーミエ」
「いいわ。二人とも長生きしすぎたのよ。
それに愛する人と二人で死ねるんだから、
とても幸せよ」
二人の吸血鬼は手を取り合いながら、幸せそうに微笑んでいる。
訳もわからずその様子を見つめるいしかわ。
「ねえ、いしかわさん。一つお願いがあるの。
この子、マキって言うんだけどこれから面倒をみてくれない?」
カーミエは黙って頷くいしかわに子猫を渡した。
二人の魔力を卵が吸い取るにつれ、
周囲の景色がどんどんと色を失っていく。
「この奥に鉄扉(てっぴ)があるからそこから外に出なさい。
そしたら元の世界に戻れるわ」
そう告げたカーミエの身体は半分腐りかけていた。
魔力がすべて失われれば腐り果て、やがて灰になるだろう。
いしかわは教えられた扉を抜け、見慣れた秋葉原の街に戻っていった。
もどった瞬間、白昼夢を見ていたような感覚に襲われたが、
腕のなかで甘えた声で鳴く子猫が
今までの出来事が現実であった事を証明していた。
エピローグ
洋館のあった世界は魔力が消え、虚無の世界となっていた。
ただ一つ、膨大な魔力を蓄えた卵を残して。
そこへどこからともなくローブを被った女性が現れ卵を拾い上げた。
「ハンプティ・ダンプティ、塀の上
ハンプティ・ダンプティ、おっこちた」
マザーグースの一説を口ずさみながら。
もしかしたら、あなたの前にもローブを被った
謎の女性が現れるかも知れません。
その時は、怪しげな商品を売りつけられた挙句、
危険な目に遭わされるかもしれないので気をつけてくださいね。
END
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