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ある晴れた日の朝、彼女はカーテンの隙間から差し込む光と、
コーヒーの香りで目覚めた。
「うーん・・・・・・」
霞みがかかったようにぼんやりとする思考。
軽い頭痛に彼女は頭を押さえる。
「おはよう。やっと起きたね。マミ」
(マミ? それが私の名前?
えっ、なぜそれさえも分からないの?)
彼女は自分の名前さえ分からない事に愕然としながら、
ベッドの上で上半身を起こし、声のした方を見る。
声の主はメガネをかけた優しそうな男で、
手には湯気の立つコーヒーカップを持っている。
「・・・・・・おはよう。あなたはだれ?」
「・・・・・・また、記憶が欠落したんだね。
僕は祐司。キミの夫だよ。
キミは以前、酷い事故にあったんだ。
それの後遺症で時々、今みたいに記憶を失うんだ。
お互いにつらい事だけど・・・・・・
さぁ、これでも飲んで少し落ち着くといい」
そう言いながら、男はカップをマミに手渡す。
「・・・・・・なにも思い出せない」
ボロボロと涙を流し、うつむくマミ。
祐司は隣に腰掛け、優しくマミの肩を抱いた。
(キケン)
心の中の何かがマミに告げる。
「慌てなくていいよ。後でゆっくり説明してあげる。
そうしたら少しづつ思い出すはずだよ。
さぁ、コーヒーをお飲み」
鼻をすすりながらコーヒーを飲むマミの隣で祐司は
透明感のある声で順を追って説明を始めた。
「キミはマミ、僕の愛する妻だ。
僕達は同じ研究所で出会い、そして恋に落ちた。
去年の春だ。
そして今年の初め、キミは車を運転中、
誤って崖下に転落したんだ・・・・・・」
祐司は二人がならんで写っている
3Dフォトグラフを見せながら説明した。
「もっとゆっくり話していたいけど、
もう仕事に行かないといけない時間だ。
続きは帰ってからまたするから。
それまでキミはここでゆっくりしていたらいい。
家事は家政婦アンドロイドがやってくれる。
キミの仕事といえば、キミが飼っている
カナリアにエサをやるくらいだよ」
「・・・・・・うん」
不安げに頷くマミ。
「じゃあ、行ってくるよ」
優しく頬にキスをし、玄関に向かう祐司。
「いってらっしゃい。
・・・・・・ねぇ?」
「なんだい?」
立ち止まりふり帰る。
「私の飼ってるカナリアはなんて名前なの?」
「・・・・・・今のキミが好きな名前を付ければいいよ」
見知らぬ夫は少しだけ困惑の表情を浮かべた。
つづく
http://blogs.yahoo.co.jp/marui_wombat/27085559.html
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