丸いウォンバットの観察日記@

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最後のバラード 29

   4 聖夜

 きらびやかなステージの上を、細身のファッションモデルがさっそうと歩く。
軽やかなBGMに合わせて。
彼女たちがとるポーズの一つ一つがさりげなく、
かつ確実に着ている衣装をアピールしている。

 俺は梨花がゲストとして参加するファッションショーの会場に来ていた。

 場内アナウンスでデザイナー名が「リカ・イワサキ」と告げられる。
プログラムはこれで終了で、後はカーテンコールを残すのみである。

 梨花の発表も終わり、いよいよカーテンコールである。
BGMが一転して静かな曲に変わり、
モデルに囲まれたデザイナーが次々と登場する。
 最後に梨花が登場し、花束と拍手で迎えられた。
彼女は自らデザインしたイブニングドレスに身を包み、
客席に向かって優雅に頭を下げた。
そのドレスは胸元に絹で作った梨の花をあしらった淡いピンクのもので
梨花によく似合っている。

 俺は席を立ちゆっくりとステージに近寄った。
最前列では梨花に向かって神崎が満足げに拍手を贈っている。
俺は神崎に目もくれずステージの正面に立った。

 俺は顔を上げ、ステージ上の梨花を見つめる。
俺の視線に気付き、こちらを向く梨花。

 二人の視線がステージと客席の境で絡み合い、梨花が凝固する。
彼女の身体で唯一、口元だけがゆっくりと動き

「キョ・ウ・ス・ケ・サ・ン」

と音にならない声が零れた。
そして震える彼女の頬を涙が流れる。
ゆっくりと、ゆっくりと。

「梨花。ただいま」

右手で目頭を押さえる梨花。

「クリスマス・イブにポピュラーソングフェスティバルに出場する。
 是非、来てくれ。
 ・・・・・・梨花、お前の為に俺は唄う」

俺はフェスティバルの入場券を差し出した。
静かに頷く梨花。
静かなる二人の再会を邪魔するように場内がざわめく。

 梨花が手を伸ばし券を受け取ろうとする。
あと10cm、いや5cmで梨花の手が券に届くという時だった。
不意に俺の首に太い腕が巻きつき、
俺を梨花から強引に引き離した。
そして梨花と俺の間を遮るように神崎が立ちはだかり、
俺の手から梨花に渡されるはずの入場券をもぎとった。

「ようっ、神崎の馬鹿旦那。久しぶりだなぁ。
 相変わらずお元気そうで」

神崎のボディガードに背後から押さえつけられたまま俺は吐き捨てた。

「君も進歩がないね。性懲りもなく人の婚約者の前に現れるなんて。
 すこしは学習能力をつけたまえ」

神崎は薄ら笑いを浮かべながら手にしたチケットを破り捨てた。

最後のバラード 28

「いや、最初は恨んだり、憎んだりしてたかもしれないけど、今は違う。
 逃げられたのは俺の方に原因があるんだろう。
 あの時は何が一番大切か俺自身見失っていたから。
 この街を離れてからやっとそれに気がついたよ。」

そう言った俺の脳裏に次々と梨花との思い出が昨日の事のように蘇えった。

「実は梨花ちゃんが神崎と婚約したのには訳があるんだ。
 確かに、お前が思ってるように彼女の両親、
 特に父親が強引に話を進めたって事も原因の一つだけれど。
 でも、理由は他にもあるんだ。
 彼女は婚約に際して、二つの条件を神崎に出したらしい。
 その条件はというのは、俺のロスでの治療費、二千万円の無償援助。
 それと俺たちに対する嫌がらせ、
 即ちレコード会社への圧力。それの停止。その二つだ」

「なぜだっ! なぜ今まで黙ってたんだ。
 なぜ梨花はそんな馬鹿げた条件を・・・・・・」

俺は立ち上がり、木島の肩を激しく揺すっていた。
俺の頭の中で配線がいくつかちぎれショートする。

「・・・・・・すまない。恭祐。
 俺も治療費の出所については帰国するまで知らなかったんだ。
 梨花ちゃんにしても、お前が夢や生きる希望を無くしているのを
 見るのが辛かったんだろう。
 それにお前の夢は、彼女にとっても夢だったんじゃないか?」

俺の頭の中は混乱していた。
神崎への怒り、梨花への哀情、そして愚かな自分への悔恨。
それらが渦となって俺の心を内側から締め付ける。
お前はいったい何をやってたんだ。
いったい何の為に唄ってたんだ。
俺は崩れるようにその場に膝をつき、地面を叩く。

「今、梨花ちゃんこの街に帰って来てるよ」

木島はそう言いながら一枚のチケットを差し出した。
ファッションショーの入場券である。

「このショーに彼女がデザインした服がいくつか出品されるそうだ。
 神崎の権力のおかげでな。
 当日は梨花ちゃんも来るはずだ」

「梨花が・・・・・・」

俺は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 梨花。お前は今、幸せか?
 俺はお前に何をしてやれる?
 俺の歌は今でもお前の心に届くのだろうか?

苦悩に満ちた俺の思考は、その奥底から一つの決意を導き出した。

最後のバラード 27

 俺は全国大会の行なわれる街に着いた。
梨花のとの思い出が詰まったこの都会の街に帰って来たのだ。

「おかえり。よく帰ってきたな」

将がわざわざ空港まで出迎えに来てくれていた。
将はこの秋に結婚したばかりだが、
雰囲気は以前となんら変わりなかった。

「ただいま。元気そうだな。どうだ、新婚生活は?」

「ああっ、まあそれなりに幸せだ」

将はニヒルに笑って俺の荷物を半分持ってくれた。
そしてロビーを二人並んで歩き始める。

「ところで木島の具合はどうだ?」

「ああ、先週の末に帰国した。お前にすごく会いたがっているよ。
 今は自宅で療養しているはずだから後で一緒に会いに行くか?」

「いや、今からすぐに行こう」

俺と称はさっそく木島のアパートに向かった。

 木島のアパートに着いた俺たちは玄関脇のインターホンを押した。
数秒後、ガチャガチャと鍵を開ける音に続いて扉が開けられた。

「いらっしゃい。土方さんお久しぶり。
 狭いところですけど、どうぞお上がりになって」

木島の恋人の洋子さんが俺たちを招きいれる。
俺は彼女に土産を渡し、招きに応じる。

「恭祐・・・・・・」

奥の部屋からびっこを引きながら木島が現れ、俺をみるなり抱きついてきた。

「おいおい、やめろよ。洋子さんが誤解するだろう」

俺は冗談を言いながら木島から離れ、軽く肩を叩いた。
木島は久しぶりの再会だというのに随分と沈んだ表情をしている。

 リビングに通された俺たちは座り込み、
しばらくの間つのる話に花を咲かせた。

「恭祐。二人きりで話があるんだが、
 どうだ、ちょっと外に出ないか?」

三十分くらいした頃だろうか、不意に木島が立ち上がった。

「いいけど、足は大丈夫なのか?」

俺の問いかけに木島は黙って頷き、近所の公園に行く事にした。

 二人はひと気の少ない公園の入り口付近のベンチに並んで座った。
向こうのジャングルジムや砂場では子供達が元気に遊んでいる姿が見える。

「なんだい。話って」

うつむいたまま座っている木島に、俺は遠くを見ながら言った。

「・・・・・・恭祐。俺はお前に2つ謝らないといけない事があるんだ。
 一つはバンドの事だけど、
 ・・・・・・もうお前とコンビを組む事ができない。
 すまん。俺から誘っておいて。
 実は洋子のヤツ、妊娠してるんだ。
 だから金もいるし、もう俺もカタギの仕事につかないといけないんだ。
 あいつと生まれてくる子供のためにも」

正直言って覚悟はできていた。
最初に会った時の様子で予感めいたものを感じていたし、
それに一人にはもう慣れた。

「いいさ。一人でも上手くやっていくよ。
 それより仕事のあてとかあるのか?」

「ああ。谷さんがレコード会社に口を利いてくれる事になってる。
 あの人は俺たちのデビューの件で責任を感じているみたいで、
 渡米中の洋子の面倒とかいろいろと世話をしてくれている。
 ホントあの人には足を向けて眠れないよ」

そう言った木島の身体はかすかに震えていた。
気がつけば風邪が少し出てきたようだ。
昨日までいた北国の街ほどではないが、
この街も12月も半ばともなれば風は随分と冷たくなっている。

「で、もう一つはなんなんだ?」

「正直に答えてくれ。お前、梨花ちゃんの事うらんでいるか?」

木島はうつむいたままの姿勢で首を曲げ、俺の顔を見上げた。

最後のバラード 26

 地区予選終了後、俺は会場でマミの姿を捜したが、
混雑する帰りの人込みに阻まれ見つけ出す事ができなかった。
俺はあきらめ再び電車に揺られライフのある住み慣れた街に帰った。

 うっすらと雪の積もった運河沿いの路を、
俺はギターを肩に一人歩いていた。
ゆっくりとライフに向かって。
日がすっかり暮れた通りは、行きかう人もまばらで
寂しげな冷たい空気に包まれている。

「恭祐」

不意に背後から名を呼ばれる。
聞き慣れたハスキーな声で。
俺はその声に引き寄せられるように立ち止まり、
雪を踏み鳴らしながら振り返った。

 背後にはマミが赤い薔薇の花束を胸に抱いて立っていた。
寂しげに、一人で。
その白い雪の上にたたずむ彼女の姿を古めかしいガス灯の明かりが
おぼろげに照らしだしている。

「優勝おめでとう。次は本選ね」

マミは2・3歩俺に歩み寄り花束を差し出した。

「ありがとう」

俺は軽く頭を下げ、花束を受け取った。

「本当におめでとう。・・・・・・でもなんだか寂しいな。
 恭祐が遠くに行っちゃいそうで。
 もしかしたら、もう行っちゃってるのかもしれないわね」

「なんて言ったらいいか解らないけど、
 マミ、いやオーナーには言葉にできないくらい世話になって。
 ・・・・・・すごく感謝してる」

「なによ。急に改まって。
 マミでいいわよ。マミで・・・・・・」

無理に笑ってみせるマミの姿がこころなしか小さく見えた。

「ねえ、この街のこと好き?
 いい街でしょ。
 私も昔は都会で暮らしてたけど、
 やっぱり生まれ育ったこの街が好きなの
 もしもね。もしも恭祐がこの街のこと気に入ったのなら
 ずっとここにいてもいいのよ。
 ライフでずっと唄っていてもいいし、
 生活の事なら店の共同経営者になれば心配ないわよ。
 ねっ、そうしなよ」

マミの口から溢れ出る甘い誘惑の言葉は
この街に流れて来たばかりの頃の俺の心になら届いたかもしれない。
しかし、今は違う。

「ゴメン。マミ・・・・・・」

俺は言葉に詰まり下を向いた。

「いいの。覚悟してたから。
 今日、ステージで唄う恭祐の姿を見たとき、
 ああ、この人の心はもうここにはいない。
 ・・・・・・そう感じたの」

数秒の間、沈黙が続く。
俺はマミになんと言えばいいか解らなかった。

「あなたがこの街に来て数ヶ月の間。
 私、幸せだったわ。
 ほかのみんなは、私の事を男勝りのオーナーとしてしか見なかったし、
 私もそう振る舞っていた。けど、恭祐。
 あなたの前でだけは一人の女、マミとして過ごせたの」

「だけど、しょせん俺は流れ者だから」

俺がそう言うとマミはスーツのポケットに手を入れ、
何かを取り出した。

「これお返しするわ。
 この曲は私がどうあがいても私の曲にはならないし、
 貴方の心の中の思い出には勝てそうもないわ、私。
 だからこれは貴方に、いえ、梨花さんにお返しするわ」

ポケットから出されたマミの手のひらの中で、
小さなオルゴールが静かに曲を奏でている。
梨花との思い出の曲「虹のかなたに」を。

 俺は黙ってオルゴールを受け取った。
その刹那、彼女の瞳からひとすじの涙が流れ落ちた。

「けどね、もしこの街が好きなら。
 ・・・・・・夢に破れた時や、都会の暮らしに疲れた時には
 いつでも帰って来てね。
 その時まで真夜中のステージ、貴方の為に空けておくから。
 だから忘れないで、この街の事を。
 この街にある小さなライブハウスの事を。
 そして、そのに流れ者に恋した一人の女がいつまでも待ってるって事を。
 ・・・・・・さようなら」

そう言うとマミは俺に背を向け、走り去っていった。

 遠ざかる紅いスーツを着たマミのうしろ姿が、
時折り街灯の明かりに照らしだされ、そして消えていく。
その姿はまるで夜の川辺に舞う蛍のように美しく、
そして儚いものだった。

「ありがとう。マミ。
 ・・・・・・そして、さようなら」

俺は心の中でそうつぶやいた。

最後のバラード 25

 俺はケースからギターを取り出し、チューニングを始めた。
俺の順番は最後から3番目で、出番まではまだかなりの間があった。

 午後1時。いよいよ予選開始。
場内アナウンスの後、1組目が演奏を開始する。

 ステージの袖から客席を見ると、6〜7割の入りである。
しかし、それでもライフやエトランゼのステージでの満員より遥かに多い。
 
 1組、また1組と審査は続く。
実力的にはかなりのレベルのグループも数組出場していたが、
俺はそれらのバンドに負ける訳にはいかなかった。
木島と二人、再び夢に向かって歩きはじめる為に、
そして梨花にもう一度俺の歌を聴いてもらう為にも。
俺はこんな所で立ち止まるわけにはいかなかった。

 やがてコンテストは終盤へと進み、俺の出番となった。

 場内アナウンスで俺のエントリーナンバーと名前が告げられ、
そして最後に曲名がアナウンス嬢の柔らかな声で場内に響きわたる。
「シンデレラへのラヴソング」というタイトルが。

 俺はステージに上がり一礼すると、ギターを奏で始めた。
なんらデコレーションされぬギターの音色がスピーカーを経由し客席へと伝わる。

 俺は唄った。歌詞の一節、一節を噛みしめるように。

「シンデレラへのラブソング」は正確に言えば未だ未完である。
曲の1番では過去の梨花との思い出。
2番では傷つけてしまった梨花への謝罪の気持ちを綴っている。
しかし、3番の共通する二人の未来に関しては何ひとつ書かれていなかった。

 俺は全身全霊をこの1曲に注ぎ込み唄い終わった。

 一瞬の沈黙、その次に訪れたのは場内に響きわたる拍手の渦であった。
深々と頭を下げ、観客に礼をした俺は、ゆっくりと頭を上げ場内を見回した。
すべての観客が惜しみない拍手を俺に贈ってくれている。

 偶然、何百人といるそれらの人々の一人と目が合った。

「マミ」

俺の口からその人の名が零れ落ちる。
前から10列目くらいの中程の席に、目にも鮮やかな真紅のスーツを着た女性。
それがマミであった。
彼女は憂いをおびた笑みを浮かべ静かに拍手をしつづけている。

 俺がマミに向かって微笑むと、彼女はやっと安らかな表情を見せた。
それは人ごみの中で迷子になって泣きじゃくる子供が、
手を差し伸べる親の姿を見つけた時の表情、
そんな安堵の表情にどこか似ていた。

「どうもありがとう」

ステージを下りる時、最後にマイクを通して口にした言葉は、
観客すべてに放たれたものなのか、マミだけに語りかけたものなのか。
それは俺にも分らなかった。

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