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時は流れ、季節は移り変わる。
北の国に寒波が押し寄せ、雪が舞い始めた。
これより先、この港町は雪に覆われた寂しく、厳しい季節を迎える。
俺はライフのステージにも慣れ、それに伴い閉店間際の客も増えていった。
特に、いつも最後に唄われる無名のバラードが好評で、
誰が名づけたのか、客たちの間では
「シンデレラへのラヴソング」と呼ばれていた。
多分に、午前0時の閉店に合わせて唄われるからだろう。
ある日、俺の元に沢口から一通の手紙が届いた。
将は今年の秋に結婚し幸福な生活を営んでいる。
俺はあいつにだけは今の居場所を教えていた。
手紙の内容はロサンゼルスに渡って足の治療を受けている
木島についての事であり、
治療の経過が良好で少し歩けるようになったことと、
年内には退院し帰国できるのではないかという事が
将らしい簡潔な文体で書かれていた。
木島、帰ってくるのか。
俺は心の中でそう呟き手紙を上着の内ポケットにしまった。
大切ななにかを胸の中にしまいこむ様に。
その日の午後、俺は気晴らしのため散歩に出かける事にした。
雪のちらつく街のメインストリートを歩いていた時、
とある一枚のポスターが俺の視界に入った。
全国ポピュラーソングフェスティバル地区予選。参加者募集。
白黒、二色で刷られたポスターの上段にはそう書かれていた。
ポピュラーソングフェスティバル、通称ポスフェと呼ばれる
民放ラジオ主催のコンテストで、
歴史は浅いが入賞者からは多数の実力派アーティストを世に送り出している。
コンテストか。俺の心の内側で、俺自身、
いや、俺の歌をもう一度試してみたいという野心が
ふつふつと湧きあがるのが分った。
俺はライフに帰り、さっそくデモテープを作ると、
申し込み書と共に事務局に郵送した。
二週間後、俺は地区予選出場のため、電車で1時間ほど揺られ、
予選会場のある街へと向かった。
最近、俺とマミは心許せる友人のような関係となっており、
お互いに店やステージの事で相談しあっていた。
しかし、俺は今回コンテストに出場する事については
マミには話していなかった。
なぜかといえば、話す機会を逸してしまったのと、
俺の心のどこかにためらいや引け目を感じていたからだろう。
俺は昼過ぎに会場となるコンサートホールに着いた。
午後1時の予選開始を前にして会場内は独特の張りつめた空気に包まれている。
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