丸いウォンバットの観察日記@

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最後のバラード 9

   2 挫折

 ファーストステージから一ヶ月以上たったある日、
俺と木島はマネージャーに事務所へとよばれた。

「ギャラでも上げてくれるのかなぁ?」

事務所までの廊下で俺は隣を歩く木島に向かって希望的観測をのべた。

「いや、ひょっとしてクビだったりして」

木島はまったく逆の悲観的な意見を言う。

 事務所に着き、木製のドアをノックする。
すると待ち構えていたようにマネージャーが出てきて
俺達を中へ招き入れた。
中には先客が二人おり、マネージャーは俺達を紹介した。
中にいた二人の内、一人は俺たちが知っている人物であった。

 その男の名は、谷 永仁。ロック界の大スターである。
 呆然としている俺達にもう一人の男が名刺を差し出した。
木村裕次。肩書きにはSレコード・ディレクターと書かれている。
 
 Sレコードは谷の所属するレコード会社で、
ニューミュージック系のアーティストを多数抱えている。

「永仁がね、エトランゼで久々に掘り出し物を見つけたから
 聞きに行けってうるさいんだよ。
 今日はゆっくり聞かせてもらうから頑張ってくれよ」

木村はお手並み拝見といった面持ちで俺達を見た。

「はい。精一杯やらせてもらいます」

「おまえら。俺の顔に泥を塗るなよ」

笑いながら谷は俺たちの肩を2回叩いた。

 チャンスだ。これ以上ないチャンスだった。
今日のステージが認められたらメジャーデビューも夢じゃない。
開演10分前。
俺は期待と不安が入り混じり控え室の片隅で震えていた。
木島もさっきからうつむいたまま一言も喋らない。

 こんな時、梨花がいてくれたら。
しかし、梨花はゴールデンウィークで故郷に帰省している。
見合いをするために。
 落ち着け、・・・・・・・落ち着け。
いつも通りやればいいんだ。
・・・・・・そう、いつも通りに。
心の中で自分に言い聞かす。

 ポケットの中から梨花の写真を出す。
春に二人で遊園地に行った時の写真だ。
梨花は噴水をバックに安らかな微笑みを浮かべている。

「梨花、このチャンス。絶対につかむよ」

写真の梨花にそう告げると、ギターを手に立ち上がった。

「ファイト!」

梨花の声が聞こえる。
どこからともなく、俺の心に。

最後のバラード 8

 梨花の実家は故郷の街では名の知れた名家である。
そして、彼女の親父さんは実業家としてもやり手で、
近々選挙に立候補するのではないかとの噂もある。
 
 彼女の立場からすると見合いの話を簡単に断れないのは分るし、
仮に現在交際している男がいると言っても、
相手が今の俺みたいな海の物とも山の物とも分らない
ミュージシャンの卵では相手にされないだろう。

「断れないんだろ。見合い。するだけしてこいよ。
 本当は絶対に行かせたくないけれど」

 俺は、いつか音楽で食っていける目途がついたら
梨花の両親に挨拶に行くつもりでいた。
何年かかるか分らないが、自信はあった。

「うん。行って断られるようにしてくる」

梨花は申し訳なさそうな顔をしている。

「梨花、もし相手の男がいい男だったからと言って、
 そのまま話をすすめてくるんじゃないそ。
 最も、俺よりいい男なんて、まずいないだろうけど」

俺は梨花の気持ちをほぐそうとワザとおどけて見せた。

「私だって、どうしたら相手に嫌われるかと心配で、
 私ってなんでこう魅力的なのかしら?」

自然と梨花も冗談に乗ってくる。

「普通にしとけばいいさ。梨花の本性を見て
 それでもいいなんて物好き滅多にいないよ」

「ひっどぉーい」

梨花は膨れっ面をし、俺の顔をじっと見る。

「どうした?」

「やーい。物好き」

梨花は俺を見つめながら微笑んだ。

やっと梨花の顔に笑顔が戻った。
 
 彼女の女神のような微笑のためなら
俺はどんな困難にも立ち向かえるだろう。
そして、彼女の微笑がある限り、明日を信じて生きていける。
今、改めてそれを実感した。

「何年かかるか分らないけど、待っててくれないか?
 幸せにするから。きっと・・・・・・きっと」

「うん」

梨花はテーブルの下で俺の手を強く握り、静かにうなずいた。

最後のバラード 7

 梨花と俺はライブハウスから歩いて5分位の所にある、
カレー専門店へ行く事にした。

「ここは結構怪しくて好きなんですよ」

確かに店内に入ると、インド・印度した装飾品が不規則に配置されており、
その規則性のなさが余計に印度の怪しさを醸し出していた。

「イラッシャイマセ」

 突然、店の奥から頭にターバンを巻いた白い服の男が現れ、
俺達を奥の席へと案内してくれた。
 男はニヤッと白い歯を覗かせ、すばやくメニューを広げる。
そして、二人の注文を聞くと一度首を縦に振り、
足音もなく奥へと消えていった。

「怪しいでしょう。けどカレーの味はなかなかのものよ」

梨花は目を輝かせ俺を見つめる。

 ウェイトレスが食前酒のビールを持ってくる。
そして、ふたりのグラスにビールを注ぎ去っていく。

「君の瞳に乾杯」

俺はボギーを気取ってグラスを上げる。
カツンッ。
それにあわせて、梨花は手にしたブラスを俺のグラスに軽くあて、
優しくウィンクした。

「似合わないね。お互いに」

梨花はクスッと笑い舌を出した。
俺も照れて頭を掻きながら一気にビールをノドに流し込む。

 奥から先程のインド人が再び現れ、
本格的なカレーをテーブルの上に並べる。

「オマタセシマシタ」

カレーとヨーグルト、そして片言の日本語を残し、
彼は静かにテーブルを去り、再び店の奥に姿を消した。

 それからしばらくの間、二人はカレーを食べながら
今日のライブについて話し合った。

「ところで、恭祐さん。私、ちょっと困ってることがあるの」

梨花は真剣な表情になった。
口調は穏やかだが、表情から察すると結構深刻な悩みのようだ。

「なんだい? 金のこと以外なら相談にのるぞ」

「・・・・・・うん。実は実家からうるさく言われているの。
 見合いしろ見合いしろって。
 なんでも先方はうちの取引先関係みたいで、なかなか断り辛いみたいなのよ
 それで、親の顔を立てて、顔見せだけでもしてくれって。
 はあっ。女も四半世紀も一人で生きていると回りがうるさいのなんのって」

梨花はうんざりした面持ちで呟いた。

最後のバラード 6

 水曜日。いよいよ未来に向かって歩き出す時がきた。
開演前、俺はパートナーの木島と入念な打ち合わせをする。
木島は高校時代からの友人で、普段は無口な奴だが
音楽の話を始めると多弁になるという、いわゆる音楽馬鹿である。
しかし、、作曲、特にアップテンポな曲作りに関しては天才的な才能があり、
大学時代もバラード調の曲以外はすべて木島の作だった。

「沢口がいたらな」

木島がガラにもなく弱気な声を漏らす。

 沢口将は大学時代、木島の苦手なバラード調の作曲を担当し、
その才能を発揮していた。
現在、都市銀行に勤務しており、この秋、三つ年下の嫁さんをもらう事になっている。
ライブに際し声をかけたが返事は当然のごとくNOであった。
 
 今日、演奏する曲の一覧表を見る。
確かにこの中に将の作った曲が入れば全体的にまとまりのある物になるだろう。
しかし、今はこれでやるしかないんだ。
俺はそう自分に言い聞かせ控え室のイスから立ち上がった。 

「時間だ。行こうぜ」

俺は相棒の肩を叩きながらそう言った。

ざわめいている場内、入りは七分ほど。
スポットライトがあたる。
俺は、深呼吸を一つしてカウントを始める。
水をうったように静まりかえる場内。

曲が始まる。

俺はギターを奏でながら唄い始めた。
・・・・・・糞っ! ドラムと息が合わない。
ドラムは未だ正式に決まってなく、今日も他所からのヘルプに任せている。

 俺は苛立ちを隠しきれずにいた。
 焦る。このままでは悪循環だ。

 そんな時、場内の前から二列目に梨花の姿を見つけた。
彼女は紺のワンピースを着ており、紙テープの代わりに白い花束を抱えていた。
そして、俺と目が合うと微笑みながらVサインをした。
 
 さっきまでの苛立ちがウソのように消え、ノリが良くなってきた。
それに引き込まれるように観客がのってくる。
最初まばらだった手拍子がいつのまにか全体に広がっている。

 1曲目が終わった時、俺は「いける」という手ごたえを感じた。

 アンコールを含め、予定していた曲をすべて唄い終わった時、
会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
俺たちはステージの袖に引っ込みメインのバンドに交代する。
 控え室には梨花が花束を持って待っていた。

「おめでとう。恭祐さん」

「ありがとう。梨花、ステージから姿が見えたとき、
 女神さまが目の前に現れたような気がしたよ」

俺は花束を受け取りそう告げた。
それは正直な気持ちの表現だった。

「これから食事に行きませんか? お祝いに私がおごりますよ。
 ・・・・・・中華料理がいいですか?」

俺の女神さまはそう言いながら微笑んだ。

最後のバラード 5

 エトランゼ。大手ビールメーカーがスポンサーのライブハウスで、
今まで何人ものアーティストを世に送り出している。
演奏される曲も曜日ごとにロックからジャズまで、
幅広いものとなっており客層も多様である。

 梨花と再会して3ヶ月、ライブを始めて2ヶ月で
俺たちはエトランゼのステージに立つ事になった。
これは、運が良かったことと、
作曲関係の仕事をしていた木島のコネによるものが大であった。

 ここまでは何もかもがうまくいっていた。
正に順風満帆といったところだった。

 その夜、俺は梨花に吉報を伝えたくて、早速電話をかけた。
今では二人は、「梨花」「恭祐さん」と呼びあう関係になっていたが、
お互いに忙しくて最近あまり逢えずにいた。

 短い呼び出し音のあと、梨花が出る。

「エトランゼに出演が決まったよ。来週の水曜から週一回。
 梨花、ファーストステージには是非きて欲しいんだけど」

「もちろん。何がなんでも行くわ。
 土方恭祐さんのファンクラブ会員第一号ですからね。
 紙テープを山ほど抱えて行きますよ」

俺の脳裏には、大学時代のステージで
梨花に紙テープを頭にぶつけられたという暗い記憶が蘇えった。

「ちゃんと芯は抜いて、端を持って投げろよ」

「まーかせて」

と言って、受話器越しに胸を叩く音が聞こえる。

「それよりスケジュールは大丈夫なのか?
 ・・・・・・無理はするなよ」

「うん。だいじょーぶ。心配ないって」

 梨花は俺の前では馬鹿な事をしたり、抜けたところもあったりするが、
仕事場ではかなり気をつかっているらしい。
性格的に手を抜くのが嫌いみたいで、
傍で見ていて無理をしているんじゃないかとついつい心配してしまう。

 その後、10分くらい世間話をして電話を切った。

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