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「買いかぶりすぎだよ。梨花ちゃん。
それになんで俺が音楽を続けてるって思ってるんだい?」
俺は両手を広げ大げさな仕草を見せた。
「それはだねぇ、ワトソン君!」
梨花はシャーロック・ホームズのマネをしながら一歩一歩
俺の方へと近づいてきて、おもむろに俺の左手をつかんだ。
「毎日のようにギターを弾かなきゃ、こんなタコできないでしょ」
梨花の瞳は、本当にすべてのことを見透かしているのかも知れない。
一瞬、俺は本気でそう思った。
「梨花ちゃんには敵わないなぁ」
俺は観念して本当の事を話すことにした。
「半年くらい前から木島に誘われてたんだ。
脱サラして一緒にライブをしないかって。
それでずっと悩んでたんだ。
けど、今日、梨花ちゃんに逢ってなんか吹っ切れたような気がする。
・・・・・・もしライブをやったら、
最低でも一人は聞きに来てくれるお客さんがいるって分ったから」
そう言ったあと俺は照れくさくなって天を仰いだ。
一瞬の沈黙。
表通りの喧騒が思い出したように耳に伝わる。
この街が産みだす独特のリズムがある。
「先輩。私、また先輩の歌が聞けるんですね」
梨花が瞳を潤ませながら微笑んでいる。
俺は黙って頷く。
不意に、梨花が俺に駆けより腕をつかんだ。
「先輩! 私、クリスマスプレゼントが欲しいな」
そう言い、そばにあった猫の額ほどの広場へ俺を引っ張って行った。
そこは地面が石畳で、周囲をライトアップされた街路樹で囲まれた
ちょっとしたダンスホールのステージのような造りとなっていた。
「1曲踊っていただけませんか?」
梨花はスカートを両手でつまみ、膝を曲げながら会釈した。
彼女は昔から、すごく機嫌がいい時には
フォークダンスを踊りたがるという変わったクセがあった。
俺はその事を思い出し、急に微笑ましくなった。
「喜んで。お嬢さん」
俺は彼女の手を取り、見よう見真似で踊った。
クリスマスの色に染まった都会の真ん中でここだけが隔離され、
また時の流れにさえも取り残された空間となったような気がする。
ここでは梨花の口から奏でられるメロディーが唯一、絶対のものだった。
気がつけば、いつの間にか二人のまわりに、また雪が降りはじめていた。
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