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▽米国の違憲判決のインパクト アメリカ50州のうち15州が死刑を廃止している。1972年まで、アメリカの刑法は死刑の規定が曖昧で、検察官の恣意的な裁量で死刑が求刑され、裁判官の恣意的な判断で死刑判決が下されていた。上訴手続きに不備もあった。このためジョージア州の死刑囚が、法の下の平等に反するという理由で違憲訴訟を起こした。同年、連邦最高裁が違憲の決定を出した。これを受け、連邦も州も刑法における死刑の規定を厳密にし、上訴手続きを整備した。76年、再び、違憲訴訟が起こされたが、連邦最高裁は合憲の判断を下した。 ▽死刑は残虐な刑罰なのか アメリカの連邦憲法には「残虐で異常な刑罰を科してはならない」(修正第8条)という規定があるが、72年の違憲訴訟は、同条項を根拠になされたのではなく、修正第14条の「法の下の平等」に反するという主張を根拠にしており、死刑が「残酷で異常な刑罰」であるかどうかを問題にした訴訟ではなかった。したがって、76年の最高裁判決によって、アメリカでは、刑法などの法律に不備がなければ、死刑は合憲であるという見解が確立した。 ▽アメリカでは違憲訴訟後、「死刑は合憲」が定着 アメリカでは72年の違憲判決以前に9州が、それ以後に6州とコロンビア特別区(首都ワシントン)が死刑を廃止した。(連邦と35州は存置)。その意味で、72年の違憲判決は死刑廃止に一定の影響を及ぼしたが、同時に死刑存置論に正統性を与えるきっかけをつくったともいえる。 ▽死刑は生命、自由、幸福を追及する権利の侵害か 日本でも、ある弁護士が違憲訴訟を起こしたが、死刑は合憲という最高裁判決が出されており、違憲訴訟によって死刑を廃止に追い込むという道は断たれている。日本国憲法第13条は「国民の生命、自由、幸福を追求する権利」を、同31条は「法律の定める手続によらなければ生命、自由を奪われない権利」を保障している。死刑は両条項に違反するとの違憲訴訟に対して、最高裁は、1948年3月、両条項が死刑を禁止するものではなく、むしろ死刑の合法性を認めているという見解を打ち出した。 ▽日本国憲法は死刑容認 前者については「公共の福祉に反しない限り」という前提条件があることを挙げ、公共の福祉に反した場合は、死刑も是認されると判断。後者については、反対解釈をすれば、適正手続きによって国が国民の生命を奪うこと(死刑)は合法であると述べた。 日本国憲法第36条には「残虐な刑罰を禁止する」という規定がある。違憲訴訟は、日本の絞首刑は36条にも抵触すると主張したが、最高裁は、残虐な刑罰とは「火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆで刑」であり、絞首刑は残虐な刑罰とは言えないという見解を示した。絞首刑の残虐性を300年前(江戸時代)の処刑法の残酷性の比べるのは、適切といえるかどうか疑問である。しかし、この判決によって、日本においては憲法が死刑を容認しているという見解が法律論的に定着した。 ▽残虐な刑罰とは アメリカでは、薬物注射による処刑が一般的である。一部の州では、最近まで毒ガス致死、電気椅子によるショック死などの処刑法も行われていた。1990年代後半までは、銃殺刑もあった。薬物注射も注射後、心臓が停止するまで死刑囚が10分以上苦しんだケースがあったことなどから、修正8条に基づいて違憲訴訟が起こり、今では、苦痛のない即効性の致死剤に変えられた。 アメリカ人にとって残虐な刑とは一体、何か?在米中、色々な人に聞いてみたが、彼らがイメージするのは、西部劇に出てくるような公開の絞首刑、黒人に対するリンチであった。普通の人は、死亡するまで何分もかかり、高電圧で皮膚が焦がされる電気椅子刑、窒息症状の中で眼球が飛び出したりする毒ガス刑の残酷さを知らないのである。 ▽エバンジェリストと死刑 余談になるが、同じキリスト教でもカトリックは死刑に反対しているが、プロテスタントは反対していないし、むしろ積極的に賛成している。アメリカはプロテスタントがキリスト教の多数派だから、死刑制度に対する抵抗感が比較的ない。「目には目を、歯には歯を」という感覚は、プロテスタントに強く、とりわけエバンジェリスト(福音派)といわれる原理主義のキリスト教者は、死刑推進派である。エバンジェリストは、本来の福音派とは似ても似つかない福音派を自称する原理主義のキリスト教右翼である。カリスマ的な牧師がケーブルテレビで説教したり、メガチャーチといわれる巨大教会で信者に訴えたりして、支持者を伸ばしている。政治的にもきわめて強い影響力を持ち、テキサス州の知事だったブッシュ前大統領の有力な支持基盤でもあった。 ▽死刑の都テキサス アメリカ南部にバイブルベルトといわれるエバンジェリストの地域がある。バイブルベルトは死刑を存置している南部の州と重なる。その中核はテキサス州である。アメリカで最も死刑執行数が多いのはテキサス州。毎年アメリカで執行される死刑の5割ぐらいは同州で行われている。(2009年は52件のうち24件)。 ▽死刑を廃止できない理由 こうした状況の中で、アメリカにも死刑廃止に取り組む有力政治家、つまり、米国版ミッテランはいないし、近い将来も出てこないだろう。民主党は、綱領に死刑廃止を盛り込んでいる。(共和党は死刑存置)しかし、現職のオバマ大統領が、選挙遊説や議会演説で、死刑廃止に積極的に言及したことはない。死刑廃止は票にならないし、国内治安の強化が常に選挙の争点の1つになるアメリカでは、死刑推進を掲げることが選挙に有利になり、死刑廃止を積極的に唱えることは、政治的自殺にもなりかねない。特に、共和党、民主党の支持が伯仲している最近は、選挙キャンペーンの中に死刑の死の字も出てこない。いわばタブーになっている。程度は違っていても、日本においても、状況は同じである。かてて加えて、死刑は合憲という考え方も日米共通である。以上のことから見て、G8の中で、死刑を存置している両国が、近い将来、死刑を廃止する可能性は、きわめて少ないといわざるをえない。
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