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「蜂子(はちこ)皇子」は何故山形県の庄内地方に逃れたのでしょうか。いろいろな理由はあるのでしょうが、よく考えると、選んだわけではなく、必然的にこの地に流れついた可能性も高いのかと思われます。その理由は酒田市発展の歴史に見ることが出来るかもしれません。 山形県酒田市は、写真家の土門拳さんが生まれた地であり、25年ほど前にはNHK連続ドラマの『おしん』の主舞台として一世を風靡しました。最近ではアカデミー受賞の映画『おくりびと』のロケ地にもなり、注目を集めているようです。 酒田市は東北地方の日本海側を潤す大河「最上川」が海へと放たれる河口に栄えた港町で、藩政時代には、最上川で運ばれてくる内陸のコメを畿内へ搬出する集散地としても賑わった街でした。 酒田といえば有名なのは本間一族です。かつては「本間様には及びもせぬが、せめてなりたやお殿様」とまで言われた大豪商です。その豪商ぶりは、江戸時代にあっては三井家や住友家にも匹敵するほどでしたが、本間氏がユニークなのは、どちらかというと財を得た根幹に相場師的な側面があり、もしかしたら日本のファンド系の元祖かもしれないというところでしょうか。 私が初めて酒田市を訪れたのは20年くらい前になりますが、当時人口12万人の地方都市でした。私が住む宮城県には丁度性格が似通った石巻市がありますが、酒田が最上川という大河の河口港として発展したのと同様、石巻も北上川という大河の河口港として発展した都市でした。人口もほぼ同規模でしたので、初めて訪れる際には勝手に頭の中でそのイメージを抱いておりました。 ところが、訪れてみて驚きました。「これが本当に12万都市か」というほどの整然とした都市計画だったのです。県庁所在地くらいの風格があると言っても過言ではないのです。ただ、どうしても実際の人口そのものは12万程度ですので、なにしろ人影がまばらで、どこかアンバランスさを感じたのも正直なところです。実はこのアンバランスさは、この都市を襲った悲劇がもたらした産物だったのです。酒田は、私が訪れる10年も前に市街地全体が焼き尽くされるほどの大火に遭っていたのでした。そういえば過去にニュースで見たことを思い出しました。 伝統ある古くからの港町は木造家屋が密集しておりました。怒り狂ったような炎は、折からの海よりの強風に煽られ、激しさを強めながら東側に広がる市街地にあふれ出したのです。最早通常の消火方法ではおさまらないとされ、市民は、各自の思いが残る風下のマイホーム群を断腸の思いで解体し、ようやく延焼を食い止めたのです。酒田の都市計画は悲劇の上に成り立っていたのです。 再生酒田市は火災の経験を生かし、道路を拡張し、商店街のアーケードも、建物2階をオーバーハングさせ炎の道を極力つくらないように努め、延焼を食い止めるような工夫をほうぼうに凝らしたといいます。そんな都市計画の成果が実際の人口以上の都市のような錯覚を起こさせたのでしょう。 ところで、そんな酒田が古くから発展したことを考えるとき、いろいろな示唆を感じざるを得ません。 かつては陸路より圧倒的に海路が優れておりました。その意味で日本海側、特に酒田は東北地方で最も先進的な地域であったと考えられます。酒田は「砂潟」から変遷した地名だといい、現在の酒田市内は、蜂子皇子が由良海岸に漂着した頃には巨大な潟であったと考えられます。 20年前に酒田から「飛島(とびしま)」に渡ったとき、滅多に人が歩かない裏の海岸を歩くと、やたらハングル文字の製品が漂着していたことに驚いたことがあります。それが朝鮮半島から直接流れてきたものなのか、朝鮮の船から捨てられたものが流れていたものかはわかりません。 また、妙なメッセージの入ったカプセル――ビニール袋だったかもしれません――も拾いました。その中には北陸――たしか富山県――の小学生からのメッセージが入っており、学校の実験で海流調査をしているというのです。これを拾った方は拾った場所を明記の上記載の場所に郵送して欲しいということでした。私はこういうロマンがまんざら嫌いではないので――いや、大好きなので――、是非とも少年たちに喜んでもらいたく、賞賛の言葉を添えて返信しました。後日、丁重にテレフォンカードが贈られてきたことを覚えております。 飛島は暖流――対馬海流――の影響を受けて暖地系の植物も見られるなど、植生もバラエティに富みます。飛島から一番近い本土は秋田県なのですが、それほど北にある島にもかかわらず、不思議と山形県内で最も年間平均気温が高いのも特徴です。飛島は観光パンフレットにもあるとおり、まさに「不思議アイランド」なのです。 とにかく、この一帯が古代からヤマト人や大陸人が漂着しやすい場所であったことは想像するに難くなく、現在でも酒田人は関西に親しみを感じるといいます。
蜂子皇子も畿内脱出を図り、意図してかせずしてか、庄内の由良海岸に漂着したのでした。 |
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