はてノ鹽竈

東北地方から日本史を眺めていきます。

蜂子皇子伝承―出羽三山信仰の原点

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八乙女と海

 『羽黒古道ガイドブック』にも利用されている、鉢子部落の案内看板によれば、「行者塚(ぎょうじゃづか)」なるものが「蜂子皇子の墓とされている」とのことでした。
 しかし、ガイドブックの説明では“元羽黒”皇野地区にある「開山塚――現在は稲荷神社の祠あり――」が「蜂子皇子の墓と伝わっている」と、少々食い違いを見せております。
 さて、前者の「行者塚」は、ちょっとした円墳に見えます。案内看板には、石塔には梵字と「一世行者○海」の文字が刻印されている、とありました。この「海」の文字はとても思わせぶりです。
 日本全国に現存する24体の即身仏――ミイラ――のうち、驚くことにその半数に近い11体が湯殿山に関係するといいいます。
 特に、注連寺の「鉄門海上人」と、大日坊の「真如海上人」のミイラが有名ですが、いずれも“海”の一文字が含まれているのです。湯殿山は真言宗系統でしたから、弘法大師空海の一文字でも受け継いでいたのでしょうか。
 とすれば、鉢子部落は、天台系に寝返った天宥に反発した「真言系」の羽黒信仰本拠地だったのでしょうか。
 何はともあれ、何かヒントがないだろうかとしばし現地で考えてみました。
 ボーっと行者塚の石碑を眺めていると、「一世行者○海」の文字が意外なものに見えてまいりました。

行者塚
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慣れない技で拓本もどきにしてみました
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 もしやこれは、「一世行者“天”海」ではないでしょうか・・・・。まさか、あの徳川家康のブレーン「天海僧正」の墓ということは無いと思いますが・・・・。
――なんとなく、「泰澄」にも見えますが、それはしばし置いておきます――
 もし、天海になんらかの形で関係するとするならば、こちらが中興の祖天宥を育んだ、あるいは天宥が追放されたエリア、そして少なくとも江戸期には天台系であった可能性が高まることになります。

 後世、蜂子皇子と同一人物にされることとなる能除(のうじょ)大師は、やはり山形県の由良海岸に漂着したといいます。そしてそこで“八乙女(やおとめ)”――八人の乙女――の魅惑的(?)な舞に迎えられ、やがて、三本足の烏(からす)に導かれ、羽黒山に登ったといいます。
 三本足のカラスとは中国において太陽の中に住むとされる「金烏(きんう)」のことを指しているとも考えられますが、ここにわざわざ八乙女という8の数字が付加されていることから、「八咫鳥(やたがらす)」――熊野で神武天皇を導いたカラス――の示唆と考えた方が適当かもしれません。

羽黒山にある三本足カラスのオブジェ
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 さて、この由良の海岸には、その故事にならってか、あるいはその故事の元になったものか“八乙女”と呼ばれる伝説の“神穴”――洞窟――があると伝えられております。
 この穴は、なんと羽黒山本殿下の神穴、あるいは本殿前の鏡池――御手洗池――と地下で通じているというのです。
 もちろんそれを確認したというような考古学的な調査結果は特に見たこともなく、伝承の域を出るものではありません。
 ただ私はひとつの想像として、かつて酒田が砂潟と呼ばれ、“潟”であったという事実から、羽黒山と八乙女が水路つながり――あるいは潟湖の両対岸――であったことに因むのではないか、と思うのです。
 潟ないし潟湖は、最上川が運んできた砂洲の堆積でもって現在のような立派な陸地と化しましたが、地面の下にはまだ湖が眠っている、とでも信じられてきたのではないのでしょうか。鏡池が現在の境内のものか、それとも鉢子集落付近の元羽黒「皇野」にあったとされる「御手洗池」なのかが気になるところではありますが・・・。
 いずれにせよ、羽黒山と海の間には切っても切れない縁があるようです。

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