はてノ鹽竈

東北地方から日本史を眺めていきます。

トビの一族

[ リスト ]

 永井豪さんの超傑作漫画に『デビルマン』という作品がありました。
 テレビアニメーション版は子供向けなので比較的楽な気持ちで観ていられますが、原作の連載漫画版は――少年向けのはずですが――あまりに生々しく、人間誰しもの心の中に潜むどうにも救われない本質を鋭く抉(えぐ)っております。変な話し、読後感がとても不愉快になってしまうほど、実に“見事な作品”でした。
 さて、原作漫画は別として、アニメーション版では、個人としての主人公デビルマンが、自らはデーモン――悪魔――であるにもかかわらず、人間の愛に触れたことをきっかけにそれを裏切り、人間に危害を加えるかつての仲間と対峙する、という物語でした。
 実は、奥州藤原氏も、蝦夷(えみし)の愛に触れた官人の裏切りによって誕生します。
 その官人こそはまさに蝦夷にとっての正義のデビルマン、藤原経清(つねきよ)です。
 経清は、どんな理由でかわかりませんが、「亘理(わたり)権大夫」という官職を得て陸奥国亘理郡――宮城県亘理郡――のリーダーとして赴任しておりました。亘理の豪族出身だったのではないか、と言われる一方で、史料によっては「散位藤原朝臣(あそん)」などという記録もあり、この当時、陸奥の地で朝臣を名乗っているのは国司ら上級官人がほとんどですから、経清はよほど格の高い高級官僚であったことも想像出来ます。

藤原経清の本拠と考えられる亘理郡衙跡及び三十三間堂跡
イメージ 1
イメージ 2
イメージ 3

 経清が亘理に赴任(?)していた11世紀中頃は、アテルイの乱からもだいぶ時を経て、陸奥国では「東夷の酋長」とも揶揄される豪族「安倍(あべ)氏」の勢力が幅を効かせておりました。
 とは言え、比較的平和だったようです。その証拠に、経清は酋長「安倍頼時(よりとき)」の娘を妻にし、また、亘理の隣、伊具(いぐ)郡の官人「平永衡(ながひら)」も、同様に安倍頼時の娘を妻にしておりました。これらは安倍氏の南下政策ととる向きもありますが、いずれ、朝廷側と俘囚側が友好的な状態であった証とは言えそうです。
 ところが、なんとか自分の任期中に安倍氏の領有財産を簒奪しておきたい歴代の陸奥の守なり国司なりは、陰に陽に安倍頼時を挑発しておりました。
 『陸奥話記』は安倍氏を征伐しようとした藤原登任(なりとう)の惨敗から始まっております。
 朝廷は、登任に代えて、武門の誉、源氏を陸奥国府の長として派遣しました。
 源頼義(よりよし)です。
 鼻息荒い源頼義でしたが、当の安倍頼時は恭順の意を示し続け、しかも、もともと「頼良(よりよし)」という名前だったものを、国司と同じ訓では恐れ多いとして、「頼時(よりとき)」と変名したほどで、全くもって源頼義に逆らう気配など見せませんでした。源頼義はさぞやきもきしていたことでしょう。
 そして、いよいよ源頼義の任期も終わろうとする頃、頼義にとってとても都合よく事件が起こります。あまりにタイミングが良すぎるので、頼義側の陰謀であったのでしょう。
『陸奥話記』には、おおよそ次のような顛末が語られております。

――意訳――
 酋長の安倍頼時は、国司である源頼義の任期の最後に、鎮守府――胆沢(いさわ)・安倍氏の本拠――にて平身低頭、最高のもてなしをして気持ちよく国府――多賀城――に帰しました。
 ところがその国府要人らの帰路を狙って、何者かが野宿中の藤原光貞らを襲撃し、人馬を殺傷してしまいました。
 その情報を聞いた源頼義は怒り、被害者の藤原光貞を呼んで容疑者の確認をすると、安倍頼時の息子、貞任(さだとう)だと言うのです。
 貞任は、かつて藤原光貞の妹を娶ろうとしていたらしいのですが、光貞が安倍一族の卑しい身分を理由にそれを許さず、貞任はそれを屈辱として恨んでいたというのです。
 源頼義は激昂し、安倍頼時に対し、息子貞任を処罰するように要求しました。
 ところが安倍頼時は
「貞任がいかに愚かと言えども、我が息子は差し出せない、それで攻めてくるというなら、一緒に討ち死にするのもまたよいではないか」
と親族に洩らし、親族もそれに賛成しました。

 結局、頼時は貞任の処罰を拒否したので、ここに源頼義は大義名分をもって安倍氏討伐に軍勢を動かしたのです。
 もちろん、その討伐軍の中には藤原経清も平永衡もおりました。
 ところが、その際平永衡が、安倍氏から賜った銀の兜をかぶって進軍していたので、源頼義は
「永衡は安倍氏と通じているに違いない」
と断罪し、斬首してしまいました。
 それを知り、最もショックを受けたのは藤原経清だったことでしょう。
 永衡同様、安倍氏の娘を妻に持つ経清は、明日は我が身か、と考えたかもしれませんが、まがりなりにも権大夫――五位相当――の経清は、つまりは朝廷の高級官僚ですので永衡のように斬首されることはなかったと思われます。なにしろ格としては国司である源頼義に比べてもさほど遜色ありません。
 したがってここで経清のとるべき方法としては、安倍氏の女である妻と離縁をすることでしょう。それをもって身の潔白を証明すれば、特にそれ以上の追求もなかったことでしょう。
 ところが、藤原経清は全く逆の行動をとりました。
 源頼義との縁と名誉を捨てたのです。つまり朝廷への裏切りです。
 名門藤原氏の名前に泥がつくことも顧みず、あえて卑しい蝦夷の酋長側に寝返り、安倍氏と共に源頼義率いる朝廷軍に刃を向けました。
 経清は妻との愛を優先したのです。
 まさにデビルマンです。
 そして、「黄海(きのみ)の戦い」と呼ばれる戦にて、見事に源氏が率いる官軍を撃破してしまったのでした。

閉じる コメント(2)

顔アイコン

なんか、アッパレ!!って言いたくなります。
こういうお話をうかがいますと、蝦夷の側を応援したくなります(笑)へんでしょうか(汗)

2009/6/5(金) 午後 9:42 [ - ]

顔アイコン

いえいえ、全然へんではございません。私はむしろあまり蝦夷に感情移入し過ぎないよう気をつけているくらいです(笑)
それにしても、この裏切りがなければ奥州藤原氏なども生まれようがなかったのですから、歴史とはわからないものですね。

2009/6/5(金) 午後 10:19 今野政明


.

ブログバナー

検索 検索
今野政明
今野政明
男性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
10/31まで秋の行楽キャンペーン実施中

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事